3つの課題の解決を目指したプロジェクトが始動

それでは、これら3つの課題を解決するために取られているそれぞれのプロジェクトを順に紹介していこう。まずは、NEDO生活支援ロボット実用化プロジェクトからだだ。これは平成21(2009)年度から平成25年度まで行われている、比留川研究部門長自身がリーダーを努めるプロジェクトで、予算規模は平成25年度なら8億4200万円という具合。生活支援ロボットとは、要はサービスロボットのことである。

目的としては、「サービスロボットとして、本格的普及が期待されるロボットを対象として、対人安全性基準および基準適合性評価手法を確立する」ということがまず1つ。もう1つは、「その安全基準を国際標準とするよう提案し、日本発の基準およびロボットの海外市場への普及を図る」というものである。つまり、サービスロボットの安全に関する国際標準規格、関連する試験機関、規格認証機関の整備を目指すというわけだ。

まず安全基準に関しては、画像6のA規格からC規格までがISO TC184/SC2/WG7で標準規格が策定中である。黄色がサービスロボットに関連する規格で、ピラミッドの底辺から紹介していくと、C規格は個別製品安全規格で、生活支援ロボットに関するのはISO13482。これは、2013年末(もうその時期)か2014年初頭に策定されるとされている(当初は夏頃に国際規格として発行されるといわれていたが、秋にずれ、現在は年内もしくは2014年初頭となっている)。なお、今回のISO13482はすべてのサービスロボットを一括してその機能安全全般としているが、それを移動型、搭乗型、装着型の3種類に分類してさらに細かく策定するパート2が2016年に予定されている。

またB規格はグループ規格で、システム安全規格のISO13849、機能安全規格のIEC61508はすでに発行済み。A規格の基本安全規格の中のリスクアセスメント規格であるISO14121も発行済みだ。

そして関連する試験機関、企画認証機関として整備されたのが、2010年につくば市にオープンした「生活支援ロボット安全検証センター」である(画像7右上)。ここでは、左下や中央下にあるように、障害物接近再現装置や対人安全試験装置などを用いて、さまざまなテストが行われ、サービスロボットの評価が行われている。

画像6(左):A規格からC規格までのピラミッド構成。サービスロボットに関わるISO13482は底辺のC規格に含まれる。 画像7:右上が生活支援ロボット安全検証センターの外観で、下はその中で行われている試験の様子

交通事情を変える可能性を秘めたパーソナルモビリティ - 実用化の課題は…

続いて、つくばモビリティロボット特区について。これまでにも幾度かお伝えしてきたが、セグウェイや車いす型パーソナルモビリティなどのモビリティロボット(搭乗型移動ロボット)に搭乗しての、公道実験を行える特別エリアのことだ。これは先に掲載したオープンラボのレポートでも紹介しているが、産総研~TXつくば駅間において産総研職員がセグウェイを移動手段として使う実証試験が現在も行われているなど、活発に試験が行われているところである。

パーソナルモビリティについては、ご存じの方がほとんどだと思うが、改めて説明すると、セグウェイやトヨタ自動車の「Winglet」、産総研の「マイクロモビリティ」などのような立ち乗り型、同じく産総研の「Marcus」のような車いす型ロボット、日立製作所の自律移動機能付きPMV(パーソナル・モビリティ・ビークル)などのように、スタイルはいくつか存在するが、電動で動作する1人乗り用の歩行者と共存できる形を目指して開発されている(セグウェイはすでに実用化されているが)乗り物である。PMVや車いす型ロボットなどは、現在高齢者や障がい者が使用しているシニアカートをインテリジェントにしたバージョンと思ってもらえばいい。

パーソナルモビリティは低炭素社会や高齢化対応社会などの諸課題解決に向けた高い期待と可能性を持つ。しかし、お気づきの方も多いかと思うが、日本の行政の融通の利かなさと対応の遅さにより、現行法(道路交通法および道路運送車両法)上、明確な位置づけがなく、日本の公道を走行できないという大きな課題を抱えている(先進国で行動をセグウェイが走れないのは、日本と英国ぐらいだ)。筑波モビリティロボット実験特区は、構造改革特区設定により、特別にそれらでも公道上を走行する走行実験が可能になったエリアというわけだ。

なお画像8は、つくばモビリティロボット特区を走行したパーソナルモビリティたちだ。セグウェイは「小型特殊自動車」の分類で、産総研の車いす型ロボットや、同じく産総研のセグウェイと同じ立ち乗りでもより小型のマイクロモビリティ、そしてよほどセグウェイよりも自動車に見える日立製作所のPMVは、「原動機付き自転車」の分類だそうである。ここには含まれていないが、Wingletも実証実験に参加しており、おそらくはサイズから行って産総研のマイクロモビリティに近いので、原動機付き自転車の分類になるのではないだろうか。

そして画像9と10が、モビリティロボット特区のより詳細な技術実証実験エリアだ。1つは、TXつくば駅を中心とした南北に走る歩行者・自転車専用道のペデストリアンデッキ(遊歩道)約5.5km(筑波大学~センター広場~洞峰公園)で、もう1つがTX研究学園駅を中心とした、半径約1.5kmのエリアである。

画像8(左):つくばモビリティロボット特区を走行したパーソナルモビリティの現状の区分。 画像9(中):つくばモビリティロボット特区の技術実証実験エリアのTXつくば駅周辺。 画像10(右):同じくTX研究学園駅周辺