完全な電動化を阻む要因

ICEよりも電動パワートレインの方が優れているということに議論の余地はありません。電動パワートレインの性能と応答性は高く、静粛かつゼロエミッションの走行を可能にします。また、メンテナンスや走行にかかるコストが少なく、安全でシンプルです(可動コンポーネントと故障が発生する可能性のある個所が少ない)。

加えて、電動自動車では、ICEやそれに付随するベルト駆動システム、排ガス浄化触媒コンバータ、トランスミッションなど、重くて複雑で高価なコンポーネントを排除したり、大幅に簡素化したりすることができます。その結果、設計技術者は思いがけないほどの自由度を手にすることになります。それらのコンポーネントを、パワー対重量の比率がはるかに高く、より柔軟な配置が可能な小型のコンポーネントに置き換えることができるからです。唯一の問題は、完全な電動車のパワートレインのコストがまだあまりにも高すぎることです(その主な原因は、電池パックにあります)。

自動車メーカーは、各国政府が全車両に課す燃費や排ガスの規制を満たさなければなりません。そのことから、電動化がもたらす性能面でのメリットが魅力的に映るのは当然のことです。そこで自動車メーカーは、ICEのパワートレインと電動パワートレインの両方を創意工夫に満ちたさまざまな方法で統合するようになりました。それにより、電気自動車の魅力的な性質の一部を、ICEをベースとする自動車にもたらそうと考えたのです。ただし、電池のコストが十分に低下するまでは、完全な電気自動車に対応できるほどの大容量の電池パックを搭載することは避けなければなりません。

ただ、電池のコストは急速に低下しています。自動車だけでなく、スマートフォンをはじめとする民生製品の領域でも電池に対して多大な投資が行われ、イノベーションが進んでいるからです。電池の性能対コストの曲線は、年間2桁という驚異的なペースで低下しています。そのペースが落ちる様子はまったく見受けられません。

  • 電池価格の推移

    図4. リチウムイオン電池の価格は2016年の水準から24%低下するなど、年々低下している。1kWh当たり100ドルになれば、量産市場において完全な電気自動車の普及が一気に加速すると見られている。現在では、その水準に近づきつつある (出典:Bloomberg New Energy Finance社による調査結果、画像提供:Bloomberg New Energy Finance (BNEF) survey, 2017)

上述したように、自動車メーカーの多くは、完全な電動化が可能になるまでの間、ハイブリッド車への移行を進めることになるでしょう。それにより、車両の複雑さは軽減されるどころか、さらに複雑化が進んでしまいます。ハイブリッド車のパワートレインでは、コンポーネントの数も故障が生じる可能性のある個所も増加します。また、異なる2つのパワートレイン技術を統合することに伴う厄介な問題も発生します。その統合を成し遂げるには、高度なコンポーネントと、それよりもさらに高度なソフトウェアや制御手法が必要になります。

イノベーションと歩調を合わせる

自動車メーカーは、ハイブリッド車に対して野心的とも言える目標を掲げる傾向があります。その主たる理由は、政府が定める燃費/排ガス規制の存在です。もう1つの理由としては、競合他社と同じタイミングで魅力的な電気的性能を備える製品を提供しなければならないという圧力が挙げられます。

魅力的であるか否かは、顧客にどれだけ好まれるかという形で結果として現れます。そうした要因が、厳しいスケジュールでの車両開発を促しています。その結果、テスト技術者には、より複雑なシステムに対する、より多くのテストを、より短時間で完了し、ハイブリッド車が高い安全性と信頼性と性能を備えていることを証明しなければならないというプレッシャーがかけられることになります。

幸い、テスト用プラットフォーム向けのツールや技術は、自動車業界全般で見られるイノベーションと同等のペースで進化しています。車載システムのテストを担当する部門は、自社の組織や車両開発の部署から寄せられるより厳しい要件を満たすために、そのイノベーションの成果を活用する必要があります。

Nate Holmes

著者プロフィール

Nate Holmes
National Instruments
プリンシパルソリューションズマネジャー(フィジカルテスト担当)

フィジカルテスト(データロギングやテストセルなど、物理的な計測を伴うアプリケーション)分野担当のソリューションズマネジャーであり、自動車業界や航空宇宙業界で行われる各種テストの課題解決にNIのプラットフォームや製品を活用する方法を提言しています。
ターゲットとする市場やアプリケーションの特定、メッセージの策定、ワールドワイドでのセールスの効率向上、パイプラインの活用を主に担当しています。

2007年にアプリケーションエンジニアとしてNIに入社後、高校生向けロボットコンテスト「FIRST」を積極的にサポートした後、EtherCATやCompactRIO拡張I/O、インダストリアルコントローラに代表される組み込みシステム製品とモーション/ビジョン関連製品のプロダクトマネジメントを担当。その後活躍の場をR&Dに移し、モータ制御やマシンビジョンなどの製品ラインを担当するR&Dグループマネジャーとして慣習の異なるさまざまな国のメンバーから成るチームのマネジメントを行い、製品戦略やロードマップ策定を担当しました。