グローバル展開を図ってきた多くの日本企業にとって、今や海外拠点は単なる生産拠点や、輸出販売先ではなく、各地域にあった製品開発、そして生産・販売・アフターサポートと一連のビジネスプロセスを有する「地産地消」の拠点にまで成長し、海外売上・生産が国内を上回る企業も少なくない状況である。

その一方で、グローバルレベルでの経営環境は昨今の貿易摩擦にも現れているようにVUCA(Volatility:不透明性、Uncertainty:不確実性、Complexity:複雑性、Ambiguity:曖昧性)の度合いをますます強めている。

そのような事業環境下で日本企業の経営の高度化・グローバル化が海外多国籍企業のレベルに追い付いているか、国内外事業の見える化・グローバル最適化が進んでいるかと言えば、どうにも心もとないというのが偽らざる本音であろう。

欧米を中心とした海外の優れた多国籍企業はトップダウン経営という色彩がありつつも、グローバル経営とローカル経営のバランスとタイムリーで的確な判断をするために、各地域の経営情報を一元的に管理し、さらにリアルタイムな事業状況の把握へとコマを進めている。

それを支えているのが生産、販売、会計といった企業の主要業務を支える基幹系システムである。グローバルレベルでの最適化・標準化を目指して導入されてきたのがERP、中でも最も多くのグローバル企業への導入実績があるSAP社製ERPである。

日本企業の基幹系システムが危ない!

2018年9月、経済産業省が発表した「DXレポート」は「2025年の崖」というキーワードとともに、日本企業で21年以上使い続ける基幹系システムが6割を越し、IT人材の絶対的な不足と相まって、日本企業の成長、DXの足かせになるという衝撃的なものだった。

旧来のCOBOLを中心とした言語やメインフレームやオフコンを知る技術者も引退の時期を迎え、初期構築や更新履歴時のドキュメントが残されていないシステムが多い。

また、過去にERPを導入した企業でもカスタマイズやアドオンが多く抱えたまま、SAP社製ERPも2025年には保守期限を迎え、次世代型ERPであるSAP S/4 HANAへの移行が迫られている。

この状況で、情報システム部門には「海外拠点を含めたシステムの全体最適化・ITガバナンスを検討せよ」とか、「デジタル化を促進するため、AIやIoTを使って何かできないか?」、「RPAやモバイル、クラウド製品を使って働き方改革を支援できないか?」といった要望がどんどん上がってくるか、スパゲッティ化・ブラックボックス化した既存システムの御守りに人と予算を取られ、とても手が回らないというのが実情であろう。

システム刷新プロジェクトのリアル

NTTデータグローバルソリューションズは2012年の設立以来、グローバルレベルで活躍する日本企業の基幹系システムを支援すべく、SAPの導入から運用までワンストップで提供している。

400名を超えるSAPコンサルタントを有し、日本本社や国内拠点への導入だけでなく、海外20数か国での導入実績があり、当社のAMS(アプリケーションマネジメントサービス)を活用いただいている顧客企業も100社近い。

そうしたこれまでの経験から、日系グローバル企業の多くの基幹系刷新プロジェクトを進めていく中で、海外グローバル企業と日本企業、海外拠点と国内拠点のERPの使い方の違い、全体最適に向けた効率的なシステム統合の進め方、世界レベルでの経営情報の可視化はどうあるべきか、日本企業の真の競争力を生かしながら、グローバルERPが持つベストプラクティスやテンプレートをいかに適用していくか等々のポイントを熟知してきた。

先頃、社内のエキスパートたちの手による「グローバル経営のモダナイゼーション」を日経BPより刊行したが、そこでは、これまで当社が手掛けてきたグローバルERPプロジェクトの事例を紹介し、「成功の方程式」を明らかにさせていただいた。次回以降、本格的に進めさせていただくERP活用の話は、同書に載せられなかった最新の事例であるとともに、さまざまなプロジェクトを成功に導いたコンサルタントたちの「リアルな姿」を通じて、真にグローバルで勝つために必要なERPの活用について、多少なりとも参考にしていただければと思う。

著者プロフィール

磯谷元伸(いそやもとのぶ)
株式会社NTTデータグローバルソリューションズ
代表取締役社長

1986年(東京大学工学部を卒業し)、同年日本電信電話 株式会社に入社。1988年にNTTデータ通信 株式会社(当時)に転籍。NTTデータ経営研究所、法人ビジネス推進部企画部長等を経て、2010年流通・サービス事業本部副事業本部長。2015年に執行役員 製造ITイノベーション事業本部長。2016年12月より株式会社 NTTデータ グローバルソリューションズの代表取締役社長に就任。現在に至る。