前回、マルチキャストルーティングの基本について簡単に解説した。今回は、ネットギアのレイヤ3スイッチ「GSM7328S」とレイヤ2スイッチ「GSM7248」を利用して、実際にマルチキャストルーティングの設定を行う様子を解説する。
次の図は、マルチキャストルーティングを行うネットワーク構成だ。GSM7328Sで192.168.1.0/24(VLAN10)と192.168.2.0/24(VLAN20)の2つのネットワークを相互に接続している。
マルチキャストサーバはVLAN10に接続している。物理的にはGSM7328Sに直接接続している。そして、VLAN20には2台のマルチキャストクライアントを接続している。物理的にはGSM7248を介してVLAN20に接続していることになる。なお、GSM7248は、VLAN20内でマルチキャストを転送するだけなので、特別な設定は不要だ。
また、マルチキャストサーバおよびクライアントのソフトウェアとして、フリーのメディアプレイヤーの「VLC Media Player version 2.0.7」を利用する。VLC Media Playerは動画ファイルをストリーミング再生するマルチキャストサーバとして動作させることができる。同時に、ストリーミングを受信するマルチキャストクライアントとしても動作できる。
なお、マルチキャストクライアントのグループとして、「239.1.1.1」を利用するマルチキャストサーバおよびクライアントのOSはすべてWindows 7 Professional SP1だ。
マルチキャストルーティングの設定
今回は、マルチキャストルーティングプロトコルとして最も一般的なPIM-SMを利用する。PIM-SMではRPアドレスの設定が必要になるが、シンプルなスタティック設定を行う。ネットギアのGSM7328SでのPIM-SMの設定手順は次のようになる。
1.マルチキャストルーティングの有効化
2.インタフェースでIGMPの有効化
3.PIM-SMの有効化
4.インタフェースでPIMの有効化
5.RPアドレスの設定
では、設定画面のスクリーンショットを交えながら、設定を順に行っていこう。
Step1:マルチキャストルーティングの有効化
まずは、機器自体でのマルチキャストルーティングを有効化する。[Routing]→[Multicast]→[Global configuration]から[Admin mode]として「enable」にチェックして、[Apply]をクリックすればOKだ。
Step2:インタフェースでIGMPの有効化
続いて、IGMPを有効化する。マルチキャストクライアントがマルチキャストグループに参加するときにIGMPを利用する。そのため、クライアントが存在するインタフェースでIGMPを有効化すればよい。今回の構成では、VLAN20でIGMPを有効にする。
[Routing]→[Multicast]→[IGMP]→[IGMP Global Configuration]から[Admin mode]として[enable]にチェックして、[Apply]をクリックする。さらに、[Routing Interface Configuration]からVLAN20を[enable]にする。
Step3:PIM-SMの有効化
Step3~Step5がPIM-SMの設定だ。まずは、マルチキャストルーティングプロトコルとして、PIM-SMを有効化する。[Routing]→[Multicast]→[PIM]→[Global Configuration]で[PIM-SM]と[Enable]にチェックをつけて[Apply]で適用する。
Step4:インタフェースでPIM-SMを有効化
PIM-SMを有効化したら、さらにインタフェースでもPIM-SMを有効化する。PIM-SMを有効化するインタフェースはマルチキャストパケットの経路上のすべてのインタフェースだ。今回のネットワーク構成では、VLAN10とVLAN20でPIM-SMを有効にしなければならない。[Routing]→[Multicast]→[PIM]→[Interface Configuration]からVLAN10とVLAN20を[enable]にする。
Step5:RPアドレスの設定
