Q
「私にはもうできません」 ある日突然、プロジェクトのリーダーを任せている部下から相談を受けました。確かに、度重なる予算や人員の削減といった要素がプロジェクトに負荷をかけていたのは事実ですが、「できる人材」だと思って仕事を任せていたので……どのように対処すればいいのかわからなくて困っています。(IKさん)
A 非数値的な目標をベースとしたコミュニケーションを
具体的にどのようにすればいいのでしょうか?
もちろん、「人」相手にする以上、絶対的な答えはありません。でも、ちょっと考え方を変えるためのヒントをお伝えしましょう。
それは、「目標」を据えた上でのコミュニケーションです。ただし目標とは言っても、売上や利益、バグの数、進捗率、原価率……といった定量的なものではありません。定量的な目標は、結果に対して「できた」「できなかった」の二者択一となってしまい、できなかった場合は単にダメージを与えてしまうだけの結果になりかねません。
すでに過負荷となっている部下に対しては、単なる過度なプレッシャーとなってしまうことでしょう。ここで言う目標はもっと簡単にクリアできるものです。
- 「声を出して挨拶する」
- 「メンバーをほめる」
- 「否定的なことを言わない」
これらはあくまでほんの一例ですが、厳しい状況にあることに対して、部下が「リーダーとしての質を高めるための時間」だと思うようにするのです。
「なんだそんなこと」と思うかもしれませんが、特に開発現場においては、これは意外と難しいことです。でも、意識すればできることです。
声を出して挨拶をすれば、最初はメンバーも驚くかもしれませんが、誰も嫌がる人はいないと思います。また、ほめられることに対して嫌な思いをする人もいないはずです。この時、メンバーの反応を見ることも部下の仕事にします。
このような非数値的な目標は、「できた」「できない」だけではなく、「あの人をほめたらあんな反応が返ってきた。じゃあ次はこうしてみよう」「あの人に挨拶したら返事がなかった。何かあったのかな……」など、部下自身が起こした"取り組み"に対して何らかの発見=気付きを生むはずです。この気付きは、部下自身を人間的に成長するための大事な要素です。
業績が回復し、「目の前のことをこなすことで手一杯」の状況になれば、そんな悠長なことは言ってられなくなるかもしれません。経済的に厳しい時期こそ、数値化できない目標に対して目を向けさせるチャンスなのです。
このような「人間的」な指導は、普段はあなたのことを「仕事を押し付けるだけの頼りない上司」と思っている部下に、いままでとは違うあなたの一面を見せる機会でもあります。
今回のような話が部下からあった場合は、まず話を聞きましょう。そして、すぐに答えを出すようなことはせず、あなたが「君のことを見ている」「サポートする」という姿勢を見せることが重要です。
『出典:システム開発ジャーナル Vol.9(2009年3月発刊)』
本稿は原稿執筆時点での内容に基づいているため、現在の状況とは異なる場合があります。ご了承ください。