未来の可能性が感じられる人口ピラミッド
オフショアを労働力の確保という視点で考えた場合、アジア諸国は非常に魅力的だ。それは、若い世代が比率的に多く、発展中であるということが理由となる。
日本をはじめとする先進国の多くが抱えている問題の1つが、少子高齢化だ。特に日本はその傾向が強く出ており、子供が少ないというだけでなく若手の労働人口自体も少なくなってきている。
総務省統計局が国勢調査から見えた2010年の人口ピラミッドを公開しているが、一番多いのは60代前半の、いわゆる団塊の世代と呼ばれる年代だ。もう一度膨らむのは30代後半の、団塊ジュニアと呼ばれる世代。この後は急激に下すぼまりになっている。このまま推移した場合の状態予測も10年刻みで行われているが、当然若い世代は増えることなく非常にいびつな、ピラミッドとは呼べない形が描かれている。
日本の人口ピラミッド 平成22年(2010年)(総務省統計局Webサイトより) |
しかしアジア全体では、近年の新生児人口こそ多少目減りしているものの、基本的に裾広がりの傾向だ。中国や韓国でもすでに若い層が特に多いであるとか、増えているとかいう状況にはないのだが、南アジアの諸国をはじめとする新興国の人口増加がこの形を作り出している。若い層が多いということは、未来に期待が持てるということだ。次々に新しい働き手が現れ、仕事が求められるということでもある。
ベトナム1国で見た場合、一番人口が多いのは2010年時点で10代後半だった世代だ。つまり、ちょうど今働き始める頃合いの人口が多いということだろう。この人口ピラミッドを過去の日本にあてはめると、1970年代頃になるという。つまり、今後長期間にわたって安定した労働社会となることが期待できる環境なわけだ。
2010年ベトナムの人口(アメリカ合衆国国勢調査局Webサイトより) |
人材確保が非常に容易
前回紹介したように、アジア諸国の中でもベトナムは日本企業にとって比較的ビジネスを行いやすい国だといえる。いくら若年層が多く、将来的に期待できても、現在のビジネスがやりづらいのでは困る。その点、ベトナムはほどよく両立できている状態だ。
「日本では人を集めることが大変ですが、ベトナムの場合はすぐに50人集めてくれと言われた簡単に実現できます」と原口氏は語る。
国としてIT教育に注力していること、すでに大手企業がオフショア開発で土壌を作ってくれたおかげで対日本のビジネスを行うための人材が揃っていることも大きい。日本語ができるエンジニアも多く、日本企業がIT知識の薄い通訳を介してエンジニアと不自由な会話をする必要はない。
「ブリッジSEという、日本語ができて技術力の高い人材を1人グループに配置します。日本企業はブリッジSEを打ち合わせを行うわけです。ドキュメントのやりとりも日本語で行えます。そして、日本語のできないワーカーに日本企業の意図を十分に理解したブリッジSEが指示して開発を行う、という方法をとって満足な結果を得ています」と原口氏は実際にサテライトオフィスが行っている手法を解説した。
現在の人件費は日本の1/3程度
オフショア開発の大きな魅力であるコストについては、ざっくり考えて日本の1/3程度と考えればよいようだ。ベトナムでのオフショア開発について語られたさまざまな記事によって数字は違っており、中には8割減できるというようなコメントも見受けられるが、ITに関することに絞った場合は現状1/3程度と認識したい。
「物価は日本と比較すると、1/5~1/10ですからもっとずっと低いですね。ITスキルを持つ人は、一般的な人よりも高賃金であるという状態です。日本企業からの仕事は給料がよいから、とスキルを持つ人材が集まりますから、1/3くらいは考えておいた方がよいでしょう。また物価上昇率が5~9%ですから賃金も年々アップしますし、ちょっとしたご褒美程度ですが賞与のようなものもあるとモチベーションが違ってきますから、こういった部分も大切です」と原口氏。
肉体労働系の海外進出では人件費を抑えることが可能な場合もあるが、IT系の業務ではスキルのある人材を確保するために、当該国の相場よりは高めの給与設定がよいということだろう。それでも、日本の1/3だ。
これは人材が若いということにも関係している。日本でも若手はベテランと比べれば給与が安価だ。しかし若手開発者の実数が少ないため、若手だけで固めた安価なプロジェクトを作ることは難しい。それがベトナムでならば、可能になる。単純な物価差だけではなく、安価によい人材が集められる環境にあるのが魅力なのだ。
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本レポートでは3回に分け、「ソフトウェア開発」という現場でのオフショア進出への取り組みを紹介する。