本連載は「組み込みエンジニア必須のスキル - オシロの基本を身に着ける」(2007年掲載)を改訂したものです。
オシロスコープで波形を正確に測定を行い正確な結果を得るためには、知っておかなければならないポイントがあります。高性能をうたったオシロスコープを用いても、これらのポイントを外すと正しい測定ができません。今回は、そういった注意点について述べていきます。
波形は画面に大きく表示する
オシロスコープで測定を行う際には、波形を画面をいっぱいに使って表示することが大事です。デジタルカメラのデジタルズームを例にとりましょう。ご存知かもしれませんが、デジタルズーム機能を使用すると、画質は悪化します。その理由は、デジタルズームはCCDの画素全体に使わず、その一部しか使わないからです。つまり、見た目で画像サイズが小さくならないよう、ひとつ1つの画素を大きく表示して水増ししているのです。
オシロスコープにおいても、このデジタルズーム機能を使ったときと同じことが起きます。複数の波形を画面に表示するとき、互いが重なり合う表示を嫌って、それぞれの振幅を小さくして、縦に並べることがあります。表示としては「良い」のですが、測定の精度を問う場合には「良くない」ことを知っておく必要があります。精度良く測定したい場合は、波形を画面いっぱいに表示してください(図1)。
波形同士が重なり合ってチャネルの見分けに苦労する場合は、各チャネルごとに異なる色を使う「カラーオシロスコープ」が便利です。
サンプリングポイントの数を増やして波形を取り込む
オシロスコープの波形は線で表現されます。そのため、なかなか気付きにくいのですが、実は多数の点(サンプリングポイント)とその間をつなぐ線で構成されています。基本的に線はサンプリングポイントとサンプリングポイントをつないでいるだけなので、波形をいかに正確に表示できるかは、サンプリングポイントの数に直結します(図2)。
高速に波形を取り込む
多くのサンプリングポイントを得るには、波形をデジタル化する速度(サンプリングレート)を速くします。多くのサンプリングポイントを得て描かれた波形はデジタル化される前の元波形に近いので、正確な測定が行えます(図3)。
図3-1 サンプリングポイント数を増やすためにはサンプリングレートを高くする - 20ns間隔で測定した場合よりも2ns間隔で測定した場合のほうがサンプリングポイントは多くなり、より正確な測定が行える |
図3-2 サンプリングポイント数を増やすためにはサンプリングレートを高くする - 低サンプルレートで測定した場合よりも高サンプリングレートで測定した場合のほうがサンプリングポイントは多くなり、より正確なさ測定が行える |
ここで注意すべき点があります。それは、サンプリングレートと観測できる時間は反比例の関係にあるということです。サンプリングレートを速くした場合、観測できる時間幅が短くなるのです。(図3-2の最下部波形を参照)
それでは、高速なサンプリングレートを行いつつも長い観測時間幅を実現し、正確な測定を行いたいといった場合はどうすればよいのでしょうか。そういうときには、長いレコード長(メモリ長)を使います。これらの間には、
の関係があります。むやみに長いレコード長にすることはお勧めしません。上記の関係式を用いて、必要な長さのレコード長にすることが賢明です。
エイリアシングを防ぐ
ここまでは、ある周波数の波形をそれより速いサンプリングレートで取り込む(サンプリング)することを前提に話を進めてきました。逆に、ある周波数の波形をそれよりも遅いサンプリングレートでサンプリングした場合、何が起こるでしょうか。
このとき、「エイリアシング」と呼ばれるだまし絵のような現象が起こります。図4のように元の波形(入力信号)と相似した、より低い周波数の波形が出現します。
このエイリアシング波形を表示してしまっては、正確な測定など望むべくもありません。この現象を出現させないことが肝心です。そのためのポイントは3つあります。1つ目はDPO(Digital Phosphor Oscilloscope)と呼ばれるオシロスコープを使うことです。高速タイプのDPOはエイリアシングを起こしません。
2つ目は見知らぬ信号を表示するときに時間軸ツマミを一度右に回し切った後、左向きに回しながら望む設定を探すことです。そして3つ目はエンベロープ取り込み機能、またはピーク検出取り込み機能を使って、画面に表示された波形が塗りつぶされるかどうかを確認することです(図5)。このとき、もしもエイリアシングならば塗りつぶされます。
プローブに関する注意事項
本連載第2回目でも述べた「プローブ」についても重要なノウハウが2つあります。それは「プローブ補正」を行うことと「GNDリードによる共振」に気をつけることです。
プローブ補正を忘れると、プローブの周波数特性が平坦ではなくなります。そうすると、高い周波数における振幅が本来の大きさと違って見えます。例えば測定対象がきれいな矩形波(方形波ともいう)の場合、そのパルスの幅によって振幅や形状が違って見えます。広いパルス幅では波形のエッジ部が尖った形状になったり丸まった形状になり、細いパルス幅では振幅が違って見えます(図6)。
このような状態に気付かず測定を行えば、測定結果は大きな誤差を持つことになります。プローブの補正は1つの儀式だと考え、必ず行いましょう。
さらに注意しなくてはならないもう1つの重要事項は、「GNDリードによる共振」です。これも深刻な測定誤差を生みます。これはGNDリードのインダクタンスとプローブ入力容量によるLC共振が原因で起こるもので、「リンギング」と呼ばれる減衰振動が波形のエッジ部に発生するという現象です。本来の信号には無い波形(リンギング)をプローブが作り出してしまうのです。GNDリードは最短にするよう心掛け、必要に応じて別売アダプタなどを使用しましょう(図7)。
次回は、被測定波形から最適のオシロスコープを選択するノウハウについてお話します。お楽しみに。
稲垣 正一郎(いながき・しょういちろう)
東洋計測器
前職ではテクトロニクス社にて10年にわたりテクニカルサポートセンター長を務めた。