4つの試験関連エリアを持つ生活支援ロボット安全検証センター

次は生活支援ロボット安全検証センター(画像12)の概要だ。同センターには、走行、対人、強度、EMCという4つの試験関連エリアがあり、それぞれのエリアで各分野の試験を行っている。なお、同センターを訪問される方は「多彩なロボットの検証の様子を見られる」ことを期待される方が多いそうだが、守秘義務があるので、それらのロボットを見ることは不可能なので、見学される方はご注意されたい。

画像12。生活支援ロボット安全検証センターの外観

そして各エリアについてだが、まず走行試験関連エリア(画像13)は、人や障害物にぶつかる前にロボットが停止できるか、または回避できるかどうかという機能安全を試験できるエリアだ。多目的走行性試験路、傾斜走行性試験路、環境認識性能試験(光干渉試験装置)、ロボット走行状態模擬装置、3次元動作解析装置、障害物接近再現装置などが存在する。

対人試験関連エリア(画像14)は、ぶつかった後に人に対してどれだけの危害を及ぼすかを、衝突試験や転倒試験などで計測するエリアだ。衝突安全性試験機、静的安定性試験装置、人体ダミーとダミー検定装置などがある。

画像13(左):走行試験関連エリア。 画像14(右):対人試験関連エリア(の衝突安全性試験機)

耐久性や衝撃、荷重、耐環境性、振動などの本質安全に関する試験を行えるのが、強度試験関連エリア(画像15)。複合環境振動試験機、衝撃耐久性試験機、耐荷重試験機、装着型生活支援ロボット耐久試験機、ベルト型走行耐久性能試験機、ドラム型走行耐久性能試験機、重心移動制御装置、装着型生活支援ロボット強度試験機などがある。

EMC試験関連エリアは、イコール電波暗室という形だ(画像16)。強力な電波を照射した時のロボットの動作変化を観察したり、ロボット自身が動作時に発生する電磁ノイズを測定したりする試験を行うエリアである。ロボットが強力な電波を浴びて危険な誤動作をしたり、逆にロボットが発する電波でペースメーカーなどに悪影響を与えたりしないかどうかをチェックするというわけだ。

画像15(左):強度試験関連エリア(装着型生活支援ロボット耐久試験機)。 画像16(右):EMC試験関連エリア(の電波暗室)

以上、4エリアで合計18の試験が行われ、そのロボットの安全性を評価し、安全性が確認されれば、認証されるのである。画像17が、試験装置・項目の設定一覧だ。なお、安全にロボットを作りたいという場合、第1にすべきことは、画像4のピラミッドの頂上部分のA規格(基本安全規格)の中の、ISO14121、つまりリスクアセスメントだという。画像17のシートはその雛形でもあるのだが、この中に読み込まれているリスクを想定し、そのリスクをどう回避するのかということを逐次書き出す形になる。また、それが非常に時間などの負荷がかかる作業だという。そしてそれを設計に反映させて実際に実装されたロボットを持ってきて、その通りかどうかの試験を行うというわけだ。設計段階でアドバイスしたことがきちんと反映されていないと、当然合格できないのはいうまでもない。

画像17。試験装置・項目の設定一覧シート

どうやって安全なロボットを作るのか?

さらに進んで、「安全なロボットを開発するために、~リスクアセスメントと安全設計技術など~」だ。つまり、どうやって安全なロボットを作るのか、という話である。安全性試験とは、基本的な入り口だという。そんなロボット技術に関する安全・性能・倫理に関してを表した図が画像18である。

それでは具体的にどうやって安全なロボットを作るのかというと、画像19のロボットと共存するためのプロセスと、その右上を拡大した画像20のV字モデルがポイントだ。画像19・20の中でも重要なのが、「コンセプトを明確化する」だという。また、よく中小企業がロボットを持ち込み、「うちのロボットは優秀で何にでも使える」ということがあるそうだが、何にでも使えるロボットのリスクアセスメントは不可能だとする。その理由は、リスクのハザードが無限大になるので、画像17のシートを書けなくなるというわけだ。

要は、何のために使われて、どういう環境でどういう風に使うかということを明確化していくという作業が必要だという。結構、そこら辺が大ざっぱなメーカーも多いらしいので、それではリスクアセスメントシートを作れないので、そこを明確にする必要がある、としている。まずはリスクアセスメントシートを埋め込んでいき、それを実装し、設計段階の通りに安全設計されているかどうかを検証するのが、生活支援ロボット安全検証センターという流れなわけだ。

画像18(左):安全・性能・倫理に関するチャート。 画像19(中):ロボットと共存するためのプロセス。 画像20(右):ロボットと共存するためのプロセスの右上のV字モデル

また、講演では時間の都合で割愛されたが、プレゼン資料には掲載されているので、認証とリスクとベネフィットについても紹介しておく。まず、製品安全性と認証への関心ということで、日本と、欧米との違いが紹介されている。米国と、ドイツと、日本の国民の「製品を選択・購入する時認証マークを確認するか?」という問いに対する解答を示したのが画像21だ。日本人は少ないのがわかる。そして画像22が、各機器に対する安全確保の取り組みの、メーカー・業界団体、消費者団体・利用者団体、中立的な専門機関の割合だ。そして最後は画像23、リスクとベネフィットのバランスによる製品の需要を表した図である。なお、これらは産総研が「製品の安全性イメージに関する調査」として2010年11月に実施したものだ。

画像21(左):製品安全性と認証への関心。 画像22(中):団体別の各機器における安全確保のための取り組み。 画像23(右):リスクとベネフィットのバランスによる製品の需要を表した図

また、仕組みとして日本と欧米とどう違うのか、ということも解説された。まず欧州の場合、CEマークを取得しないと製品は販売してはならないという、事前主義である。一方、米国は認証を取らないで販売してもいいが、事故が起きたら法廷で闘うことになる、という事後主義スタイルだ。ディスカバリー制度というものがあり、すべてのドキュメントやプログラムも提出することになるというわけである。

この米国の仕組みで対応が遅れたのが、トヨタのプリウスが大変なことになった事故の件だという。最終的に試験を経て法廷では決着したが、そのタイムラグが風評被害につながってしまったというわけである。

そして日本はというと、事前主義でもなく事後主義でもなく、残念ながら現状では風評被害リスクが非常に大きく、メーカーはこれに頭を悩ませているという状況だ。なお今回のプロジェクトが取ったスタイルは事前主義の欧州型となっている。

よって安全とは、作る側の理解に加え、使う側の理解も必要だということだ。ロボットというのはどうやってもリスクはゼロにはならないので(実際のところ、リスクゼロのものは世の中には存在しない)、リスクとどうつき合うかということを、使う側も「危ないものである」という理解をしながら使う必要があり、そして作る側もそれを理解した上で販売を行う必要があるとした。

そして最後は、「安全な社会を作るには」としてまとめられた。まず、「安全哲学・理念が重要」とする。まず、安全を考慮することは社会責任であるということ。そして、完全安全は妄想ということ。つまり、100%の安全はありえないということである。また、安全はステークホルダーとユーザーの合意形成だとしている。

次回は、産総研 知能システム研究部門サービスロボティクス研究グループの松本吉央 研究グループ長による「ロボット介護機器導入・促進事業」をお届けする予定だ。