ハイエンド大型TVの需要好調、QD-OLED TVの登場に期待
OmdiaのTV市場担当チーフアナリストの鳥居寿一氏がフラットパネルディスプレイ(FPD)最大の市場である2021年のTV市場を振りかえり2022年を展望した。
- 2021年のTV出荷は2億1700万台と前年比3.9%減となる見通しである。2021年前半は北米・西欧・日本の先進国中心に「巣ごもり」需要や現金給付(米国)、東京五輪やEURO2020対応の前倒しの季節変動もあり出荷好調であった。しかし、後半に入り様相は一転、セット価格の上昇、半導体の供給不足と価格上昇、物流遅れの直撃を受け、全世界で最終需要の低迷が続いた。
- 2021年年末商戦のTV需要は全世界で低調であり、在庫増となっている。TV在庫は十分あり、この先遅れている船便が届くと在庫過多となるリスクをはらんでいる。高コストの在庫処理が順調に進むこと、それにより最終需要が回復することが重要となる。
- 2022年は一部将来需要を先食いした北米・西欧・日本の先進国の出荷が落ちるため、需要(台数)はボトムとなろう。先進国 で「巣ごもり」需要が解消し買い替え需要へ回帰、先進国需要の落ち込み分を中国および新興国の需要で補うのは難しいだろう。物流遅れ、半導体の供給不足、および各種コストアップが需要回復の足かせとなる可能性が高い。
- 「2S問題」、つまり物流(Shipping)の遅延および輸送費(コンテナ代)上昇、部材、特に半導体(Semiconductor)の供給不足とコストアップが2022年も続くだろう。
- 一方で、2021年もハイエンドTV(OLED、QD-LCD、大型サイズ)は好調な需要が続いた。 金額では前年比プラスで推移し、販売店やハイエンド TVブランドには金額・利益面ではポジティブであった。
- 2022年は大手ブランドからミニLEDバックライトTVが登場、LCDパネル価格の下落もあり需要増を見込んでいる。また、ソニーとSamsung ElectronicsがQD-OLED TVを発売開始予定。ネーミングや技術用語競争に陥ることなく、店頭や各種媒体での製品の違い・良さを消費者に伝えるようなマーケティング・プロモーションを期待したい。
- パンデミック3年目となり、先進国ではオミクロン株が急拡大するもロックダウンせず「ウィズコロナ」下での生活・消費活動を模索せざるを得ないが、TV需要への負のインパクトはないと見ている。
デスクトップモニタを高付加価値の表示装置と再定義
Omdia業務用ディスプレイ・デスクトップモニタ市場担当シニアプリンシパルアナリストの氷室英利氏が、デスクトップモニタと業務用ディスプレイ(パブリックデイスプレイ/デジタルサイネージについて最新動向を解説した。
2020年から2021年前半までは、新型コロナの感染拡大を背景に、テレワーク、オンライン学習、巣ごもり・娯楽需要によるパソコン、周辺機器への需要が旺盛であり、デスクトップモニタについてもB2C市場での活況を呈したが、2021年第2四半期以降、流通の混乱、半導体を中心とした部品の需給ひっ迫の逆風により、出荷量は失速、2021年のモニター出荷は1億4220万台にとどまる見込みである。
2022年は、後半から緩やかな市場縮小に転じるも年間では前期予測より上方修正の1億4550万台の出荷を予測している。
大型化、高解像度化、高画質化に加え、USB-Cの採用、一部では有機ELモニターの商品化が本格化するなど、モニターは付加価値化、高機能化へシフトしている。
また、ゲーミングモニターは性能が向上し、最大リフレッシュレートが上昇。接続ホストもノートPCのみならずコンソールゲームに接続して楽しむといった需要も生まれ、VRR、HDMI2.1対応の需要が喚起される。こうした高付加価値モデルの増加に伴い、金額ベース市場規模の緩やかな上昇につながる。
一体型PCは従来の「接続のいらない簡単パソコン」の立ち位置から、よりクリエイティブなタスク専用に需要がシフトし、今後はApple iMacの普及が進む可能性がある。
そして、デスクトップモニタは、高付加価値の表示装置と再定義され、ゲーミング、カラーマネジメントに代表されるアプリケーションの多様化で付加価値技術の方向性が多岐にわたるようになるとしている。
業務用ディスプレイ市場は堅調に推移見込み
新型コロナの感染拡大に伴う経済活動の自粛や人の移動の制限、物流や部品供給の混乱があるものの、パブリックディスプレイ市場は2021年後半から成長軌道へ回帰。オンライン学習やリモートワークの増加を背景にライブや討議画面をオンラインでシェアする機会が増え、IFP(Interactive Flat Panel)、電子黒板の出荷が堅調であり、今後も伸びが期待出来る。
LEDビデオウォール市場は拡大基調にある。特に単価の下落が想定より速いため、需要ならびにアプリケーションの拡大が加速。今後ミニLED、マイクロLED製品の発表、発売が続くが、当面は高価格ゆえLEDビデオウォール全体の需要にただちに影響することはないとみられる。ただし年次スパンで価格下落は継続するため、早晩LCDビデオウォールとの直接競合が起こる。
広く情報を伝えるというサイネージの意義そのものは変化しないものの、人々の生活や企業活動が日々変容する中、環境に合わせてコンテンツや用途や見せ方が常に変わっていくことになる。コロナ禍はそのトリガの1つとなった。
そうした意味では業務用ディスプレイ市場は、LCD対LEDを中心に、複数の表示デバイス技術が入り乱れ、デバイス間の激しい競合が起こる市場となった。中長期的に見ても、「人の動きのある」「人の集まる」場所は常に存在し、そこでの情報発信のための大画面サイネージ ソリューションの需要は堅調に推移すると見込まれる。
(次回に続く)