前回は製造業からエネルギー、医療・介護、人材、行政など多岐にわたる業界でのペーパレス化のメリットをご紹介しました。後編では、ペーパレス化の恩恵を大きく得られる不動産と保険業界におけるペーパレス化についてお話します。

不動産 - 入居者にも不動産屋にとってもメリットの大きい賃貸契約の電子化

不動産と一口に言っても、宅地・建物の売買から賃貸借、駐車場やトランクルームのレンタルまで、さまざまな形態があります。ここでは、建物賃貸借を例に挙げてペーパレス化の必要性について掘り下げていきます。

マンションやアパートを借りるときのことを思い浮かべてください。多くの方がネットで下調べした後、住みたい街の不動産屋に行くかと思います。

そこで入居申込書(紙)を手渡され、氏名、現住所、生年月日、勤務先、同居家族、もろもろの個人情報を記入します。以降、物件を内覧し、これだと思った物件が見つかれば入居審査を受けます。

昨今では、連帯保証人の代わりに家賃保証会社の利用が必須であることも多いため、その場合には家賃保証会社の審査申込書(紙)も記入します。審査をパスすると、重要事項説明書(同)と賃貸借契約書(同)、さらに家賃保証会社を利用する際には保証委託契約書(同)署名・捺印し、晴れて入居可能となります。

なお、家財保険やインターネットなどの付帯サービスに加入する際は、それぞれの専用申込書(紙)に、再び個人情報を記入します。

「なぜ同じことを何回も書かないといけないの?」と煩雑な作業に閉口される方も多いのではないでしょうか。また、提供した個人情報に対するセキュリティ対策がきちんとなされているか、気になるところです。

これらの処理をペーパレス化した場合、状況が一転します。入居申込から賃貸借契約まで紙で行っていたすべてのプロセスをデジタル化すると、紙の代わりに電子帳票を用いることで入力された電子データの捕捉が可能になります。

つまり、入居申込で提供された氏名、現住所、生年月日などの情報は、以降の契約書・申込書に自動転記が可能となるため、入居者の書類作成作業の負担が減り、時間も短縮されます。

不動産屋にとってもデジタル化の恩恵は多岐にわたります。紙や郵送費、書類の保管にかかっていたコスト削減をはじめ、紛失、置き忘れといったセキュリティ事故への対策、さらには入手した情報のシステムデータ登録作業の自動化までさまざまな恩恵があります。

1つ留意が必要なのが、宅地建物取引業法の第35条重要事項説明書、第37条建物賃貸借契約書への配慮です。

第2回でも触れましたが、これらは書面での交付が義務付けられているため、入居者の情報入力や捺印は電子データでの対応が可能ですが、最後は紙に印刷して渡す必要があります。

ただし、不動産業界において昨年10月に策定された家賃債務保証業者登録制度では、保証委託契約書は電子データでの交付を許容しています。昨今、データ改ざんのニュースが世間を騒がせている中で、紙より安全な電子データの活用を推進すべきという考えが後押しし、今後も宅建業法の書面交付も法的規制が緩和していくものと期待されています。

筆者はオーストラリアで賃貸借契約をしているのですが、今年4月の契約更新は電子署名サービスを利用し、国際郵便不要で日本から電子署名で手続きが完了し、改めてペーパレスの利便性を実感しました。

  • 電子署名のイメージ

    電子署名のイメージ

保険 - 保険金請求する場所に縛りがなくなり、渡航先からの保険金請求も可能に

次は保険業界のペーパレス化の必要性について紹介します。保険業法的には生命保険と損害保険に分けられますが、今回は後者を例にお話しします。

具体的には、海外旅行に行く際に加入する海外旅行傷害保険です。筆者も海外旅行中の病気や携行品盗難でお世話になったことがありますが、海外旅行傷害保険への加入に関しては、インターネットでの申し込みを受け付けている企業が大半で保険金請求は、いまだアナログな世界です。

例えば、海外旅行中に盗難に遭ったとしましょう。盗難品について、携行品保険金を請求するプロセスですが、渡航先、あるいは帰国した時点で保険会社に事故発生の一報を入れ、以降の請求手続きの説明を受けます。

保険金請求書(紙)を契約書住所に送付し、保険金振込先金融機関情報を含む必要事項の記入・捺印をして返信した上で、保険会社で審査を実施した後、審査が通れば保険金が支払われる、という流れが一般的です。

この海外旅行損害保険では3つの問題があります。第1は、保険金支払いまで時間がかかるという点です。保険金請求書の往復だけで、数日から1週間程度はかかります。

第2は、保険会社スタッフの手間です。保険金請求書と送付状を印刷して封入、郵送、保険金請求者からの返送時には請求書の記載内容を確認し、記入漏れがあれば請求者に再送を依頼ということになり、内容に問題がなければシステムに手動でデータ登録、ようやく審査となります。

第3は、保険金請求書に記載された金融機関情報を含む個人情報のセキュリティ対策です。

この保険金請求プロセスをペーパレス化すれば、保険金請求する場所に一切の縛りがなくなり保険加入者は渡航先からスマホで保険金請求することも可能になります。また、書類の郵送時間は電子メールのやり取りに置き換えられるため、おおよそゼロに等しく、結果として保険金支払いまでの時間が短縮されます。

渡航先で手続きが完了すれば、盗難の尾を引かず残りの旅程を楽しめますので、保険加入者の顧客満足度向上にも繋がることは間違いないでしょう。

一方、保険会社スタッフも電子帳票に記入漏れを防ぐチェック機能を具備することで請求書再送の大半を排除することができます。保険金請求書に記入されたデータはシステムへの自動登録が可能なため、これまで手動だったデータ転記作業も一切不要です。

さらに、電子データとして一連のやり取りが完結するため、紙の場合の紛失、置き忘れのようなセキュリティ事故のリスクも排除できるでしょう。


ドキュサイン・ジャパン シニア・セールス・エンジニア 山本 秀憲
ドキュサイン(DocuSign)は、電子署名とペーパレスソリューションのプラットフォームです。ドキュサインを使うことで、時間や場所、デバイスに関係なく、クラウドで文書を送信、署名、追跡、保存を可能とし、セキュアな環境の下、業務のペーパレス化を実現します。ドキュサイン・ジャパンは、米DocuSignの日本法人です。