パーソナルモビリティのシェアリングの課題はどこにどれだけ配備をするのか

セグウェイの実験のほかにも、同じくパーソナルモビリティのシェアリングに関する研究開発である、Wingletを用いたNEDOの実証実験「IT融合による新社会システムの開発・実証プロジェクト」に関する紹介も行われた(画像16)。トヨタと産総研が共同で受託しているプロジェクトで、Wingletの開発はもちろんトヨタで、実証試験によるデータ収集を産総研が担当している。

画像16。Wingletによるパーソナルモビリティシェアリングサービスの概念

シェアリングを大規模に展開していく時に重要となるのが、いわずもがなの充電ステーションだ。どういう風に配置するかというのが難しい問題だという。もちろん、鉄道の駅の周辺や、ショッピングモールなど、人が集まる場所にステーションを設置するのは簡単に思いつくが、それ以外は結構難しそうである。

そこでパーソナルモビリティのシェアリングの見本となるものとして挙げられたのが、自転車シェアリングだ。日本でも観光地のレンタサイクルは古くからお馴染みだし、近年では自転車シェアリングを導入している都市も国内で増えてきている。

海外ではもっと大規模に展開しているところもあり、その1つで規模として世界最大とされるのがパリの市営サービス「ヴェリヴ」だ。数100メートルごとに設置されていて市内全域で約1500の駐輪ポイントと2万台の自転車を要しており、どこの駐輪ポイントでも自転車を借りたり返したりできるというわけだ。パーソナルモビリティも都心部や観光地などで、JRや私鉄、地下鉄の駅やバスの停留所、大型駐車場、大型の観光名所、宿泊施設(の集中している地域)ごとに充電ステーション(貸し出しと返却の手続きもそこで簡単に行える仕組み)があると、便利じゃないだろうか。

ただし課題となるのが、充電ステーションごとにあるパーソナルモビリティの台数の不均衡が生じやすいという点だ。要は、利用者が一方的な流れのみで、帰ってくる人がいない場合、乗り捨てが可能なシステムだと、片方の充電ステーションばかりに集まってしまうことになる。そうなると、トラックなどで運搬するなど、余計な運用費が発生してしまうというわけだし、利用を希望するユーザが待たされてしまうというわけだ。

ただし、事前にしっかりリサーチすることで、人の流れを把握でき、ここは台数が多い方がいい、ここは少ない方がいいというのを設計していく必要がある。そこで重要となるのが人の流れのシミュレーションで、そうしたデータも産総研で収集しており、そのための実証実験だったというわけだ。

Wingletの実証実験は2カ所で行われ、1つはセグウェイと同じで産総研~TXつくば駅間の約3.8km(画像17)。Wingletは最高時速が最初から6km(早歩き程度の速度)に設定されているため、セグウェイが前述したように25分だったのに対し、Wingletは40分かかってしまうという。またバッテリもギリギリで、たどり着く前に切れてしまうということもあったそうだ。よって、Wingletにはこの距離は長い、ということはわかったという。

もう1カ所は、TX研究学園駅の周辺、つくば市役所とショッピングモールのイーアスつくば研究学園駅~市役所のルートと、同駅~イーアスつくばという2ルートが設定されている(画像18)。どちらも1km以内で、徒歩でもそれほどかからないが、Wingletならより速いというわけだ。

画像17(左):産総研~TXつくば駅間のルートや期待される効果など。 画像18(右):つくば市役所~TX研究学園駅~イーアスつくば間のルートや期待される効果など

今後の予定としては、セグウェイのシェアリングシステムを開発したことから、今後本格的な運用を行い、運用状況データ、車載センサデータ、ユーザから野アンケートを取得、解析、蓄積を行うと共に、運用システムの開発にフィードバックしていくという。また、現状では産総研~つくば駅間のみだが、多点間に展開する話も出てきており、早い段階でつくば市において大規模に展開したいと考えているとした。

また、今回の実証実験の最終的な目的は、道路交通法および道路運送車両法を改定し、原則として歩道を走行する新しいカテゴリ(車両ではないが、電動機を用いる移動機器)を創設することとする。現状実現している規制緩和は、小型特殊自転車また原動機付き自転車扱いとして歩道を走行すること、パイロンなど保安設備の配置要件の廃止、夜間の走行、横断歩道の走行の4点だ。

ちなみに特区がスタートした時は、横断歩道は渡れなかったのだが、現在は渡れるようになっている。なんでも、歩道のみの実験としていたようで、「横断歩道は車道」ということで、許可を得るまでに2年かかったというのだから、その頭の固さには脱帽ものである。

今後引き続き要望として出していくとしていくものとしては、最重要なのが「保安要員の配置要件の廃止」(多点間への展開、さらにはシェアリングサービスを実施するには必須)、「走行できる歩道幅員制限の廃止(現行は3m以上が対象)」(つくば市は広い歩道が多いので問題ないが、都市部では3m以上の幅員の歩道は少ない)の2点。なお、最終的には特区限定の話ではなく、道路交通法および道路運送車両法を改正して、日本全国どこででもパーソナルモビリティが走れるようにしたいとしている。

ちなみに筆者個人の希望としては、オープンラボの時に産総研内を無料巡回バスが建物の間をつなぐべく走っているのだが、取材陣用にセグウェイかWingletを用意していただけると助かると言いたい(笑)。

というわけで、パーソナルモビリティの実証実験に関する講演をお届けした。次回以降は複数回にわたり、知能システム研究部門の横井一仁副研究部門長兼ヒューマノイド研究グループ長による「災害対応ロボット」をお届けしたいと思う。