暗号資産バブルやNFTバブルの終焉とともに、Web3関連企業への投資は2022年初頭をピークに現在では3分の1以下に激減。世間的にもGenerative AIの台頭に取って代わられる形で、Web3は1年前には想像もできなかったほど明らかな幻滅期を迎えています。

しかしながら、「デジタル上で資産を流通させられる」というWeb3関連技術の本質的価値は一切色あせるものではありません。技術的な進化は着実に進み、より現実的に利用可能な水準へと着実に歩を進めています。向こう3~5年内には、多くの領域で十分に商用利用可能な水準まで技術的課題が解決され、Web3が急速に世界を変えていくことはまず間違いないです。

そして、そのとき花開くサービスはインターネットの黎明期を見る限り、多くのケースで一度失敗の烙印を押されたサービスモデルがその課題を乗り越えた先に成功をつかんだものであり、それゆえに未来予測は意外に簡単なものだと思います(もちろん、失敗したモデルがそのまま忘れ去られることも少なくありません)。

今後、複数回に分けてWeb3関連技術がエンタメ業界に対して行ってきた実験的なアプローチとそれらが直面した課題を見ていくことで、今後の推し活の未来を考えていきたいと思います。今回のテーマは、Web3の元祖とも言える暗号資産です。

暗号資産とエンタメの出会い

Web3関連技術が最初にエンターテインメント界に踏み入ったのは、主にビットコインを通じての支払いという形でした。

特に早かったのが米国の著名アーティスト「50セント」。自身のアルバムをビットコインで販売したのはなんと2014年、BitCoinがいまだ600ドルほどだったタイミングでした。現在は約28,000ドル(本稿執筆時点)ですから、彼が販売した700Bitcoinは当時の約45倍となる2000万ドル(約30億円)。BitCoin価格の高騰と共に、彼の成功は多くのアーティストと暗号資産の出会いを生み出しました。

スポーツ界でも2019年にNBAダラス・マーベリックスが熱狂的Web3支持者であるオーナー、マーク・キューバンが主導する形でグッズやチケットの販売や選手への支払いなどに暗号資産を利用。暗号資産決済者に対する割引キャンペーンなどの積極的な展開により一時は売上の6%を占めるなど、盛り上がりを見せました。

しかし、この盛り上がりは続いていません。このような取り組みがいまだ普及していない原因は、シンプルに暗号資産のボラティリティの高さにあると言い切ってよいでしょう。価格の変動が激しく、決済手段として成り立たなかったのです。

ステーブルコインの登場で一気に解決へ?

この問題は「ステーブルコイン」により解決されるものと考えられています。

「ステーブルコイン」は、法定通貨と価格が連動する暗号資産です。そのコンセプトは、暗号資産の革新的な利便性をそのままに、課題であるボラティリティを限りなく法定通貨に近い水準に近づけられると画期的です。

世界では米ドル連動のTether、USDTや中国政府が積極的に展開しているCBDCなどが代表例となります。

日本でも、2022年6月にステーブルコインのルールを定める改正資金決済法が成立しました。これを受けて、三菱UFJ信託銀行が主導するProgmat Coinが立ち上がるなど、いまだ課題は少なくないものの、解決の目処が立ちつつあります。

「ステーブルコイン」は、特に法定通貨が苦手とする送金や海外決済において強いニーズがあると考えられています。メタバース空間やNFTをはじめとした、オンライン上での商取引を起点に大きな地殻変動が起きると考えて差し支えないでしょう。

今回はWeb3とエンタメ業界の未来を占うにあたり、暗号資産とファントークンの取り組みが直面した課題と解決の方向性を考察しました。個人的には暗号資産はステーブルコインの普及と共に急速に一般化し、遠くない将来、エンタメ界はもちろんのこと、現在の決済サービスに取って代わるほどのインパクトを残すものと考えています。

次回はファントークンの可能性を考えていきたいと思います。