ここまで来た、短時間システム構築要求と瞬時のスケール力
ビジネスに求められるスピードはさらに速くなっている。
最近ではTwitterやFacebookで話題になったのを見てプロジェクトを開始することも少なくない。数日から数週間というごく短期間のうちに、イベントや新製品の企画を練り上げ、新しいキャンペーンサイトを立ち上げる。そんな企業が増えてきている。
従来の感覚では考えられないスピードでビジネスを進めなければ勝ち残りにくい時代になってきたのである。
こうした状況を受け、最近では、データセンターサービスが話題になっている。世界中でさまざまなデータセンターサービスが提供されているが、なかでも今、注目を集めているのがクラウドサービスだ。「すぐさま利用できる」「使った分だけ課金される」「初期導入コストがわずか」といった利点を持つクラウドは、ユーザ企業に優しいサービスとして認識されはじめている。
提供企業も増えており、今では選択肢も充実している。ちょっとしたサーバーからハイパフォーマンスコンピューティングまで、ありとあらゆる用途でクラウドサービスを活用できる土壌ができてきている。
クラウドサービスの最大のメリットは、状況に合わせてサーバーリソースを変更できること。例えば、キャンペーンの展開中には、テレビで取り上げられたり、有名人のTwitterで紹介されたりといったことも少なくない。その場合、ある一定期間だけ急激にアクセスが高くなることになる。この状況に対応できるシステムを作るには、ピーク時のトラフィックに合わせてハードウェアを用意することになるが、それではほとんどの時間でリソースを持て余すことになる。費用対効果が非常に低いシステムができあがってしまうわけだ。
対して、クラウドであれば、必要な時だけサーバーリソースを追加できる。従量課金なので、割に合わない料金を支払うこともない。キャンペーンサイトやECサイト、ソーシャルゲームなど、正確にトラフィックを読むのが難しいWebサイトにはうってつけのサービスである。コンシューマー向けWebサイトに携わるエンジニアには今、このクラウドサービスを使いこなす技術――どのクラウドサービスを使い、どれだけ短時間に、実用的なシステムを組み上げることができるか――が求められているのである。
ニフティクラウドを本音で試す
短期集中連載である本企画では、数あるクラウドサービスの中から「ニフティクラウド」を紹介したいと思う。
ニフティクラウドはパブリックのクラウドコンピューティングサービス。VMwareで仮想化されたサーバー資源を短時間ですぐに利用できるとされている。また、初期費用がかからず、料金プランも多種多様だ。
そして、特に強調されているのが、オペレーションの簡単さ。わかりやすさを追求した独自のコントロールパネルにより、サーバーの立ち上げ、監視、運用を容易に行えるという。 ニフティクラウドにはそのほかにもさまざまな特長があるようだが、サービスそのものの紹介はほかの記事に譲ることにして、本企画では、エンジニアの視点で実運用を意識しながら、このサービスが本当に簡単に導入できるのか、そして実際の事案に活用できるのか、という視点でサービスを評価していきたい。
検討の第一歩、まずはサービスと料金プランをチェック
クラウドサービスの検討プロセスを想定して、まずはサービスの内容と料金プランをチェックしたい。
簡単にだが、利用できる代表的なサービスと課金体系を次にまとめた。
項目 | 内容 |
---|---|
料金 | 専有サーバーは初期費用と月額固定、共有サーバーはタイプごとにそれぞれ月額課金または従量課金 |
OS(有償) | Red Hat Enterprise Linux、Windows Server (+ Microsoft SQL Server) |
OS(無償) | CentOS、Ubuntu LTS |
基本サービス | リージョン/ゾーン、コントロールパネル、ニフティクラウドAPI、コンソール、基本監視、パフォーマンスチャート、障害・お知らせ通知、マルチアカウント、IP許可制限、料金明細サービス、CloudAutomation(β) |
サーバーディスク | サーバーコピーとVMインポート無料。増設ディスクまたは超過ディスクは月額課金または従量課金 |
ネットワーク | プライベート通信は無料。グローバル通信の超過分は従量課金。固定IP無料、固定IPなしは値引き |
ロードバランサ | 月額課金または従量課金 |
プライベートLAN | 月額課金 |
セキュアネットワーク | 月額課金 |
VPN接続 | 従量課金 |
ファイアウォール | 無料。各種オプションやScutumは月額課金 |
SSL証明書 | 都度料金 |
基本的なサービスは月額課金または従量課金を選択できる。必要に応じて有料のオプションを追加できるといった内容だ。ロードバランサなども用意されており、基本的にニフティクラウドで提供されているサービスで事足りるといえそうだ。
検討の際にもう1つチェックしておきたいのが、リファレンスやサポート形態だ。
クラウドサービスの導入を検討する企業の中には、海外のサービスを選択する企業も少なくない。技術解説記事などで海外のパイオニア的なサービスが取り上げられることが多いのも影響しているのだろう。
しかし、実運用で考えなければならないのは、わからないことに遭遇したときに効率的に適切な情報へと辿り着けるのかという点である。
新技術を積極的に活用するエンジニアには、年に何回も海外渡航するような方が多い。そうしたエンジニアは、英語を使いこなすのはもちろん、海外の文化(考え方や慣習)に慣れている。調査と操作の勘を持ち合わせ、"想定外"も簡単に乗り越える力がある。
そんな彼らの紹介するサービスが、日本の事業者にとって最適とは限らない。彼らにはお馴染みの作業が、日本人にはそうでないケースは多分にある。これは頭に入れておくべきだろう。
