オブジェクト・ストレージの拡張性、可用性とデータ堅牢性について理解し、弱点はスピードを上げることと小さなオブジェクトの扱いと分かりました。スピードといっても、数10万から100万IOPSを超えるようなレベルの話でなければ、クラウド・サービスでの利用状況を見れば、十分使用に耐え得るレベルであることも事実です。特に非構造化データの増殖に追従でき、簡単運用を目指すには欠かせない構成要素となります。成長著しく、ストレージ拡張が頻繁に起こりそうな状況を抱えている企業は大いに興味を示してくれることでしょう。

同時に大切なのが、導入時、運用時の費用はもちろんのこと、将来の頻繁な拡張、古くなったハードウエアを償却するときのマイグレーションなどの場面も含めたコストにあり、企業がITシステム強化を推進するには、 このTCOとして安価なことが最大のモチベーションを生みます。高速処理にお金は掛けるが、大容量保存にはそれ程まで、という風潮は否めません。しかし、クラウドサービスの現場でオブジェクト・ストレージの導入が進んでいるのは、技術的有意差はもちろんですが、TCO面でも認められているからだと認識しています。

では、利用可能事例について解説していきます。

パブリック・クラウドサービス提供やSNS運用を行う会社のデータセンターでのオブジェクト・ストレージ利用拡大は、十分認知されており、継続的に導入が進むものと期待されています。これは主マーケットの一つなのですが、既知の成長路線ということで、ここでは除いておきます。今後、オンプレミスでの公共機関、研究機関、 企業IT現場での利用拡大を目指し、提案事例となり得るケースを見てみましょう。

テープ・バックアップを置き換える

まず、最も単純な提案例は、現在3-2-1 プラクティスを実行されている場合の一部置き換えとなります。何重かのコピーとバックアップ・テープの管理、それが増殖している環境では、運用負荷が大きな問題になっていると言われています。オブジェクト・ストレージが最後のコピーとなれるかがポイントとなるところですが、バックアップ用ソフトウエアの振り出し先をディスク - ディスク - テープからS3 (Amazon Simple Storage Service REST API) で繋がるオブジェクト・ストレージへ切り替えるだけです。

“テープは安い”と言われますが、特に拡張しながらオンライン運用することを考えると、その管理の煩雑さは避けたいのではないでしょうか。LTOテープドライブとメディアの下位互換保証は 3世代までですので、長期保存向きと言いながら旧世代のテープドライブを確保しつづけるか、テープメディアのマイグレーションが必須となりますので、TCOを比較検討してみる価値があります。デジタル化されたデータは、再利用されることも増えてきていますので、アクティブ・アーカイブでオンライン化して、検索・シェアを簡単にする、オンデマンドでデータ提供をできるようにすることは、利便性が上がるだけでなく、コンテンツ提供よる新たなオンデマンド・ビジネスを生み出すかもしれません。

プライベート・クラウド導入のすすめ

パブリック・クラウド利用者で急速な容量拡大やデータトランスファー・チャージ(AWSでは、数セント/GB程度がデータ読み出しに課金される)に悩んでいるケースになります。パブリック・クラウドをオンデマンドで利用できるメリットは大きいですが、増殖しつづけるデータの格納先、 再利用可能なデータの保全先として適切でしょうか。これをローカルのオブジェクト・ストレージ(プライベート・クラウド)にオフロードすると、企業に求められるデータセキュリティーやコンプライアンスなどについての要件も満たせます。

プライベート・クラウドとして導入する場合は、ビッグデータやコンプライアンスのためのアーカイブとしてだけでなく、社内サーバ、クライアントPCのバックアップ、もともと外には出しにくい企業ファイナンスデータなどを集約することで、企業としてのトータル・ストレージコストを数十パーセント削減できた例なども出てきています。

企業内ITへの意識の高さが試されるところでもあり、 IT部門の腕の見せ所となるかも知れません。オンデマンドでクラウド・サービス利用か、オンプレミスのプライベート・クラウドかは、 暫く議論を呼びそうです。

データ・ティアリング、セカンダリー・ストレージを効率よく

ストレージシステムを、メンスストリーム・ストレージとテープ・バックアップで構成し、パフォーマンスの高いストレージを大容量で抱えている場合が多く見られます。セカンダリー・ストレージやコールドストレージを階層的に持っていても、これらがRAIDベースのストレージだったりもします。このストレージの中を占めるデータは、非構造化データであることが多く、時間の経過や処理・分析の段階を経てWarmから Coldと、読み出しやデータ更新頻度が低下して行くことを考えると、ここにオブジェクト・ストレージによるアクティブ・アーカイブの考え方が導入できます。

