本連載は「組み込みエンジニア必須のスキル - オシロの基本を身に着ける」(2007年掲載)を改訂したものです。

波形を正しく観測するには、それに合わせたオシロスコープを使用する必要があります。今回は前回に引き続き、オシロスコープの選び方についてお話します。

最大入力電圧

測定対象の波形の大きさ(振幅)もオシロスコープの選択時に考慮しなければならない項目の1つです。多くのオシロスコープには、入力BNC端子の近くに電圧(200Vrms~300Vrmsくらい)が表示されています(写真1)。

写真1 多くのオシロスコープには、入力BNC端子の近くに最大入力電圧が表示されている - このオシロスコープの場合、最大入力電圧は300Vrms

この電圧は、オシロスコープに印加できる最大の電圧です。それより大きな電圧が印加されると、オシロスコープは壊れます。それでは仮に周波数帯域100MHzのオシロスコープに「300Vrms」と表示されていたとして、これに周波数100MHz、振幅300Vrmsの信号を入力したらどうなるでしょうか。

入力する信号は300Vrms以内だからオシロスコープは壊れないと思うかもしれません。しかし、これではオシロスコープは壊れてしまいます。300Vrmsは「最大入力電圧」と呼ばれ、入力できる電圧のうち、最大の電圧を表します。最大入力電圧は低い周波数帯域(約100kHzくらいより低い帯域)において実現されますが、許容できる入力電圧は高い周波数においてどんどん小さくなります。一般的に、3MHzを超えると13Vくらいにまで低下します。これを「デレーティング特性」(図1)といいます。

図1 デレーティング特性

それでは、高い周波数の大きな電圧を観測するにはどうすればよいのでしょうか。その答えはプローブにあります。プローブには多くの種類があり、高電圧プローブという種類のプローブをオシロスコープと併用すれば、測定できる電圧範囲を拡大することができます。このプローブにも同様なデレーティング特性がありますが、オシロスコープのみの場合より大きな電圧が測定できるようになります。写真2は、10MHzで4kVピークが測定できる高電圧プローブの一例です。

写真2 10MHzで4kVピークが測定できる高電圧プローブの一例

最高感度

測定対象の波形の小ささ(振幅)もオシロスコープの選択時に考慮しなければならない項目です。測定する波形の振幅が小さいときは、できる限り高感度のオシロスコープを選ぶ必要があります。どの程度小さな波形をどの程度大きく画面に表示できるかは、「垂直軸感度」という仕様に示されています。この値が小さければ小さいほど、小さな波形を測定できます。

垂直軸感度は一般に、数mV/div程度です。仮に1mV/divだとすると、1mVの大きさの波形は1目盛分(画面には普通8目盛ある)の振幅で画面に表示されます。しかし1目盛分の振幅は測定に際して十分な大きさとはいえません。本連載の第4回目でも述べたように、振幅はできる限り大きく、できれば画面いっぱいに表示したいところです。しかし画面いっぱいに表示できない小さな波形を測定しなくてはならない場合、ノイズを低減する機能があれば、非常に効果的です。こういったときに有効な機能である「アベレージ機能」や「ハイレゾリューション機能」の有無もオシロスコープ選択の要素の一つです。

差動入力

測定対象の波形がGND(グランドまたはアースとも呼ぶ)を基準にした波形であるかどうかもオシロスコープ選択に際して考慮しなければなりません。一般的なオシロスコープは複数のチャネルを持ちますが、その入力端子の外側金属部は互いに接続されており、さらにGNDに落とされて(接続されて)います(図2)。

図2 一般にオシロスコープの入力端子の外側金属部は互いに接続されており、さらにGNDに接続されている

複数の波形を1台のオシロスコープで観測するということは、すべての波形の基準を互いに接続したうえ、それをGNDに落とす(接続する)ことに他なりません。波形の基準がGNDに落とされるわけなので、そもそもオシロスコープに接続する波形はGNDを基準にした波形でなくてはなりません。それでは基準がGNDではなく、ある電位をもつ場合は波形がオシロスコープでは測れないのでしょうか。いいえ、ご安心ください。そのような波形の観測にはいくつかの方法があります。その1つとして、各チャネル間が絶縁された特殊なオシロスコープを使うという方法もあります(図3、写真3)。

図3 基準がGNDではなく、ある電位をもつ場合には、各チャネル間が絶縁された特殊なオシロスコープを使う

写真3 各チャネル間が絶縁されたオシロスコープの一例(Tektronix製「TPS2000」シリーズ)

例えば、図4に示すような方法では、基準電圧が最大600Vrmsまでの測定が行えます(図4)。

図4 特殊なオシロスコープ(フローティング専用のオシロスコープ)を使い、基準電圧が最大600Vrmsまでの測定を可能にする例

ほかの方法もあります。それは、普通のオシロスコープと差動プローブ(写真4)を組み合わせる方法です。基準電位が±35V以内ならシグナルインテグリティに優れた差動プローブが使えます。

写真4 差動プローブの一例(Tektronix製「TDP1000」)

また、基準電圧が±35Vを超える場合には、さらに高い電圧に対応した高電圧差動プローブ(写真5、図5)もあります。

写真5 高電圧差動プローブの一例(Tektronix製「P5205A」) 

図5 専用のプローブを用いた例

測定チャネル数

波形をいくつ観測する必要があるかについても、オシロスコープの選択時に考慮しなくてはなりません。ほとんどのオシロスコープは観測できるチャネル数が2つか4つです。しかし、対象となる波形が0か1のデジタル値を取るロジック信号ならば、さらに16個程の波形を追加観測が可能なものがあります。

多チャネルの波形観測には、普通の2個か4個のアナログ入力部に加え、新たな16個のデジタル入力部を持ち、合わせて20個くらいの波形観測が可能な「ミックスドシグナルオシロスコープ」(写真6)と呼ばれるオシロスコープを選択の候補としてください。

写真6 ミックスドシグナルオシロスコープの一例(Tektronix製「MSO2000」シリーズ)

他の測定器との統合

実際に現場では、オシロスコープと併用する形で他の測定器を同時使用することがあります。上記の「ミックスドシグナルオシロスコープ」はロジックアナライザを併用する現場の声を製品化したものですが、スペクトラムアナライザを併用する現場の声に応え、「ミックスドドメインオシロスコープ」が誕生しました。オシロスコープにスペクトラムアナライザを内蔵することにより、利便性を図り、設計・製造における問題箇所発見の強力なツールとなります。

写真7 ミックスドドメインオシロスコープの一例(Tektronix製「MDO4000C」シリーズ)

第1回からここまで、オシロスコープの基本的な話をしてきました。次回はオシロスコープを使った測定の実例について述べていきます。測定の実例を知ることにより、オシロスコープは単なる波形表示装置ではなく、技術者の直面する問題を解決する強力なツールであることが分かることでしょう。お楽しみに。

稲垣 正一郎(いながき・しょういちろう)

東洋計測器
前職ではテクトロニクス社にて10年にわたりテクニカルサポートセンター長を務めた。