意外と複雑な介護機器のステークホルダ

続いては、ロボット介護機器を巡るステークホルダ(利害関係者)について語られた。介護機器のステークホルダは意外と複雑で、ただ製品を売るだけというのとは異なるという。介護される人、介護スタッフ、メーカー、事業者もしくはお金を出す人(介護施設の経営者、自治体など)、このようにさまざまな人や企業に対して効果があるのかどうかを検証しなければならないのである(画像6)。

さらに、ロボット介護機器の開発プロセス(案)にも話がおよぶ。V字開発プロセスは、高信頼システムを開発する際に採用される手法であり、通常は要件定義から始まって仕様を決めていき、それをテストして物をちゃんと作るところまでというわけだ(画像7の下側の青文字の部分)。

ただし今回のロボット介護機器は、人の生活に密着したものであることから、人が利用する際のことも考える必要があり、どういうところに使うかという人にとっての目標を決めてやり、そこからどういうものが必要かという点を重視し、さらに製品が完成した後も、きちんと要求仕様通りの製品ができているかどうかだけでなく、それを使ってみて実際に役に立つかどうかということを検証していくことも重要だとした(画像7の上側の赤文字の部分)。

それらを赤文字と青文字を合わせた大きなV字をもう少しザックリとした形で表すと、左上の赤文字の部分は「ニーズの把握方法」、そしてその舌の青文字の部分は「有用性・安全性を満たすための設計」。そして「プロトタイプ作成」=「モジュール化」でターンをしたら、右の青文字の部分は「試験・検証方法」で、完成した後の「倫理審査申請」を行い、右上の赤文字の部分では「効果の検証方法(効果があるかどうか)」となるというわけだ。

画像6(左):ロボット介護機器を巡るステークホルダ。 画像7(右):ロボット介護機器の開発プロセス(案)のV字開発プロセス

また、今回の事業の中で、介護ロボットというのは、「不自由なことを補う介護(補完的介護)」ではなく、それを使うことでよりよく生活ができるようになる「よくする介護」、被介護者の生活ののける自立性の向上というところまでを含めて効果を目指していこうとしていることが、大きな考え方になっている。なおこの考え方は、長寿研の大川弥生先生の考え方が大きく反映されているとした。

そして、WHO(世界保健機関)が2001年に発表した、「ICF:生活機能モデル」というものがある(画像8)。これは人の生活機能を表したものだ。人の生活機能を、身体が動くかどうかという「心身機能」、「活動」、「(社会)参加」という3つのレベルで定めているのである。ロボット介護機器は、生活機能モデルの中では環境因子にすべて含められる形だ。ロボット介護機器は、その環境因子の位置から、どれだけ活動や参加などにプラスの影響を与えられるか、ということだ。

生活機能モデルの中心の3モデルをピックアップしたのが画像9である。そして活動の中でも、動作として訓練などにおいての「能力・できる活動」だけではなく、実生活の場における実際の生活行為としての「実行状況・している活動」として可能かどうか、そして社会参加につながるかどうかということをきちんと評価しようというところが、単なる機械を作るというよりも、より深いモデルというわけだ。

画像8(左):ICF:生活機能モデル。 画像9(右):ICF:生活機能モデルの「心身機能」、「活動」、「参加」の3レベルを拡大したもの。両画像の作成は、長寿研の大川弥生氏