一般的にハイパフォーマンスのストレージ・デバイスは高価なため、これをどんどん拡張していくことは効率的ではありません。アクセス頻度が下がったのであれば、拡張性に優れて、安価な運用が可能なセカンダリー・ストレージを導入し、データをティアリング(階層化)することでコスト効率が上がります。 これを データ堅牢性の高いオブジェクト・ストレージにすれば、 テープはプライマリー・ストレージのバックアップ用途だけにでき、運用負担軽減にもなります。

既に、従来のRAIDベースでのアーカイブストレージ階層を持っているならば、 その部分はオブジェクト・ストレージに任せるだけでも運用面でのメリットが出るでしょう。   ストレージ階層への投資バランスの見直しです。メインストリーム・ストレージ拡張やテープ・バックアップを強化する予算をセカンダリー・ストレージに配分して高効率化を試算してみることをお勧めします。 

アプライアンスとして便利に使うために

各種の使い方に於いて、 クラウドやオブジェクト・ストレージのデータ出し入れをS3 APIで独自に作成されている例も多いとは思いますが、ISV (Independent Software Vender)からは各種のアプリが提供されていますので、高効率運用をめざすのに役立ちます。ストレージシステムとしては、これらとの互換性、動作整合性がとれていることも重要になります。ウエスタンデジタル アクティブ・スケール オブジェクト・ストレージシステムの例では、表のようになり、データ処理だけでなく、 ファイルの同期・共有するためのプロトコルを決める団体などにも属して、 接続性にも配慮していることが公開されています。

ビッグデータで多く用いられるHADOOPによるサーバークラスター接続とそのストレージとしては、特に相性が良いようです。 既にS3aコネクターが用意されていますので、データプールやティアリング・ターゲットに利用するための接続は実証されています。

災害から復旧できますか

どうしても後回しになってしまいがちなのが災害対策、復旧対応です。企業内ITのサーバのバックアップ・リモートサイト保有も、プライベート・クラウドをオブジェクト・ストレージとすることで、3GEO(イレイジャー・コーデングの応用である3箇所地域分散配置、一つのネームスペースとして使える)を活用できます。リプリケーション(2箇所地域に配置)もイレイジャー・コーディングのデータ堅牢性を維持しつつ構成可能です。プライベート・クラウド導入、セカンダリー・ストレージの検討と共に災害復旧用リーモートサイトの在り方も検討に含めておくことをお勧めします。何処かにデータが残っていればシステムは復旧できます。

ワークフローを考える、導入提案が有効な分野とは

最後に、 上に挙げた導入提案が効果的な分野について触れておきましょう。

テープバックアップやプライベート・クラウド導入は、どのIT 部門でも共通の話題となります。 セカンダリー・ストレージへのオブジェクト・ストレージ導入検討は、大容量データ取り込み ? 加工・分析処理 ? アーカイブ・シェア というワークフローを持ち、クラウドスケールでデータを動かしているところとなります。これらが当てはまりやすい分野としては、以下の通り考えられます。

①画像・動画作成・編集からシェア
②映像アーカイブ、オンデマンド提供
③監視カメラ映像蓄積、人・物認証から行動分析
④公共・学術系研究機関 のHPCでのデータ・プール、または アーカイブストレージ
⑤ビッグデータのティアリング・ターゲット または アクティブ・アーカイブストレージ

これらの分野では、 データのプールが大きくなればなるほど、長期的なデータ保全コストの増加に悩まされ、データ消費量の急増にデータ・ストレージ戦略を度々見直す必要が出てきます。

普及期に入ろうとしているオブジェクト・ストレージは、企業に柔軟性、安全性、費用対効果の高いデータ保全ソリューションを長期間提供することができます。データは増殖しているだけでなく、 情報検索・再利用の可能性と相まって長生きになっています。AIが導入され、マシン・ラーニング、ディープ・ラーニングで生成されるデータは、オンライン可用性と永久保存が求められるようになっていくでしょう。

エクサ・バイト クラスの拡張性を視野に入れた柔軟性を持ったストレージシステムとして、 オブジェクト・ストレージは将来にわたって有力な技術ではないでしょうか。 

著者プロフィール

山本慎一
株式会社HGSTジャパン ジャパンセールスディレクター
データストレージ技術とソリューションを提供するグローバル企業ウエスタンデジタルにおいて、オブジェクト・ストレージを中心としたデータセンター・ソリューションのビジネス開発を主に日本で推進。

IBM、日立、 Western Digitalなど、30年以上にわたりストレージ業界に従事。コンシューマー製品からエンタープライズ・ソリューションまで、幅広い分野において製品開発、ビジネス開発、マーケテイングなどの経験を持つ。