最近、テレビやネットニュースなどで、「クラウド○○」という言葉を聞く機会が多くなっているのではないでしょうか。今回はクラウドの全体像と、クラウドを支える仕組みである仮想化技術について紹介していきます。

クラウドとは

クラウド(クラウドコンピュータ)とは、“インターネットなどのネットワーク上にあって実体がつかみにくいが、コンピュータとしての動作をきちんとこなしている何か”を指します。コンピュータとしては間違いなく存在していても、具体的なカタチが見えないために、クラウド(雲)という漠然とした言葉で表現されているのです。

このクラウドが登場するまでは、「コンピュータ」を購入し、さまざまなソフトウェアをインストール(場合によってはソフトウェア開発)することで、必要なシステムを構築してきました。しかし、この方法では導入時にかかるコスト、システムを維持するためのコストや労力が大きな負担となっていました。

そこで、システムに必要なハードウェアやソフトウェアをクラウドサービス提供会社が所有して維持管理を行い、利用者は「欲しいサービスの利用料を利用分だけ支払えばよい」という活用方法に大きな注目が集まりました。

  • 図1 クラウドサービスはクラウド提供会社がインターネット上で提供している

    図1:クラウドサービスはクラウド提供会社がインターネット上で提供している

さまざまなクラウドサービス

このクラウドサービスには大きく3つの種類があります。IaaS(Infrastructure as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、SaaS(Software as a Service)です。

IaaS

サーバやネットワークなどのコンピュータシステムそのものを提供するサービスです。

PaaS

IaaS上にソフトウェアを実行するために必要な機能(「ミドルウェア」と言います)を含めた環境を提供するサービスです。

SaaS

ソフトウェアを提供するサービスです。

さらに、SaaSにはどういったものがあるか、いくつか例を見ていきましょう。

コミュニケーションサービス

在宅勤務の時に会議を行うためのリモート会議サービス、メッセージのやりとりを行うチャットサービス、ユーザーの予定やお知らせを共有するグループウェアサービスなど。

データ保存サービス

作成した文書や表計算データなどを保管するオンラインストレージサービスや文書管理サービスなどのデータ共有サービス、データをバックアップするサービスなど。

顧客管理サービス

顧客情報を管理したり、受注の進捗状況を把握したりするために利用する顧客管理サービスなど。

SaaSはまだまだ他にもありますが、これまで会社内で処理していた多くの業務を、クラウドサービスでできるようになっています。

クラウドサービスのメリットとデメリット

クラウドサービスのメリット

  1. 迅速なシステム導入
    システムを導入するまでの時間が短くなり、素早く利用することが可能になります。これは、サーバ機器の購入や初期設定などを行う必要がなくなるためです。

  2. 導入コストの削減
    これらの購入費用が不要になるため、導入コストを抑えやすくなります。

  3. 管理負荷の軽減
    システムの管理はクラウド提供会社が行うため、その分の管理を行う手間がかかりません。サービスで利用するアカウントの管理や設定など、行うべき作業はゼロにはなりませんが、サーバの物理的な管理作業は行う必要がなくなります。

  4. 利便性の向上
    クラウドサービスは、そのシステムがクラウド上にあるため、いつでもどこでもどの端末からでも利用ができる使い勝手の良さがあります。インターネットなどのネットワークにアクセスできる環境があれば、在宅勤務時の自宅のPCからでも移動中のスマートデバイスからでも利用することが可能です。

クラウドサービスのデメリット

  1. 設定変更が困難
    企業内に自前で構築したシステムに比べて自由な設定変更ができない場合があります。これはクラウドサービスの動作仕様が決まっているためであり、その仕様を変更するために追加の費用が発生する場合があります。

  2. サービスの品質のコントロールが困難
    クラウドサービスの安定性や操作性、セキュリティ(安全性)などの使い勝手はそれぞれのサービスの品質(サービスレベル)によります。このため、例えばトラブルが発生しサービスが利用できなくなった場合、サービスレベルによっては復旧までに時間がかかってしまう恐れがあります。

  • 表1【クラウドサービスのメリット・デメリット】導入時間の短縮やコスト低減のメリットがある一方、設定に不自由さ・制約がある

    表1【クラウドサービスのメリット・デメリット】導入時間の短縮やコスト低減のメリットがある一方、設定に不自由さ・制約がある

クラウドを支える仮想化技術

次は、クラウドを支えている仕組みについて見ていきましょう。

クラウドサービスを提供している会社が、サービスを提供する顧客ごとに専用のサーバを構築していくと、用意するサーバの数が莫大になり設置スペースも不足します。この問題を解決するため、物理的に1台のサーバ上で複数のシステムを同時に稼働させる「仮想化技術」が使われています。

