リスク・課題管理とは?
『リスク・課題管理』とは、PMBOK準拠の弊社プロジェクト管理方法論PMM※1で定義されている、プロジェクトマネジメントの管理領域の1つである。計画フェーズにおいてリスクの識別と対策の検討や課題管理の計画を立案し、後続フェーズにおいてリスク監視や発生課題の解決などのリスクおよび課題に関する管理業務を実施する。
※1 Hitachi Consulting Project Management Methodology
今回はこのリスク・課題管理についてのお話である。
リスク管理は大人のプロジェクトマネジメント
最初にリスク管理と課題管理の違いを整理しておこう。簡単にいえば、問題が発生する前に予防策を考えるのがリスク管理であり、問題が発生した後に対応策を考えるのが課題管理である。プロジェクトマネジャーによっては「課題管理は必須、リスク管理はオプション」としている場合が多いようだが、本当にそれで良いのだろうか? まずはリスク管理の意義について再確認していくことにする。
リスク管理を実施しないプロジェクトにおいては、全てが予定通りに上手くいく、いわゆる"最善のシナリオ"を前提にプロジェクトが計画されている。トラブルは起こらない。もし起こったとしても可及的速やかに解決すれば良い。そんな考え方に基づくプロジェクトマネジメントスタイルである。
しかし実際はどうだろうか? プロジェクトにトラブルはつきものである。自分の担当するプロジェクトだけはトラブルが起こらない、と考えるのはあまりに楽観的である。トラブルは起こるものという考え方を基本として、起こりうるトラブルや"最悪のシナリオ"を予め考え、必要な備えを怠らないことが必要である。備えあれば憂いなし。考えるのが嫌なことでも正面から向き合い、慌てず騒がずトラブルを乗り切っていく姿勢が、"リスク管理は大人のプロジェクトマネジメント"と言われる所以ではなかろうか。
リスク管理が重要なのは、品質管理にあてはめて考えてみると良くわかる。問題は発生してから対応するより、事前に対応したほうがコストは少なくて済むのである。予防重視の視点でプロジェクトの成果物を考えるのが品質管理の真髄であれば、同じ予防重視の視点でプロジェクトそのものを考えるのがリスク管理である。
リスク管理自体は何も難しい話ではない。実際、プロジェクトのスケジュール作成において進捗遅延の可能性を考えてバッファを積むことは良くあるが、これも一種のリスク管理である。全てのリスクに対して網羅的に管理していかなければいけないと考えるからハードルが高くなる。プロジェクト全体を俯瞰しつつ、発生時のインパクトが大きいと思われるリスクを重点的に管理していけば良いのである。
最後にリスク管理のポイントをご紹介する。それはプロジェクト開始時に、リスク対策に必要なコストを予め予備費として確保しておくことである。リスク管理はプロジェクトの成功に不可欠である。予備費を惜しんだ結果として、プロジェクトが失敗してしまっては目も当てられない。プロジェクトに対する"保険"として予備費をきちんと確保しておくことを強く推奨する。
課題管理のポイント
リスク管理に比べて課題管理はイメージしやすいテーマである。発生した問題に対して、解決しなればいけない課題を認識し、対応策を検討して作業担当者を割り当てる。あとは作業状況を監視することと、作業結果によって課題が解決されたことを確認することが、課題管理における主な作業である。プロジェクトマネジメントにおける必須の管理項目であり、プロジェクトが完了するまで実施されていくものである。
今回は複数のベンダーが参画するプロジェクトにおける課題管理のポイントについて紹介したい。プロジェクトの規模や複雑度が増せば増すほど、プロジェクトに参画するベンダーの数は増える。当然、課題も増えるわけだが、これらの課題を効果的に管理していくためにはどのようにすれば良いだろうか?
各ベンダーは自社が関与する領域(例えばサブシステム)に関してきっちりとした課題管理を実施するという前提において、マルチベンダープロジェクトにおける課題管理のポイントは『ベンダー間やサブシステム間を跨る横断的な課題に如何に対応するか』である。このような課題は各ベンダーの視点では見落としやすく、また問題として顕在化した場合も責任範囲が曖昧になりやすい。いわゆる"ポテンヒット"のリスクが高い。
このリスクに対しては、プロジェクト横断型の組織(例: PMO※2)を設置し、プロジェクトの全体課題管理を担当させることが有効である。同組織が、自らが発見・抽出した全体課題や、各ベンダーやサブシステム担当がエスカレーションした全体課題を一覧管理し、課題解決案を策定し、適切な担当者を割当て、期限遵守の徹底を図る。特にプロジェクトの規模が大きくなればなるほど、横断的な課題についての当事者意識が希薄になりがちである。同組織の重要性を強く認識し、全体の交通整理役として機能させることこそが、プロジェクト全体の課題管理を上手く行う秘訣である。
※2 Program/Project Management Office