介護・福祉で求められるロボットを目指した取り組み

3人目の話題は、知能システム研究部門サービスロボティクス研究グループの松本吉央研究グループ長(画像1)による、福祉・介護機器の導入促進のためのプロジェクトである経済産業省の「ロボット介護機器導入・促進事業」についての講演の模様をお届けする。

画像1。松本サービスロボティクス研究グループ長

同事業は、高齢者の自立支援、介護者の負担軽減に資するロボット介護機器の開発・導入を促進することを目的としたもので、介護現場のニーズを踏まえてロボット技術の利用が有望な分野を重点分野として特定し、開発企業に対して補助を行う開発補助事業だ。平成25年度からスタートした。

なお、経済産業省と厚生労働省が共同で策定し、今後のロボット介護機器の開発・実用化に関わる重点分野とするのが、以下の4分野5項目である。(1)移乗支援・介助(ロボット技術を用いて介助者のパワーアシストを行う装着型の機器、ロボット技術を用いて介助者による抱え上げ動作のパワーアシストを行う非装着型の機器)、(2)移動支援(高齢者などの外出をサポートし、荷物などを安全に運搬できるロボット技術を用いた歩行支援機器)、(3)排泄支援(排泄物の処理にロボット技術を用いた設置位置の調整可能なトイレ)、(4)認知症の方の見守り(介護施設において使用する、センサや外部通信機能を備えたロボット技術を用いた機器のプラットフォーム)という具合だ。

また、機器の開発と必要となる安全性と効果のアセスメント手法・検証方法、倫理審査などの「実証プロトコル」を確立する基準策定・評価事業でもある。画像2が実施体制をまとめたもので、生活支援ロボット実用化プロジェクトと同様にこちらのプロジェクトリーダも比留川研究部門長が努める形だ。

開発補助企業は47社(厳密には複数のジャンルにトライしている企業もあるので、47機といった方がいい)。内訳は、移乗支援・装着型が4、移乗支援・非装着型が7、移動支援が9、排泄支援が5、見守り支援が22となっている。また地域別に見ると、北海道が1、東北が1、関東が21、中部・長野が7、関西が15、九州が2となっている(画像3)。これほどの数の企業が関わる事業はそうそうないということで、かなり規模の大きな事業ということだ。平成25年度の予算額は23.9億円となっている。

そして基準策定のための評価コンソーシアムは産総研を中心にして、国立長寿医療研究センター研究所(長寿研)、AVS、労働安全衛生総合研究所、名古屋大学、日本自動車研究所、日本福祉用具評価センター、日本ロボット工業会(JARA)、日本自動車整備振興会連合会(JASPA)などが5つの分野に別れて、それぞれ担当している(画像2の左側)。

コンソーシアムのミッションとしては、47機に対してステージゲートで絞り込みのための審査を行い、またその審査のための基準を作ることだ。さらに、開発内容の支援・指導を行い、企業側から基準策定へのフィードバックを受け取ったり、将来的な標準化のための検討も行ったりしている(標準化はJARA、JASPAが担当)。

画像2(左):ロボット介護機器導入・促進事業の実施体制。 画像3(右):47社(機)の企業の内訳

さらにコンソーシアムのそもそもの役割について。きちんとロボットを作って売って役に立つものにしていくためには、目的(P:どんなロボットを作るか)、開発(D:ロボットを作る)、評価(C:どうやってロボットを評価するか)、市場化(A:ロボットを売って反応を見る)をきっちり行っていく必要があるが、介護ロボット、サービスロボットの分野ではそれがなかなかうまく回っていなかった。

1企業が単体で開発して販売するというだけだと、PDCAをうまく回すところまではいかない(画像4)、そこで画像5のように、厚労省がどんなロボットを作るべきかを決め(重点分野の選定)、それを企業が作り、コンソーシアムは評価方法を研究して基準を策定することに加えて開発を支援し、さらに次の重点分野としてあるべき介護機器の姿も考え、そして市場での販売を経産省が後押しするという体勢にしようというものである。PDCAを開発企業が単体でできるようにするのが理想だが、市場が形成されていないということもあり、現時点では4者が協力体制を取ることにしたというわけだ。

画像4(左):現状、企業単体では、PDCAを回せない。 画像5(右):そこを4者が協力して回そうというのが今回の事業である