消費電力はどうなるのか
次の図1.9は、TOP500の中で最高の電力効率(GFlops/kW)のシステムの年次推移と、Top10システム、Top50システム、TOP500システムの電力効率の平均値をプロットしたもので、最高効率のシステムのGFlops/kWは順調に伸びているように見える。しかし、このグラフは片対数ではなく、リニアの目盛であり、GFlopsが指数関数で伸びるのには追い付かない。
Top10、Top50、TOP500システムの平均の電力効率を見ると、大規模システムの方がGFlops/Wが高いという傾向が見られる。電力効率が上位のシステムは小規模システムが多く、技術的には逆の傾向となってもおかしくないのであるが、消費電力の大きな大規模システムでは消費電力低減に努力をしていることの表れではないかと思われる。
世界各国のせめぎ合い
図1.10はTOP500にランクインしたシステムの国別のシェアを示すもので、米国が47%とほぼ半数を占める圧倒的なスパコン大国であることが分かる。それに次いで、日本、中国が8%、ドイツが7%、英国が7%、フランスが5%と続いている。
図1.10は1位でも500位でも1システムというカウントであるが、図1.11は各国のTOP500にランクインしたシステムのFlopsの合計の年次推移を示すもので、米国は常にトップを維持している。EUはおおむね2位を維持しているが、日本が肉薄している時期もある。注目は中国で、日本を上回り、天河2号が登場したときには一時的にはEUも上回っていた。中国は、積極的にスパコンに投資する姿勢であり、近い将来、米国に次ぐ2位に定着するのではないかと思われる。
メーカー別の性能シェアを見ると、図1.12のようになっている。性能シェア1位はCrayで24%のシェアである。そして、シェア20%のIBM、14%のHPがスパコンメーカーの3強といったところである。そして、これらに続くのが天河1号、2号を作った中国のNUDT(国防科学技術大学)のシェア11%、SGIの8%、富士通の5%といったところである。
筆者の考察
最後に、筆者の考察であるが、図1.4に示された性能の鈍化の傾向がTOP500の1位のシステムにも当てはまるとすると、2019年のLinpack性能は1ExaFlopsではなく、その1/10の100PFlopsとなってしまう。そして、鈍化した伸び率でそれが10倍になるのには9年程度掛かるので、1ExaFlopsに達するのは2028年となってしまう。
そして、図1.9のグラフでは、電力効率は、年間600GFlop/kW 程度改善されるという傾向になっている。2015年の電力効率最高のシステムのエネルギー効率は約4200GFlops/kWであり、2019年に1ExaFlopsのシステムができたとすると、エネルギー効率は6600GFlops/kWと予想される。そうすると、消費電力は151MWとなる。
2013年の以降の性能の伸びの鈍化を考慮して、2028年に1ExaFlopsとすると、エネルギー効率は12000GFlops/Wとなり、1ExaFlopsのシステムの消費電力は83.3MWとなる。ただし、図1.9は電力効率の改善を直線近似しており、長期の改善については悲観的ではないかと思われ、実際には消費電力はここまで大きくならないかも知れない。
これらの予想は、技術的な積み上げではなく、TOP500のデータからの外挿であるが、2020年~2022年頃にLinpack性能が1ExaFlopsのシステムを20MWで動かすという目標は非常にチャレンジングであることを示している。