チャイナプラス1で注目されるベトナム
人件費の低い国に仕事の一部をアウトソーシングすることで、全体のコストを下げようという考え方はどの業界にもある。製造業などではその動きは顕著で、日本国内企業でも、実際の製造をアジア諸国で行っているという例は非常に多い。
こうした動きはITシステムの開発にも、もちろん存在する。「オフショア開発」と呼ばれるのがそれだ。元々はアメリカのシステムインテグレーターがインドに進出したのが始まりだが、日本の企業も長くこれに取り組んでいる。大別すると子会社を海外に設立する方式と、現地法人に委託する方式があるが、日本の場合はどちらにしても中国への進出が多かった。
しかし、この動きに変化が起こっている。特に日本の場合問題となるのが「チャイナリスク」と呼ばれるものだ。一時期はいくらか落ち着いてるように見えたが、2012年の大規模な反日デモなどは記憶に新しい。加えて、日本的な品質管理や、日本企業が満足できる人材の確保も難しくなっており、その一方で賃金レベルは上昇。政治的なリスクもある中、中国にしがみつくのは得策ではないとの考えから、脱中国という動きも出てきている。
では、次にどこへ行くのか。脱中国をする企業だけでなく、中国との取り引きは保ちつつもリスク軽減のために別の拠点を持ちたいと思う企業としても気になる、新しい選択肢のひとつがベトナムだ。急速に成長している、国としても「若い」ことが魅力ともなっている。
Google Apps支援のサテライトオフィスがベトナムに進出
チャイナプラス1として、ベトナムやタイを進出先として選ぶ企業は近年増えている。そうした中、新たにベトナムでのオフショア開発に着手したのが、サテライトオフィスだ。
サテライトオフィスは、Googleの提供するグループウェア「Google Apps for Business」やGoogle App Engineの導入支援を日本でいち早く手がけた。実績も豊富にあるが、もっとも同社の特徴となっているのが用途に応じた多様なアドオンを提供していることだ。日本企業がGoogle Appsを導入しようとした時に不足を感じる部分をうまく埋め、日本企業にマッチした形での導入を可能とするためのアドオンを豊富にラインアップ。さらに必要があれば、逐次開発も行っている。
この開発の部分を、サテライトオフィスは基本的に自社内で行ってきた。自社が提供するアドオンなどのパッケージ開発と、企業の要望を細やかに聞き取っての受託開発。このうちパッケージ開発の部分を、2012年からベトナムでのオフショア開発を活用して行っている。
「元々は知人がベトナムにいたからこそスタートしたという事情はあるが、調べるほどにベトナムは日本企業がオフショア開発先として利用するのに向いている国」と、サテライトオフィス代表取締役社長である原口 豊氏は語る。
カントリーリスクの低さが大きな魅力
何がそれほどに向いているのかといえば、まずインフラ面での信頼という項目がある。日本の高い水準と比較してしまうとどの国にも不安はあるが、カンボジアやミャンマー、ラオスといった各国はまだ安定的に業務をこなすためには不安が残る。しかしベトナムは近年環境が整ってきたこともあり、月に数度程度の停電はあっても比較的安定した状態で業務が行えるという。
また、もっとも回避したいカントリーリスクとして見ても、政情不安や反日感情といったものは薄い。最後の戦争は1975年に終了したベトナム戦争。近年まで戦争していた地ではあるが、国内は十分に落ち着いており、治安もよい。宗教的には仏教を基本としつつ、他の宗教も容認している。日本との間に領土問題もない。
「治安は本当によく、ちょっとした万引きなどがニュースに取り上げられるくらい。ビジネス交流も十分進んでおり、ベトナム国民への『もっとも重要なパートナーはどこの国ですか』という問いに、ある調査では42.7%が日本を挙げるなど親日国であることも安心材料だ」と原口氏は語る。
日本企業がすでに十分なビジネスを行っている土壌あり
日本企業がすでに多く進出しているというのも、よい材料だ。日経企業は940社ほど進出しており、在留邦人は2010年時点で8543人。前述のように、ベトナム人にも日本はよきパートナーとして認識されている。
オフショア開発という部分に限っていえば、IPAが発表した「IT人材白書2013」の「グローバル/オフショア動向調査」が参考になる。海外法人への直接発注は67.7%、間接発注は72.9%の企業が行っているという。
この直接発注のうち、83.6%が中国だ。ではこれに続くのはどこかといえば、インドとベトナムで、共に19.2%となっている。間接発注ではもっとベトナムが活用されている。こちらも1位は84.2%を占める中国になっているが、2位は21.1%でベトナムだ。インドは12.3%に留まっている。
オフショア開発が始まった当初、ほとんどの企業が中国へ向かったことを考えると、中国が大きな割合を占めているのは当然の流れだ。問題は、どこが2位なのか、ということになる。直接・間接を総合的にみれば、近年の飛躍もあり2位はベトナムということになるだろう。
大企業がすでに十分地固めをしてくれていることもあり、新たに取り引きを行う国としては比較的取り組みやすいと言えそうだ。実際、サテライトオフィスは初のオフショア拠点をベトナムとした結果、十分な手応えを得ている。
「最初は苦労もあったが、1年半の実績を見て十分にやっていける環境が整ったと感じている。日本企業が満足できる開発結果が得られると実感したので、自社で利用するだけでなく、オフショア開発の提案をお客様に行えるようになった」と原口氏は語った。
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本レポートでは3回に分け、「ソフトウェア開発」という現場でのオフショア進出への取り組みを紹介する。