前回は、通信プロトコルとOSI参照モデルについて学習しました。今回はそのOSI参照モデルの一番下のレイヤ(層)、第1層「物理層」について学習します。
物理層の物理とは、言葉通り、物理的なものを指します。物理層の仕組みは、上位層の仕組みを実現する、大変重要な要素になります。OSI参照モデルの上位層の仕組みを動かすために、物理的にどのような媒体(メディア)を使うのかを決めることが必ず必要になります。
コネクタ、機器同士の接続、そして送受信する電気や電波、光の信号など、さまざまな物理的な規格が定まっていなければ、通信ネットワークを構築することはできません。
物理層の規格
物理層の規格にはどのようなものがあるのでしょうか。
一つは、有線環境の規格です。ケーブルやコネクタ、そしてそこに流れる電気信号(銅線の場合)や、光の信号(光ファイバケーブルの場合)などがあります。もう一つは、無線環境の規格です。使用する電磁波(電波や赤外線など)やアンテナなどがあります。通信ネットワークでは、両方ともさまざまなサービスや製品で利用されています。
国際連合の専門機関である、国際電気通信連合(ITU : International Telecommunication Union)では、電気通信標準化部門(ITU-T)において、電気通信に関わるさまざまな規格を標準化しています。その中には物理層の規格も多く含まれています。
皆さんがよく利用している携帯電話網(LTEや4G、5Gなど)、無線LAN通信(Wi-Fi)、そして有線LANも、それぞれの環境に合わせた物理層の規格が選択、利用されているのです。
ケーブルとコネクタ
物理層の規格がなくてはならないものであるということは、実際の通信ネットワークを見てみるとより理解できます。具体的な例をみていきましょう。
有線LANで使う物理層の規格には、大きく分けて銅線と光ファイバの2つが存在します。銅線は安価で導入可能なので、たくさんの機器をつなげなければならない社内ネットワークでよく利用されています。
一方の光ファイバは、銅線よりも信号を長距離伝達することが可能で、かつ電磁波の影響を受けにくいという特徴があります。社内ネットワークでも、広い敷地内のビル間など、距離が必要な場合などでは、光ファイバケーブルが選択されます。
同軸ケーブル・ツイストペアケーブル
有線LANで使用される銅線のケーブルには、同軸ケーブルタイプと、UTP(アンシールデッド・ツイスト・ペア:絶縁体でシールドされていないより対線)タイプが存在します。
同軸ケーブルタイプは、図1のように、中央の銅線(中心導体)が、絶縁体と、外部からの電磁波から守るための網目状のシールド(これも通常銅で作られています)に覆われた形で作られています。信号の送信や受信を1本の中心導体でまかなう規格の同軸ケーブルが、データリンク層のEthernet規格で最初に採用されました。
同軸ケーブルタイプはさまざまな環境で普及しましたが、現在は同軸ケーブルよりも取り回しの自由度が高い(細くて曲げやすい)UTPが広く使われています。Ethernetで使用されるUTPケーブルは、図2のように、銅線8本を2本ずつよって(ねじって)まとめられているものが使用されます。8本になることで、そのうちのどれを送信信号に使うか、受信信号に使うか、分けることが可能になっています。
Ethernetの規格では、UTPを使う場合、RJ45という規格のコネクタを利用します。図3のように、8本の導線を1つのコネクタにまとめ、脱落防止のツメを付けたものになっています。このケーブルを他の機器に接続するには、接続先でこのコネクタに対応したポート(ソケット)が必要になります。
光ファイバケーブル
次に、光ファイバケーブルについてみていきましょう。光ファイバケーブルは、図4のように、中心にコア(光信号が通る媒体)があり、コアとは屈折率の異なるクラッドに覆われています。コアもクラッドも石英ガラスなどで作られており、屈折率の違いによりコア内で光が反射し、遠くに届くようになっています。
Ethernetの規格で採用されている光ファイバの規格には、 マルチモード、シングルモードの2種類があります。マルチモードとシングルモードではコア径や、光源が異なり、シングルモードの方が高価ですが、より長距離伝送が可能になります。
マルチモードは、主に限られた敷地内で利用するものです。シングルモードはマルチモードよりもさらに距離を伸ばしたい場合に利用します。電気通信事業者が通信拠点間をつなぐ場合に利用します。図4に、2つのケーブルの違いを示していますので参照してください。
光ファイバケーブルのコネクタには、いくつか種類があります(図5)。現在の主流は小型化されたLC型のコネクタです。ネットワーク機器の高性能化により、たくさんのポートを1つの機器に搭載することが可能になったため、コネクタの小型化が進んでいます。
接続する機器の違いにより、ケーブルの両端で異なるコネクタが利用される場合もあります。コネクタとポート(ソケット)の仕様が合わなければつなぐことはできませんので、接続先の規格に合わせたコネクタを持ったケーブルを用意しましょう。
電波とアンテナ
ここまで、有線LANの物理規格である、ケーブルやコネクタについてみてきました。無線LAN(Wi-Fi)で定義されている物理規格は電波ですが、各国の定めた電波法に則った利用が必要です。国内で販売されている無線LAN機器についても、それに準拠した周波数帯や出力強度を利用するものになっています。
無線LAN(Wi-Fi)の規格も複数あり、規格によって電波のどの周波数帯を利用するか、電波をどのように変化させてデータを運ぶかなどの仕様が異なっています。またアンテナについても、無指向性(全方位で電波を送受信できる)アンテナや、指向性(特定の方向で電波を送受信する)アンテナなど、利用環境によって選択することができます。
無線LANの規格については別の回で詳しく説明します。
まとめ
・物理層のプロトコルとは、ネットワークの物理的な仕様、規格について定めたものをいう
・物理層の規格には、ケーブルやコネクタ、情報を伝える電気信号、電波などが存在する
・LANでよく使われているケーブルには、銅線と光ファイバケーブルがあり、その特徴に応じて使い分けられている
・コネクタの形状にもいろいろあり、コネクタとそれに合わせたソケット(ポート)を用意する必要がある
・無線LANで利用される電波も規格が定められており、それに従って製品が作られている
次回は、OSI参照モデルの第2層(データリンク層)についてお話します。
著者プロフィール
髙橋 真樹(たかはし まさき)
ネットワンシステムズ株式会社
ビジネス開発本部イノベーション推進部ネットワークアカデミーチーム所属
1995年ネットワンシステムズ入社。前職ではシステム開発に携わっていたが、入社後は ネットワークインフラの構築業務を経て現在の技術インストラクター業務に就く。長年ネットワークエンジニアの育成を担当しており、シスコシステムズ社の認定インストラクターとしてCCSI Excellence Awardおよび Contribution Awardの受賞経験あり。近年はネットワークに加え、IoTや仮想化、自動化などのカリキュラム設計も担当している。