いよいよ販売がスタートした大阪万博のチケット。このチケットがNFTとして流通するというニュースが流れ、Web3界隈が盛り上がりました。この「チケットをNFTとして流通させる」というコンセプトは長らく議論され、多くの実験的な取り組みが行われてきました。今回はこのホットなコンセプトの現状と未来を考察してみます。

「NFTチケットは不正転売防止に効く」は真っ赤なウソ

日経トレンディ「2023年ヒット予測ランキング」にランクインした「NFTチケット」。このコンセプトの発祥は意外にも古く、まだNFTという言葉すら一般的でなかった2018年にUEFA(ヨーロッパサッカー連盟)がヨーロッパリーグやスーパーカップなどで「ブロックチェーンチケット」を導入しています。

当時、ビットコインの高騰によりブロックチェーン技術に注目が集まるなか、日本でもGMOをはじめとするいくつかの企業が同様のサービスをリリースしています。

NFTチケットが取り上げられる際に必ずといっていいほど喧伝されるのが「不正転売や偽造チケットを防止できる」というメリットです。このような文言を見るたび、筆者は眉をひそめてしまいます。

NFTチケットが不正転売防止に効果的であるという主張は、「流通経路が記録される」というブロックチェーン技術の特長から来るものです。しかしブロックチェーンを使わなくても、サーバ内のチケット移動履歴はすべて記録可能ですし、好ましくない移動を制御することもできます。

不正転売がなくならない主な理由は、転売行為がサーバ内ではなく物理空間で行われているからです。転売ヤーはサーバから発券された後の紙チケットやスクリーンショット、あるいはスマートフォン端末そのものを流通させて不正転売を行っています。

この物理的なチケットの移動はサーバ内で記録することはできませんし、もちろんチケットデータがブロックチェーンに置き換わっても、不正転売や偽造のしやすさは一切変わりません。現在、チケット関連技術の有識者の間で不正転売や偽造防止施策として議論されているのは「顔認証」や「スマホに押印できるスタンプ」「動的QRコード」といった認証技術の話であり、データベース関連技術であるブロックチェーンが議題に挙がることはありません。

技術の黎明期に知識の不足による誤解が生じるのは仕方ありませんが、誤ったメリットが広まり、本当の価値が見過ごされてしまうのは残念なことです。

NFTチケットの本丸は「チケットの共通流通基盤」

NFTの最大の特徴はその流通性の高さです。現在、チケットデータは販売各社のサーバ内でまったく異なる構造で管理されています。そのためチケットデータの移動が必要な際には、メール本文に「X番~XX番のチケットを配券します」と書いて、販売各社の担当者が手入力で対応することが一般的です。

もしNFTチケットが一般化し、各社のチケットデータが共通のブロックチェーン基盤上で流通するようになれば、この手間は削減され、エンタメ業界の人手不足や労働問題に対して大きな効果が期待できます。これこそがチケットをNFT化することの本来のメリットです。

このメリットを実現するための最大の課題は「チケット販売各社の足並みを揃えること」。ブロックチェーンが注目を集めて以来、チケットに限らずあらゆる業界で「共通流通基盤」の構築を目指す動きがありましたが、この壁を突破した事例はまだ聞いたことがありません。

この挑戦は短期間で成果が出るものではありませんが、成功した際のインパクトは大きく、エンタメ業界としてもWeb3業界としても意義のあることと考えています。

NFTチケットの普及は「思い出の記録」から始まる?

このように課題が山積みなNFTチケットですが、個人的には比較的明るい未来を想像しています。

弊社はMOALA Ticketという電子チケットサービスを展開していますが、導入の過程で「紙が残らないのは寂しい」といったご意見を少なくない頻度で頂戴します。

この問題を解決するのが「応援証明NFT」(あるいは「NFTチケットの半券」)。来場者が電子チケットを使ってイベントや試合を観戦すると、その思い出がデジタルアルバム上にNFTとして記録されるという、利便性と思い出の双方を両立したサービスです。

個人的にNFTチケットは「思い出の記録」という方向から普及が進むのではないかと期待しています。

NFTチケットの未来を体験しよう

NFTチケットはブロックチェーンの黎明期から大きな注目を集めてきましたが、他の領域と同様に、継続的な活用には繋がっていないのが実状です。しかしながら未だに紙が大半を占めるチケット流通市場で発生しているさまざまな課題を解決しうる技術であることは間違いありません。

大阪万博のNFTチケットへの取り組みは、この領域の今後の発展を垣間見る機会になるかもしれません。ぜひ皆さまも未来のチケットの姿を体験しにいきましょう。