パーソナルモビリティは"買い物難民"の救世主となるのか?
合同講演「次世代ロボットの研究開発動向」の4人目としては、つくばモビリティロボット特区でのパーソナルモビリティを用いた現在の実証実験の状況などを題材とした、知能システム研究部門の松本治総括研究主幹兼スマートモビリティ研究グループ長(画像1)による「モビリティロボット実証事業」をお届けしたいと思う。2013年9月から始まった、パーソナルモビリティのシェアリングが題材の中心である。また、パーソナルモビリティとモビリティロボットという言葉の定義は、若干モビリティロボットの方が若干幅が広いが、ここではほぼイコールということでご理解いただきたい。
まず、パーソナルモビリティの研究者らが考える、将来の低炭素型交通システムのイメージ(画像2)の紹介からスタート。都市間の移動は鉄道、街中は路面電車システム(LRT)、その路面電車の停留所周辺は自転車やパーソナルモビリティで移動するという形で、ガソリンエンジン車は市内を走らせないという仕組みだ。要は、欧米の一部の都市などですでに実施されている、市街地の中心部は電気自動車(EV)などじゃないと走れないというものをさらに突き詰めたものである。渋滞が発生することでガソリンエンジン車は排ガスによる環境汚染を悪化させ、ガソリン資源も無駄に浪費してしまうので、それを防ごうということだ。
また、お年寄りにもパーソナルモビリティを利用してもらうことで、近年問題になっている、公共の交通手段がないために買い物もまともに行けないというお年寄りなどの"買い物難民"の手助けをしようという狙いもある(買い物難民はすでに600万人もいるといわれている)。
ただし、現状を照らし合わせると、この手のスタイルの都市を実現しようとした時、ネックになるのがパーソナルモビリティがまだ高価だということ(日本の道交法では公道を走れないという大きな問題もある)。そこで今後、個人所有の前に有望な手段として考えられるのが、シェアリング利用だ。前述した9月から始まっている実験とは、それを考慮した産総研~TXつくば駅間のセグウェイなどを利用したシェアリング実証実験なのである。
なお、こうした近距離移動にパーソナルモビリティを用いることで、それもロボット技術を付加することで、利便性や安全性などを高める研究が各所で行われているところだ。産総研でもそれを実証していこうとしており、実践しているのが、松本治総括研究主幹兼研究グループ長が率いるスマートモビリティ研究グループというわけだ。
もちろん、パーソナルモビリティの公道実証実験は、一般の街中では行えない。比留川研究部門長による「次世代ロボットの研究開発動向」の総括でも触れられたが、つくば市の中には、「つくばモビリティロボット実験特区」と呼ばれる、パーソナルモビリティが歩道を走ったり横断歩道を渡ったりしてもいい、規制が緩和された特別エリアがあり(TXつくば駅を中心とする南北約9kmと、TX研究学園駅を中心とする半径約1.5kmのエリア)、現在、セグウェイ(画像3)のほか、日立製作所のPMV(パーソナル・モビリティ・ビークル)「ロピッツ」(画像4)、トヨタ自動車の立ち乗り型パーソナルモビリティ「Winglet」(画像5)、産総研の立ち乗り型「マイクロモビリティ」(画像6)や、車いす型ロボット「Marcus(マーカス)」(画像7)などが走っているというわけだ。
これも総括で触れられているが、パーソナルモビリティが日本の公道を走れない理由は、道路交通法および道路運送車両法上で明確な位置づけがないことが理由だ。よって、つくばモビリティロボット特区では、セグウェイは「小型特殊自転車」、Marcus、マイクロモビリティ、ロピッツは、「原動機付き自転車」とされている。なお、申請をして同特区だけの特別な免許を各車が与えられており、パーソナルモビリティだからといって、同特区で自由に走らせられるわけではない。
よって、産総研がつくばモビリティロボット特区で行っている活動をまとめると、産総研で開発中の各種パーソナルモビリティの公道走行実証試験が2011年6月の特区として機能し始めた時点から継続中だ。3次元センサを搭載して周囲を3次元として認識し、それを自己位置推定に使って自律的に走らせたりといったことも進めている。