この連載は、これからコンピュータネットワークを学びたい方に向けて「コンピュータ同士は、どうやってデータのやり取りを行っているのか?」という疑問を解決してもらうことを目的とし、ネットワークの基本的な考え方や、使われている技術のポイントを紹介していきます。

インターネットを支えている技術「TCP/IP」の仕組みを中心にして、ネットワークの裏側で何が起こっているか、その様子を一緒にひも解いていきましょう。

第1回は、皆さんにも起こりそうな場面をいくつか例に挙げ、ネットワーク動作の全体像を把握してもらいたいと思います。

通信の3つのステップ

早速ですが質問です。

「あなたはインターネットやコンピュータネットワークを使っていますか?」

これには、「使っています」とお答えになる方が多いのではないでしょうか。現代社会において、「プライベート/ビジネス」といった場面の違いにかかわらず、コンピュータネットワークの技術を土台にしたさまざまな仕組みを日常生活に取り入れているケースが多いです。

例えば、
・ホームページ(SNSも含む)を使っての情報収集やショッピング
・電子メールやメッセージ、テレビ通話を使ったコミュニケーション
・離れた場所からさまざまな機器の管理や遠隔操作

このように数え始めるときりがありません。もはやネットワークを使っているかどうか、意識する必要もないほど日々のあらゆる場面にネットワーク技術が浸透しています。

どのような環境であるかにかかわらず、ネットワークの動作には次に挙げる3つのステップが必要です。

  1. 何かしらの機器が「送信元」となってデータを送り出すこと
  2. 何かしらの媒体を通して、データの内容が伝わっていくこと
  3. 「宛先」となる機器が受け取ったデータを用いて処理を行うこと
  • ネットワーク動作のための3つのステップ

    ネットワーク動作のための3つのステップ

いくつかのシチュエーションを使って、この流れを考えてみましょう。

ネットワーク動作の概要

シーン(1):自宅内でPCからプリンター印刷を行う

F君は撮り貯めた写真を整理しながら、気に入った何枚かを印刷しようとしています。この場合、F君のPCからプリンターへ写真データを送る必要がありますので、「送信元」となる機器はF君の“PC”、「宛先」となる機器は“プリンター”です。両者の間がどのようにつながっているのかを簡単に図式化してみます。

  • ネットワークを作る際の具体的な行動のまとめ

    ネットワークを作る際の具体的な行動のまとめ

自宅などで複数の機器を1つのネットワークとして構築したものはLAN(Local Area Network)と呼ばれます。LANは、ネットワークを利用するユーザーが自分でネットワーク設計から機器の調達、構築作業や構築後の運用に至るまでを行います。

例えば、自宅にネットワークを作りたいと思った場合に取る行動は以下のようにまとめることができます。

  • 外出先からオフィスまでネットワークの概略

    外出先からオフィスまでネットワークの概略

このように自分で作ったネットワークは、把握できている範囲までは責任をもって管理することができますが、必ず限界があります。LANの“Local Area”というのは、単純に「物理的な狭い範囲」というだけでなく、「責任範囲の限界」という意味合いも含まれています。

では、このLANについてもう少し見ていきましょう。LANは、大きく2つの種類に分けられます。

・通信のためのケーブルをPCに挿し込み、信号のやりとりで通信を行う【有線LAN】
・ケーブルの代わりに、電波を使った信号のやりとりで通信を行う【無線LAN】

現在、有線LANにおいてはEthernet(イーサネット)1が、無線LANにおいてはWi-Fi2の技術が最も広く普及しています。

F君の自宅に構築した有線LANの環境も、必要な準備を整えることで無線LANの環境に作り変えることが可能です。

  • 自宅内の有線LANを無線LANへ

    自宅内の有線LANを無線LANへ

*1)Ethernet IEEE802.3として標準化されている有線LANのための技術の総称。通信に用いるケーブルや通信速度の違いによって、さまざまな規格が定義されている

*2)Wi-Fi IEEE802.11として標準化されている無線LAN規格の製品を製造するメーカー各社が参加して「Wi-Fiアライアンス」を設立します。メーカーを越えた相互通信テストをクリアした製品は「Wi-Fiマーク」を付与して販売されたところから転じて、無線LAN技術全般のことも“Wi-Fi”という言葉で表現するようになりました。

シーン(2):自宅のPCからインターネットを介してプリンター印刷を行う

F君は気に入った写真を大きなサイズで印刷したいと考えました。そこで、インターネットの印刷サービスを使って、コンビニのプリンターへデータを送ることにしました。

この場合、F君のPCからインターネットの先にあるコンビニエンスストアのプリンターへ写真データを送る必要がありますので、「送信元」となる機器はF君の“PC”、「宛先」となる機器は“コンビニのプリンター”です。両者の間がどのようにつながっているのかを簡単に図式化してみます。

  • インターネットのサービスを使った印刷

    インターネットのサービスを使った印刷

自宅の中にある機器同士はLANを使ってデータを送り届けましたが、コンビニにあるプリンターへはどのようにデータを届ければ良いでしょうか。

「家から自分でケーブルを配線」というわけにはいきませんので、こういった場合は、通信事業者(通信キャリア)が提供しているWAN(Wide Area Network)サービスを利用するのが一般的です。