ビジネスにスピードが要求される今、扱いづらいインフラは大きなリスクにもなる。管理者自らの視点で慎重に検討を重ねるべきだろう。
事前知識ゼロ! この貴重な条件で導入しやすさを検証
では、ニフティクラウドの導入作業に進んでいこう。
こうしてニフティクラウドを紹介することになった筆者だが、実のところ、ニフティクラウドに触れるのは完全に初めてである。操作に関して大した情報もない。したがって、これから導入を検討するエンジニアと同じ立場で、サービスに触れることになる。
「使ったことがない状況」というのは不可逆で、一度経験してしまえば二度とそこには戻れない。ここではその貴重な状況を大切にしながら、事前調査なしでどこまで使えるのか試してみる。
なお、今回は、キャンペーンサイトを構築するという想定の下に作業を進めていく。
1. サービス申込み
まずはログイン。画面は以下のようなかたち。なお、ID/パスワードはニフティの法人会員のものを使う。法人会員になるには、法人名や担当者名、住所、連絡先などの情報が必要になるが、いずれも"お決まり"のものですぐに終えられる。
ID/パスワードを入力するとメールアドレスの入力を求められる。料金体系やサービスの内容なども確認できるので、内容を確認してからチェックボタンにチェックを入れて次へ進む。
申し込みはこれで完了だ。さっそくコントロールパネルのページに移動できる。
「コントロールパネルにログインボタン」をクリックすると、初回であるためか、以下のようにリージョンを設定せよという選択肢が表示された。選択対象は「東日本」と「西日本」が用意されている。リージョンを選択して、再度「コントロールパネルにログイン」ボタンをクリックする。
2. コントロールパネル登場
表示されたコントロールパネルは以下のようになっていた。
リソースの情報はすべて0。仮想サーバーを立ち上げていないので、こういうことになるだろう。
左のメニューが操作項目になっているように見える。おそらくサーバーを立ち上げるのは一番上のサーバーだろう。
3. 仮想サーバーの立ち上げ
早速、サーバーをクリックしてみる。すると、以下のような画面になった。
上部に「+サーバー作成」というボタンがあるので、これで仮想サーバーを作るのだろうと予想した。
「+サーバー作成」のボタンをクリックすると、ウィザード的なダイアログが表示された。
上部の情報を見る限り、9ステップを経て仮想サーバーを作成するようだ。1つ目はゾーンを選択という内容なので、適当にゾーンを選択。ゾーンによってファイアウォールが使えるものと使えないものがあるようだ。
続いてオペレーティングシステムを選択する画面が表示された。
最近はエッジサーバーのLinuxとしてはUbuntuのLTSを採用するケースが増えているので、それに倣って「Ubuntu 12.04 LTS」を選択した。
次にサーバー名を指定するページがでてきたので入力。
固定IPを使いたいので固定IPを選択した。
次の内容は、オプションとして用意されていないようなのでそのまま次へ進む。
続いては、作成するサーバーの種類と支払い方法の選択画面である。
サーバーは、とりあえず小さいほうの「mini」を選択。料金コースは月額を選んで次に進んだ。
続いて、ssh(1)の秘密鍵と公開鍵のセットを作成する画面が表示されたので、パスフレーズを入力して鍵を作成。
すると、作成した鍵のうち秘密鍵がダウンロードできるようになったので、このファイルをダウンロードしてきて秘密鍵として登録しておく。
この秘密鍵を使ってssh(1)経由でサーバーにログインして使うということなのだろう。 次の画面に進むと、システム起動時に自動的に実行するスクリプトを指定する画面が表示された。
今は必要ないので、そのまま次に進んだ。
続いて、ファイアウォールの選択または新規作成のページに。
こちらも特に必要ない(※)のでそのまま次へ。
※(編集部注) 本番運用に際しては事前にファイアウォールを設定するなど、安全なサーバー環境の構築が必要となります(詳しくは、2014年3月公開予定の第3回をご参照ください)。
最後に作成する仮想サーバーの確認ページに。
内容を確認して、そのまま「作成する」をクリックすると、ダイアログが終了して「サーバー」メニューに戻ってきた。
しばらく待っていると作成終了を確認。
指定した名前でサーバーができており、ステータスの部分が「作成中」という表示になっていた。
ここまで、マニュアルを読むことも途中で調査することもなくスムーズに作業できた。ご覧のとおり難しい項目は特にない。「簡単に利用できる」という謳い文句は間違いなさそうだ。
サーバーにログイン、Ubuntu LTSのサーバー構築完了
サーバーが立ち上がったはずので、さっそくサーバーにログインしてみる。
仮想サーバー構築の途中でダウンロードしてきた秘密鍵を配置してssh(1)でログインするとそのままログインできた。なお、ユーザ名に何を指定すればよいのか迷ったが、rootを指定したら問題なく入れた。
流れはスムーズだ。特に引っかかったところはなく、最初のログインから仮想サーバーの作成、サーバーへのログインは(利用規約や料金体系を読むといった部分を除けば)全部合わせても数分といったところだ。
筆者の場合、他のクラウドサービスを使ったことがあったのでまったく何の迷いもなく進めたが、未経験で流れがわからない方は、もしかしたら"おっかなびっくり"に進めることになるかもしれない。それでも、ご覧いただいたとおり、立ち上げで詰まる箇所はなさそうだ。いきなり使い始めてここまでできるなら、かなり使い勝手がよいサービスと言えるだろう。
1回目となる本稿では、導入の容易性について触れてきた。2回目となる次回は、今回立ち上げた仮想サーバー上でキャンペーンサイトの構築を行っていく。