組み込みエンジニアにとって、オシロスコープは必須のアイテムと言えます。オシロスコープの基本的な使い方については「組み込みエンジニア必須のスキル - オシロの基本を身に着ける」で解説しましたが、使いこなすとなると、さらに詳しい知識や経験が必要になってきます。

実際にオシロスコープを使って測定を始めると、すぐに悩ましい問題に直面します。それは、「測定点とオシロスコープをどうやって接続するか」(どうやってプロービングを行うか)という問題です。正しい測定のためには、正しくプロービングを行うことが必要です。そこで本連載では、この「プロービング」について解説していきます。

入力コネクタと同軸ケーブル

多くのオシロスコープは同軸構造の入力コネクタ(写真1)を備えているので、測定点も同軸構造の出力コネクタならば、測定点とオシロスコープを同軸ケーブル(写真2)により接続できます。信号伝送において、これは理想的な接続です(注1)。

写真1:入力コネクタ

写真2:同軸ケーブル

注1:ただし、インピーダンス整合に注意を払う必要がある。伝送経路のインピーダンスは同軸ケーブルのインピーダンスにも支配される。測定点の出力インピーダンス、ケーブルのインピーダンス、オシロスコープの入力インピーダンス、それぞれが整合している必要がある。整合していない場合は、十分な配慮を要する。

ところが多くの場合、測定点は同軸構造の出力コネクタではありません。スクウェアピンであったり、ICのリード(ICの"足")であったり、ボードのビアであるため(写真3)、機械的に接続するのさえ容易ではありません。機械的な接続ができたとしても、次にはさらに複雑かつ困難な電気的接続問題が浮上します。

写真3:測定点 - ここにどうやって接続するかが問題

2本のケーブルで失敗

測定点と接続し、信号をオシロスコープに導くことを「プロービング」と呼びます。オシロスコープで扱う信号の周波数を考えると、多くの場合は2本のライン(シグナルラインとグランドライン)による伝送がなされます(注2)。

注2:20GHzくらいの周波数にもなると、導波管と呼ばれる中空の金属筒が使われることもある。

2本の接続で済むのですから、そこらに転がっている2本のケーブル(写真4)を使ってみてははどうでしょう。果たして、使い物になるのでしょうか。実際にテスタケーブルでプロービングし、そのケーブルを経由したパルス波形を見てみましょう(図1)。

写真4:このケーブルは果たして使いものになるのだろうか

図1:写真4のケーブルを使用したときの波形 - 黒色の波形が信号発生器からのもので、一番下の青色の波形がケーブルを使用したもの。青色の波形は振動(リンギング)が生じている

本来のパルス波形は上の黒色の波形で、立上り直後がほぼ直角で綺麗な形です。テスタケーブルを通過した波形は一番下の青色の波形です。パルスが立ち上ってから数100nsくらいの時間、波形は大きな振動(リンギング)を繰り返し、本来の波形とは違った形に歪んでいます。これは周波数の異なるサイン波の振幅を比べてみてもよく分かります(図2)。

図2:写真4のケーブルを使用したときの波形 - 周波数が変わると振幅が大きく変動する

信号発生器のサイン波の信号振幅を1Vに保ちながら、その周波数だけを変化させてみました。信号発生器からの振幅は一定なのにテスタケーブルを通過した振幅は大きく変化してオシロスコープに伝わったことが分かります。約4MHzを超えると振幅が変化を始め、17MHzで約2倍、24MHzではなんと7倍以上(誤差+700%)もの大きさに見えます。その後34MHzで約1Vの振幅に戻り、それ以上の周波数では信号はケーブルを通過できず、振幅が減少し続けます。この動きを周波数特性で描くと図3のようになります。

図3:写真4のケーブルの周波数特性

この例では、数MHz以上の周波数の信号はテスタケーブルを使って正しい測定はできません。これら歪んだパルス波形や何倍も大きく見えるサイン波の振幅を真の波形だと誤解して仕事を進めたら、取り返しのつかない失敗をしてしまいます。

プローブに関する基本的な理解

測定点とオシロスコープは、ただつなげば良いというものではないのです。そこで、信号の正しい伝送ができるよう十分に考慮された「プローブ」と呼ばれる接続ツールが登場することになります。その詳細は次号にゆずり、ここではプローブに関する認識を新たにしておきましょう。

誤解を恐れず言いますが、「完璧なプローブなど世の中にない」のです。言い換えると、プローブを被測定回路にプロービングした時点で「被測定波形は変形する」のです。その変形を最小にすべく、被測定波形を知り、どの種類のどの性能のプローブを選び、どのような接続方法でどう使うべきかを知らなければなりません。"プロービング"とはプローブの不完全を補うためのノウハウのかたまりなのです。このノウハウは「知っていればさらに良い」ものではなく、「知らなかったために失敗し、自分の信用を失う」ほど怖いものなのです。

いい加減なプロービングをすると、後で大変な事態に陥ることになる

この連載では、プロービングで失敗しないよう、その謎を解き明かし、正しいプロービングテクニックについて解説していきます。

※ 本連載記事は、毎週火曜日と金曜日に掲載いたします。

著者
稲垣 正一郎(いながき・しょういちろう)
日本テクトロニクス テクニカルサポートセンター センター長