プロジェクトマネジメントは何故、重要か?

継続的な価値向上を目指す企業は、常に「ビジネスの変革」を求められている。

企業戦略を事業戦略に展開し、事業戦略を達成するための業務改革を計画し、計画を実行して定着化を図り、結果を分析して次のアクションに繋げる。この一連の流れを繰り返していくことで企業価値を高めていくわけだが、今日のビジネス変革は「ITの活用」抜きに語ることはできない。「ビジネスの変革」と「ITの活用」を車の両輪のようにバランス良く回転させながら、改革を組織に定着化させ、継続的な企業価値向上を目指す必要がある。

図1: 継続的な企業価値向上を実現するためのアプローチ ~ Zモデル

定常業務とは異なるこの一連の流れは、複数の「プロジェクト」で構成されることが多い。次期企業戦略立案プロジェクトやCRMシステム導入による営業改革プロジェクトなど名称や単位は様々だが、一連のプロジェクトを成功し続けていくことこそが、継続的な企業価値向上への近道といえる。

特にITプロジェクトにおけるプロジェクトマネジメントの重要性は増すばかりである。かつてシステムインテグレーターを中心に重要性が認識されていた領域も、今日ではユーザー企業でも優先課題の1つに挙げられるようになった。事実、JAUS※1による『企業動向調査2007』の結果によれば、ユーザー企業の53%がプロジェクトマネジメントは必要な能力であると認識し、71%の企業が能力不足であると認めている。

※1 社団法人日本情報システム・ユーザー協会

では、どのように"PM力"を高めていけば良いのだろうか?そのヒントを提供するのが本連載のテーマである。

筆者が所属する日立コンサルティングは、前述のZモデルに示されるように、事業戦略立案等のビジネスコンサルティングに留まらず、業務改革を具現化するためのシステムインテグレーションまでを、日立グループ各社と協力しながら支援している。支援先となるユーザー企業の立場でプロジェクトマネジメントを行う場合もある。システムインテグレーターを中心としたプロジェクトマネジメント論では語られていなかったポイントを中核に、"PM力"向上に繋がる有益な情報を提供していけたらと思う。

"PM力"とは?

そもそも"PM力"とは何だろうか?

「プロジェクトマネジメント」の「力」である"PM力"には2つの側面がある。1つ目は「プロジェクトを率いるプロジェクトマネジャーとしての管理能力」、2つ目は「複数プロジェクトに対する組織的な管理能力」である。

"PM力"を向上させていくための第一歩として、まずはこの2つの側面について整理しておく。

まずは個人の視点として、プロジェクトマネジメントの構成要素を考えた場合、「プロジェクト」を下支えするのは「プロジェクトマネジャー」自身と「プロジェクト管理プロセス」である。

図2: プロジェクトマネジメントに関する構成要素 ~ 個人視点

プロジェクトを効率的に管理するために、プロジェクトマネジャーは何らかのプロジェクト管理プロセスを利用している。プロジェクト管理プロセスによってプロジェクトは仕組化される。そしてプロジェクトの統率を実際に経験することで、プロジェクトマネジャー自身が成長し、振り返りの結果に基づきプロジェクト管理プロセス自体が改善されていく。

次に組織の視点として、プロジェクトマネジメントの構成要素を考えてみよう。前述の構成要素を更に下支えする形で「IT」「PMO※2」「HCM※3」の各要素を位置づけることができる。

※2 Program/Project Management Office

※3 Human Capital Management

図3: プロジェクトマネジメントに関する構成要素 ~ 組織視点

この中で中核を担うのがPMOである。PMOの機能や形態は企業によって様々だが、プロジェクト管理プロセスの標準化やプロジェクトマネジャーへの支援、効率化のためのIT導入や人材育成の観点でHCMへ関与を行う。縁の下の力持ちとして、組織のプロジェクトマネジメントを支えるのがPMOである。

本連載のテーマである"PM力"向上は、前述の構成要素について強化を図る営みに他ならない。自分または自社の現状を正しく理解した上で、構成要素それぞれの成熟度向上を一歩ずつ地道に積み重ねていくことが必要である。

"PM力"向上に向けて

前述のとおり"PM力"向上に近道はない。"PM力"向上には向上に対する明確な意思(コミットメント)とたゆまぬ努力が必要である。一足跳びにはいかない"PM力"向上に向けて、本連載では「12のレッスン」と題して参考情報を提供していきたいと思っている。

具体的には、まず個人視点に特化して、プロジェクト管理プロセスおよびプロジェクトマネジャーに焦点を当てる。業界標準PMBOK※4をベースとした弊社方法論「PMM※5」を参考に、プロジェクトマネジャーが管理しなければいけない9つの管理領域について、現場エピソードを取り混ぜつつ解説していく予定である。

※4 Project Management Body of Knowledge

※5 Hitachi Consulting Project Management Methodology

図4: プロジェクト管理の9つの領域 ~ PMM より

その後、PMOを始めとする3つの組織的な構成要素についても解説していくことで、個人としての"PM力"向上と組織としての"PM力"向上に応えていく予定である。

本連載によって、一人でも多くの個人が、また一つでも多くの企業が、自身または自社の"PM力"向上に向けて取り組んでいただけるよう、筆者として有益な情報を提供できたらと考えている。次回以降の「12のレッスン」に期待していただきたい。