建屋の上部空間の線量測定などに成功

さて、下の画像19を見ていただくと、移動が可能な(ロボットアームのような固定する形のものは含めない)ロボットとしては重量が1.1tという結構なヘビー級であることに気づいていただけたことだろう。もちろん、もっと重たいロボットも存在するが、高所調査用ロボットもなかなかのヘビー級といえる。その理由は7mもマストを伸ばすことで重心が高くなり、転倒するのを防ぐためだ。あえて重くして低重心にしているのである。

要は、まだまだガレキが残っている可能性があるので、両方のクローラがバランスよく踏むのならまだしも、片側だけ踏んだりすると、ボディの全幅がないことから前後軸を中心とした左右方向への回転、つまりローリングに弱いのだ。片側だけが段差を乗り越えると、重心が高ければ転倒する可能性が高くなってしまう。どれぐらいの段差を超えられるかというのは、画像19の通り。段差100mmまでならクローラの両方だろうと片側だろうと乗り越えられるが、スペック上の最大踏破段差は60mmと発表されている(最大速度時速2kmで、最大斜度が前後15度、左右20度)。

画像19。段差を乗り越える様子

そして、マストの先端に装備された調査用アームロボットについて。この部分は前述したようにホンダが担当したわけだが、ASIMO開発で培われた同時多関節制御システムが用いられており、軸数は11軸ある。姿勢を安定化させるための制御技術や、アームが狭隘部に入って調査中に周囲の構造物に接触してしまった際に、その衝撃を吸収することで構造物を壊さないだけでなく、自分自身も壊れないようにする技術も採り入れられている。

そして操作そのものを助ける技術として採用されたのが、LRFによる「ポイントクラウド(3Dデータ)」技術を用いることで調査環境を立体的に表示する仕組みだ(画像20・21)。アームロボットには手先周辺と手先モニタの2つのカメラがあるが、これだけではなかなか距離感などがつかみにくい。かといっていくつもカメラを備えるわけにもいかないので(カメラ自体が今度は狭隘部に入れる時に邪魔になってしまう)、ポイントクラウド技術で立体的に周辺環境を表示するというわけだ。

前回の画像18を見ていただきたいが、アームロボット部分にもLRFがあり、これが周囲の干渉物のポイントクラウドを収集し、調査環境を再現するようになっている。これで、さまざまな角度から進めさせられるかどうか、接触しないかどうかなどを確認して、高所の狭隘部にアームロボットを進入させられるというわけだ。

画像20(左):狭隘部に入ろうという状況。 画像21(右):それをポイントクラウドの環境画面で見るとこのような感じ。 (出典:ホンダWebサイト)

続いては、システム安全について。万が一、建屋内でこれだけの大型で重量級のロボットが擱座してしまうと、非常に邪魔となってしまうのはいうまでもない。そこで、ホンダ、産総研、東電ほかでシステム安全検討会が構成された。なお、システム安全とは米軍の兵器開発の方法論で、1962年以降のICBM開発で体系化、そして原子力分野でも利用された形だ。また、標準志向ではなく分析志向であり、慣行の実践よりも予断を排した分析を重視した活動がフェーズごとに定義されるのが特徴である。

そして今回の高所調査用ロボットのコンセプト設計フェーズに関しては、画像22の通りだ。初期ハザード分析(PHA)においても、想定される障害の要因をまず287個洗い出し、それに対して220個の方策を用意。システム要件分析でも、安全方策を検証可能な設計要求事項として整理して、全223要件を用意している。また、遠隔ソフトウェアに関しても、高信頼ソフト開発企業に外注しただけでなく、第三者検証も実施したという。

そうして完成させ、実戦投入する前には中部電力の浜岡原発にて実証試験が行われた(画像23)。2012年11月のことである。また産総研の中でも性能試験、操縦訓練、保守訓練、故障対応訓練も実施したそうだ。なお、実際に動いている様子などは、前述した発表時の記事に動画も4点ほど掲載しているので、そちらもご覧いただきたい。

画像22(左):システム安全検討。 画像23(右):中部電力の浜岡原発における実証試験の様子。 (出典:ホンダWebサイト)

また現状だが、STEP1として、高所調査用ロボットの発表が行われたのと同日の2013年6月18日に、福島第一原発の2号機原子炉建屋1階の上部空間調査、線量率測定と干渉物調査が実施された。また、7月23日には、STEP2として、高所PCV貫通部周辺調査が行われ、同じく線量率測定と干渉物調査が実施されている。STEP1およびSTEP2の作業のイメージは、画像24の通りだ。また、調査エリアは画像25にある赤と青のエリア。STEP1は西側通路南西エリアの赤エリアで、STEP2のパーソナルエアロック室は青エリアだ(通路からカメラを向けて確認が行われた)。

そして、実際の調査の様子が画像26。これはPackBotがカメラ役を務めた動画の一部だ。画面奥から手前へと前進してきて、途中で止まって調査を行うという感じである。その調査しているもう少し鮮明な画像が27と28だ。

画像24(左):STEP1およびSTEP2の作業のイメージ。 画像25(右):調査エリア。赤エリアがSTEP1で、青エリアがSTEP2。 (出典:東電Webサイト)

画像26(左):実際の調査の様子を収めた動画の1カット。 画像27(中):狭隘部にアームロボットが入っている様子。 画像28(右):こちらもマストを伸ばしている様子。 (出典:東電Webサイト)

さらに、STEP1の調査結果をまとめたのが、画像29だ。これまでは人が計測していたので、1.5m位までのデータしかなかったが、2.5m、3.5m、一番高いところでは4.3mの空間線量率を計測できるというわけである。

続いて、STEP2の調査結果が画像30。下からは絶対に見ることのできない配管類だが、マストを上げてアームロボットを伸ばすことで、このように鮮明に撮影することに成功した。

画像29(左):STEP1の調査結果。 画像30(右):STEP2の調査結果。(出典:東電Webサイト)

調査結果のまとめとしては、まず上部の空間線量率が高いことは確認されたが、下部と比較して、顕著な差異があるほどではない。これは非常に重要なことで、どこに汚染源があるのか、上にあるのか下にあるのか、除染をするにも遮蔽をするにも、どこをきれいにすればいいのかどこを被えばいいのか全然違ってくるためだ。複数の高さで調べることで、上下でどの方向から最も放射線が来ているのかがより正確にわかるようになるというわけだ。

そのほか、上部空間の狭隘な状況の確認にも成功しており、機器類の損傷は特に確認されなかったという。ただし、画像30の下の画像にわかるように、手前にさまざまなケーブルや構造物があるので、PCV貫通部をすべて目視確認することはできていない。

なお、高所調査用ロボットの被ばく線量は、1回の調査で約40mSvだという。作業員の線量限度は年間で50mSv、5年で100mSvなので、1回の調査で、作業員1人のおおよそ1年分の線量を被ばくした形だ。つまり、同じ作業を人で行うのはなかなか厳しいというわけだ。

今後の予定としては、現在は2号機建屋の調査エリアの拡大、3号機などほかの建屋の展開について東電が検討中とした。なお、オープンラボ2013では実機は前述したように現場にいて、なおかつ同型の予備機などはないため、実機展示は行われていない。

以上で、横井副研究部門長兼ヒューマノイド研究グループ長による「災害対応ロボット」の講演は終了だ。この後は最後の講演として、河合良浩研究主幹による産業用ロボットについての動向がわかる「産業世ロボットの新たな展開」をお届けしたいと思っている。