HCMとは?

HCM※1とは社員の能力を最大限に引き出すための仕組みであり、プロジェクトマネジメントの構成要素を組織視点で整理したときの一翼を担う。HCM自体は、自社のビジョンや経営目標の達成に向けて必要となる人材の確保~育成~活用を中長期的視点で実践していこうという取り組みであるが、プロジェクトの重要性が強く認識される今日では、優先課題の1つに優秀なプロジェクトマネジャーの確保~育成が挙げられることが多い。

※1 Human Capital Management

図1: プロジェクトマネジメントに関する構成要素 ~ HCM

今回はこのHCMについて、特にプロジェクトマネジャーの育成についてのお話である。

育成に必要な4つの観点

優秀なプロジェクトマネジャーを確保する上で手っ取り早い方法は市場からの調達である。ただプロジェクトマネジャー不足は各社共通の課題である。優秀な人材は市場に登場することが少なく、また希少価値が高い分、買い手としては厳しい競争となるであろう。よって現実解としては「自社の要員を如何にプロジェクトマネジャーとして育てていくか?」という視点で考えていくしかない。

ではプロジェクトマネジャー育成においては、何に着目し、どのような育成プランを描いたら良いのだろうか? 優秀なPMの構成要素を分解すると『(1)行動特性(Competency)』『(2)知識(Knowledge)』『(3)技能(Skill)』『(4)経験(Experience)』の4つとなる。よって育成プランの作成においては、対象となる要員に対し、『(4)経験』を除く3つの構成要素をいかに満たしていくか? という観点が必要になる。

では個々の構成要素について深堀していこう。まず『(1)行動特性』であるが、これはある職務に対して優秀な成績を挙げる要因となる特性のことである。プロジェクトマネジャーであれば、責任感・誠実さ・公平性・課題解決力・広い視野・リーダーシップなどが挙げられる。これらの特性は個人の資質としてある程度備わっていることが望ましく、プロジェクトマネジャー候補となる要員選びにおいて注視すべきポイントである。

次に『(2)知識』であるが、プロジェクトマネジメント領域においては、ベストプラクティスとしての知識体系が存在する(PMBOK※2)。PMBOKに基づくトレーニングコースも多く提供されているので、要員のレベルに合ったトレーニングコースを選定し、育成プランに組み込むと良い。業界標準であるPMBOKを理解しておくことで、プロジェクトマネジメントに関わるメンバー間でのコミュニケーションがより効率的に行えるようになる。

※2 Project Management Body of Knowledge

最後に『(3)技能』であるが、こればかりは現場で磨くしかない。優秀なプロジェクトマネジャーのサポートが受けられる状態で、例えば小さなプロジェクトチームを担当させたり、PMO※3の1要員として幾つかの管理領域を担当させたりすることで、段階的なスキルアップを図っていくしかない。育成効率を向上させるためには、プロジェクトマネジャー候補生が習得したスキルをHCMとして管理していくなどの工夫も必要である。

※3 Program/Project Management Office

以上が、要員個々に対する"PM力"向上のためのHCM的アプローチである。HCMの観点で付け加えると、可能であればキャリアの1つとしてプロジェクトマネジャーを位置づけ、自社公認のキャリアパスとして確立しておきたい。プロジェクトマネジャーは常に困難に立ち向かうポジションである。処遇も含めて検討しておかないと、労多くて役少なし、と"担い手"不足に陥る可能性もあるので注意が必要である。

自らが成長する環境づくり

前章では要員を育成するためのアプローチを紹介してきたが、本章では育成されたプロジェクトマネジャーに対する更なる育成アプローチについて紹介していきたい。

プロジェクトマネジャーがより優秀なプロジェクトマネジャーに進化するためには、やはり前述の『(1)行動特性』『(2)知識』『(3)技能』そして『(4)経験』を磨いていくほかないが、育成アプローチ自体は異なるものとなる。プロジェクトマネジャーになるための育成アプローチはいわゆる教育であり、知識や技能を得るための環境が外から与えられる。対してプロジェクトマネジャーになった後の育成アプローチは逆で、自らが成長するという意思を持たせるとともに、自己研鑽の環境を提供することが重要となる。

例えば筆者が所属するコンサルティングファームでは、社内にプロジェクトマネジャーのコミュニティを設置している。定期的に開催される勉強会では、参加者がプロジェクトの現場で培った知識や経験を披露しあい、相互研鑽に努めている。また"孤独な職業"と揶揄されるプロジェクトマネジャーにとって、同じ境遇の仲間と悩みを共有できる場としても本コミュニティは有効に機能していると考えている。是非、参考にしていただきたい。