LANとWANには「通信に対する使用料金」の有無、という大きな違いがあります。LANの場合、構築の際にコストが発生するものの、ネットワークが稼働して以降は「データ通信のための料金」は発生しません。

一方WANの場合、サービスを契約している期間中に定常的な「通信のための料金」が発生します。F君の自宅LANからWANへ、さらにはインターネットを経由することで、宛先となるコンビニのプリンターへ写真のデータが送り届けられます。

ここからは、F君が職場(N社)で遭遇した2つのシチュエーションを例に、ネットワークの動きを考えてみましょう。

シーン(3):オフィス内で、自分のPCから社内の共有サーバにデータを保存する

勤務中のF君はノートPCで作成した報告書を、社内のサーバに保存しようとしています。

今回の「送信元」となる機器はF君の“ノートPC”、「宛先」となる機器は“共有サーバ”です。両者の間がどのようにつながっているのかを簡単に図式化してみます。

  • オフィス内ネットワークの概略

    オフィス内ネットワークの概略

これまで紹介した自宅のLANと比較して、企業のオフィス内ネットワークでは「部署ごとの範囲」や「ビルの階数ごとの範囲」といった複数のネットワークをまとめて管理していることが一般的です。構造は複雑になりますがLANであることに変わりはありません。

送信元の機器であるF君のPCは無線LANを使って通信を開始しました。電波で信号のやり取りを行っている無線LANと、有線LANの間を取り次ぐのは“無線アクセスポイント”の役割です。

有線LANに届けられたデータは、いくつかのケーブルやネットワーク機器を経由して、社内の共有サーバ(宛先の機器)までデータが送り届けられていきます。

データ保存ができたことを確認して出張へ出かけるF君ですが、上司から「書類に不備がある」と連絡を受けてしまいました。したがって、F君は先ほどの内容を修正したうえで、共有サーバへ再度データを保存する必要があります。

そこで、F君は新しいデータを空港から送信することにしました。

シーン(4):外出先で、自分のPCから社内の共有サーバにデータを保存する

今回も「送信元」となる機器はF君の“ノートPC”、「宛先」となる機器は“共有サーバ”です。「送信元」と「宛先」となる2つの機器は前のシーンと同じですが、両者の間がどのようにつながっているのか、その環境が異なります。

こちらも一般的なネットワークの構成を簡単に図式化しています。

  • 外出先からオフィスまでネットワークの概略

    外出先からオフィスまでネットワークの概略

F君は、空港の中に無償で提供されているWi-Fi(無線LAN)環境があることを知り、それを利用することにしました。これは利用者サービスの一環として、空港が構築しているLANの通信環境を一時的に貸し出してくれるものです。

自分のオフィスにいる時と同様の仕組みで、PCから電波を使って送り出されたデータが無線アクセスポイントを介して有線LANの通信に変換されていきます。

このあと空港からオフィスまでデータを届ける必要がありますが、F君が個人で配線をするというのは非現実的です。ここでもWANを利用してデータの移動を行うことになります。

まず空港が契約・購入しているWANサービスを借りてインターネットまで接続します。 その後、インターネットからN社が契約/購入しているWANサービスを経由して、オフィスまでデータがたどり着くことになります。さらにN社内の有線LANを介して共有サーバ(宛先の機器)までデータが送り届けられていきます。

無事にデータ保存ができたことを上司に確認し、F君は出張へ出かけて行きました。

通信に必要な機器の種類

前述した4つのシチュエーションは、途中で経由する環境が違っていても、「送信元の機器」にあるデータを「宛先の機器」へ届けたいという目的は同じでした。

これら“送信元の機器”や“宛先の機器”は、データの出発点の端/到着点の端という意味合いでエンドポイント(もしくは端末)と呼ばれます。また、エンドポイント間の通信を実現するためにデータの経由を行うさまざまな種類の機器は総称して転送機器と呼ばれます。

皆さんがこれからネットワークを学習するにあたって、ネットワーク内に存在する機器がどのように動作するかを把握することは非常に重要です。

・エンドポイントが、データのやりとりをするために取っている動作
・転送機器が、宛先となる機器へ適切にデータを届けるために取っている動作

それぞれについて、このシリーズでは順を追って解説していく予定です。

今回のまとめ

・「ネットワーク」は、エンドポイント間でデータを送り届ける動作が土台になっている
・エンドポイント間の通信は、中継する機器やネットワークの動作によって支えられている
・ネットワークには、ユーザーが構築するLANと通信事業者が構築するWANの2種類がある
・LANの構築方法には、有線LANと無線LANの2種類がある

次回は、エンドポイント機器の新しい形として利用が広がっている「クラウドコンピュータ」に関する内容を紹介します。

著者プロフィール


船橋 譲(ふなはし ゆずる)


ネットワンシステムズ株式会社
ビジネス開発本部イノベーション推進部ネットワークアカデミーチーム所属
      
2005年ネットワンシステムズ入社。保守サービスの品質向上のためのエンジニア育成に携わったのち、現在は顧客向けの技術インストラクターとして勤務。インストラクター歴12年。CCIE認定を取得し、[主にネットワーク技術全般およびセキュリティ関連技術の研修を担当している](https://www.netone.co.jp/service/lifecycle/academy/)。シスコシステムズ社認定インストラクターとしてCCSI Excellence Awardを2年連続受賞。