この仮想化技術を使うことで、物理的な1台のサーバが文書管理サービス、勤怠管理システム、顧客情報管理システムなど、何役も同時にこなすことができます。また、顧客ごとに異なるシステムを稼働させることも可能です。

こういったサーバの仮想化を行うソフトウェアを「ハイパーバイザ」(※1)と呼び、ハイパーバイザ上で動作しているシステム一つ一つを「仮想サーバ(仮想マシン)」と呼びます。

(※1):VMware社の「VMware vSphere」や、Microsoft社の「Hyper-V」などが有名です。

  • 図2 1台の物理サーバ上で複数のサービス(システム)を動かす仕組みが仮想化技術

    図2:1台の物理サーバ上で複数のサービス(システム)を動かす仕組みが仮想化技術

仮想化技術のメリットとデメリット

仮想化技術を使用するとさまざまなサービスを少ない台数のサーバで効率的に提供できるというメリットを紹介しました。他のメリット、デメリットについても考えてみましょう。

仮想化技術のメリット

  1. サーバ間の負荷分散
    物理サーバが持つ性能を仮想サーバ間で融通し合うことが可能です。例えば、同じ物理サーバ上で50%ずつの性能を分配している2台の仮想マシンのうち、片方の仮想マシンに処理が集中して性能がひっ迫しているとき、もう一方の仮想マシンに余裕があれば性能の一部を分け与えることが可能です。このようにして物理サーバが持つ性能を効率的に最大限活用できます。

  2. 手軽な仮想マシンの増減
    同じ仮想マシンを手軽にコピーすることができます。これまで同じ機能のサーバを増やすには、機器を購入し、ソフトウェアをインストールし、設定する必要がありました。しかし、仮想マシンはファイルで作成されているので、コピーするだけで簡単に数を増やすことができます。また、不要になった場合はファイルを削除するだけなので、物理的な破棄処理などが不要になります。

仮想化技術のデメリット

  1. 他の仮想マシンの影響を受けやすい 1台の物理サーバ上で稼働している仮想マシンが何らかの原因で異常な動作に陥ると、土台になっている物理サーバの動作を不安定にさせ、さらには他の仮想マシンも引きずられるように性能が低下する恐れがあります。

  2. ハイパーバイザに対するセキュリティ対策の追加
    従来はサーバのセキュリティ対策としてOSの対策とアプリケーションの対策を施していましたが、それに追加してハイパーバイザのセキュリティ対策も施さなければいけません。

  • 表2  【仮想化技術のメリット・デメリット】物理サーバの台数を抑えてリソースを柔軟に活用することが可能

    表2 【仮想化技術のメリット・デメリット】物理サーバの台数を抑えてリソースを柔軟に活用することが可能

現在、クラウドコンピュータは仮想化技術の発達によって飛躍的な進化を遂げています。物理的な「1台の形」としてのコンピュータにとらわれず、さまざまな形態で作られたコンピュータが私たちを取り巻き、ネットワーク上にも多数存在しています。

今回のまとめ

・クラウドとは、“インターネットなどのネットワーク上にあるコンピュータとしての動作をしている何か"であり、クラウドサービス提供会社が所有し、提供している

・クラウドは大きくIaaS、PaaS、SaaSの3種類に分かれており、SaaSを利用することで会社での多く業務をクラウドでできるようになる

・クラウドを支える仕組みとして、1台のサーバで複数のシステムを同時に稼働させる「仮想化技術」が使われている

今回はクラウドの概要や活用の方法について紹介しました。次回は、第3回「通信のお約束」に関する内容を紹介します。

著者プロフィール


中平 忠芳(なかひら ただよし)


ネットワンシステムズ株式会社
ビジネス開発本部イノベーション推進部ネットワークアカデミーチーム所属
エキスパート
2004年ネットワンシステムズ入社。市場投入前のセキュリティ製品に対する技術的な検証業務、顧客ネットワーク向けの設計・構築業務、社内システムのインフラ管理業務に携わったのち、現在は顧客向けの技術インストラクターとして勤務。シスコシステムズ社認定インストラクターとして、これまでの幅広い業務経験を活かした研修を実施している。