最終回の寄稿にあたって…
本稿は、2008年11月~2009年6月の連載「"PM力"向上に効く、12のレッスン(全14回/執筆: 鷺島淳一、監修: 篠昌孝)」に続き、2009年7月から約7ヶ月に渡って連載してきた"PM力"向上のための追加レッスン(実践編)の最終回である。
本連載では、実戦力を高めるのに役立つ情報を、ケーススタディとしてリレー形式で紹介してきた。6つのケーススタディを解説した執筆者は、何れも、弊社の現役PMであり、第一線で活躍している者たちである。彼らの実体験にもとづく内容だったということで、きっと読者諸兄にも、ご満足いただける内容になったのではないかと自負している。
さて、最終回となる本稿では、当連載の前編となる12のレッスン(理論編)も含めた総括として、「失敗しないプロジェクトマネジメントのポイント」について、お話しようと思う。
プロジェクトマネジメントのフレームワークは必須
今回の連載では、『プロジェクトマネジメントの遂行に当たっては、何らかのフレームワーク(PM体系)を利用するべき』と、強くお勧めしてきた。度々紹介させていただいた通り、弊社では、PMBOK準拠の弊社方法論(PMM ※1/図1)をベースとした、フレームワークを使うことをプロジェクトに義務付けている。
※1 PMM : Hitachi Consulting Program/Project Management Methodology
このようなフレームワークを使用することで、管理の効率性は格段に上がり、品質の維持や納期・予算の遵守といったプロジェクトの成功に向けた目的を達成するための、ベースができあがる。「そんなこと言っても、冗長な管理手法は、手間を増やすだけで、限られた要員リソースで運営しているプロジェクトではやっていられないよ!」といった一部読者の声も聞こえそうだが、何の管理手法も持たずに、行き当たりばったりの管理をしていては、成功するどころか、必ず失敗するだろう。
これを機会に、読者諸兄においても、フレームワークの活用を心がけていただきたい。
また選択したフレームワークの中から、プロジェクトのサイズや特性に応じた取捨選択を行うテラーリングの考え方については、当連載前編(上述)の12のレッスンでも紹介している。未読の方には是非、ご一読いただければと思う。
加えて、弊社では、このフレームワークを簡単に活用できるよう、各管理領域の標準タスクチャートやインプット・アウトプット情報の定義、その定義成果物作成用のテンプレートやサンプル群をパッケージングしたツール(図2/図3)を用意して、弊社のコンサルタントに提供している。
読者諸兄においても、まだ、フレームワークの活用が不十分であれば、市販ツールや、自社の過去実績として蓄積されている成果物を標準化して再利用するなど、管理体系の整備を進められることを、是非お願いしたい。
結局のところ、これまで連載してきた12のレッスンや、6つのケーススタディは、このようなフレームワークを活用することを是とするものである。前述のように、該当プロジェクトの特性により、活用度合いの軽重はありえるが、プロジェクトマネジメントのベース(管理体系)が、しっかり備わっていることが重要である。
プロジェクトを成功させるPMとは?
さて、当連載における6つのケーススタディでは、「1. PMO(Program Management Office)としてのミッションコントロール」、「2. コミュニケーション管理」、「3. チームマネジメント(モチベーション管理)」、「4. 品質維持管理」「5. 予算・実績管理/EVM(Earned Value Management)」、「6. プロジェクトの立て直し」といった視点での事例を解説してきたが、これらは、何れもPMBOKの管理領域である 統合管理、スコープ管理、コミュニケーション管理、リソース管理、品質管理等にマッピング可能であり、リスク管理、スケジュール管理といった他の管理領域との複合的管理により、問題解決をはかってきた事例でもある。
これらの事例を通して解説してきたように、プロジェクトにおける失敗や難局は、つきものである。従って、致命的な失敗をしないため、または失敗を未然に防止するために、管理体系を整備して、管理作業の抜け洩れ防止をはかるのである。
とは言え、いくら失敗をしないために管理体系を整備しても、プロジェクトマネジメントを実行するPMに、十分な能力がなければ、何にもならない。
それほど、プロジェクト遂行におけるPMの手腕は重要である。そのことを認識しているからこそ、"PM力向上"を旗頭に、理論編・実践編の連載をさせていただいてきたわけである。
では、改めて問うが、PMに求められる資質とは何だろうか? 筆者は、PMとは会社の経営者に等しいと考えている。
まさに、プロジェクトとは会社経営そのものである。予算という名の資本を準備したら、要員リソースという名の社員管理を行い、バグという名の製品瑕疵に対する対処を行いながら、製品リリースへ向けた、予算管理・進捗管理・リスク管理等を実行していく。また、時には、社員の不平不満や、取引先のミスに対応したコミュニケーション管理を行うなどプロジェクトマネジメントを会社経営になぞらえれば、例示の枚挙には暇がない。
このように考えると、PMには、強い精神力とリーダーシップが必要不可欠である。会社(プロジェクト)の舵取りをする社長(PM)が、ちょっとしたことでモチベーションをなくしていては、付き従う社員(プロジェクトメンバー)にとっては、お話にならない。 それでは、PMには、学生の頃からいつもリーダー役を買って出ているような、元々、他人をまとめるのが上手な人間しかなりえないのだろうか?
「他人前に出ると結構あがってしまうし、そもそも、他人を説得するのって苦手なんだよなぁ。こんな自分には、やはりPMなんて無理なのかな? 」と考えている読者の方がいたら、ご安心願いたい。リーダーシップは天性の資質ではない。幸運にも、リーダーシップを持って生まれた方もいらっしゃるかも知れないが、リーダーシップは、誰でも後から磨くことができる。
そして、今回、この連載を読まれた方は、先ずは知識という意味では、PMとしてのリーダーシップ確立に一歩も二歩も近づいたといえるだろう。
リーダーシップを磨くための手法やテクニックについては、いつかまた機会があれば、お話させていただきたいものだが、今回は、読者諸兄の"PM力向上"を祈念しつつ、これで筆をおかせていただく。理論編と合わせると28回もの連載にお付き合いいただき、心よりお礼申し上げる。
執筆者紹介
篠昌孝(SHINO Masataka) - 日立コンサルティング ディレクター
国内最大手のファイナンシャルグループで、BPRプロジェクトや、数多くのEコマース構築プロジェクトにて、PMを歴任。2001年に外資系大手コンサルティングファームに入社、主にERP導入や、SOA技術を駆使した大規模SIプロジェクトを成功に導いた。同社のパートナー職を経て、2007年より現職。