残りはRPアドレスの設定だ。PIM-SMではRPを中心にマルチキャストルーティングを行う仕組みなので、RPアドレスの設定は非常に重要だ。マルチキャストルーティングを行うルータやレイヤ3スイッチが1台しか存在しなくても、必ずRPアドレスを設定しなければいけない。RPアドレスをスタティックに設定するには、[Routing]→[Multicast]→[PIM]→[Static RP Configuration]でパラメータを指定する。[RP Address]にGSM7328SのIPアドレスを指定する。VLAN10のIPアドレスでもVLAN20のIPアドレスでもどちらでもよい。また、今回は239.1.1.1のマルチキャストアドレスを利用するので、[Group Address]に「239.1.1.1」、[Group Mask]に「255.255.255.255」を指定している。[Override]は、今回のネットワーク構成では特に意識する必要はないので「Disable」としている。
これでPIM-SMの設定はすべて完了だ。
マルチキャストサーバの設定
マルチキャストサーバのVLC Media Playerで動画ファイルのストリーミング再生を行うことで、マルチキャストパケットが送信されるようになる。VLC Media Playerでのストリーミング再生の手順を見ていこう。
Step1:[メディア(M)]→[ネットワークストリームを開く(N)]をクリックする
Step2:[ファイル]タブ→[追加]でストリーム再生する映像ファイルを指定する
Step3:[再生]→[ストリーム再生(S)]をクリックする
Step4:再生するファイルを確認して[次へ]をクリック
Step5:出力先として「RTP/MPEG Transport Stream」を選択して[追加]をクリックする
Step6:[アドレス]にマルチキャストアドレスを指定する
今回は「239.1.1.1」だ。トランスコーディングのプロファイルとして「Video - H.264 + MP3 (TS)」を選択して、[次へ]をクリックする。
Step7:マルチキャストパケットのTTL値を指定し、[ストリーム再生]をクリックする
ここまでの手順が完了すれば、マルチキャストサーバは動画ファイルの内容を「239.1.1.1」宛てに送信することになる。
マルチキャストクライアントの設定
PIM-SMでは、マルチキャストクライアントが現れなければ、マルチキャストパケットをルーティングしない。マルチキャストクライアントで239.1.1.1のグループに参加する設定をしなければ、マルチキャストサーバから送信されたマルチキャストパケットは、すべてGSM7328Sで破棄される。
VLC Media Playerでマルチキャストクライアントとして、特定のマルチキャストグループに参加する手順は次のとおりだ。
Step1:[メディア(M)]→[ネットワークストリームを開く(N)]
Step2:[ネットワーク]タブでURLを入力
今回はマルチキャストグループとして239.1.1.1を利用するので、「rtp://239.1.1.1」を入力する。 [再生]をクリックすることで、マルチキャストクライアントはIGMPのメッセージを送信して、自身の存在を通知する。
マルチキャストルーティングの確認
以上の設定によって、マルチキャストルーティングが行われ、クライアントのVLC Media Playerでサーバからストリームしている動画が表示されるようになる。誌面ではお見せすることができないのが残念だ。
ただ、マルチキャストルーティングの確認はGSM7328S上でも可能だ。[Routing]→[Multicast]→[Mroute table]でディストリビューションツリーを表示する。ディストリビューションツリーはマルチキャストパケットをどのように転送するかを表している。
[Group IP]はマルチキャストパケットの宛先IPアドレスで[Source IP]はマルチキャストパケットの送信元IPアドレスだ。そして、[Incomming Interface]はマルチキャストパケットを受信するインタフェースで、[Outgoing Interafces]はマルチキャストパケットの転送先のインタフェースを表す。今回の構成では、宛先IP:239.1.1.1、送信元IP:192.168.1.8というマルチキャストパケットをVLAN10で受信して、VLAN20に転送しているということがわかる。
まとめ
今回は、ネットギアのGSM7328Sでごく基本的なPIM-SMの設定を行った。設定画面は日本語化されていないが、わかりやすいインタフェースで手軽に設定することができる。マルチキャストというと難しい印象を持つ方が多いが、決して難しいものではない。マルチキャストのアプリケーションを利用することで、ネットワークをより有効に活用できる。 機会があれば、ぜひマルチキャストネットワークの構築も行なってみていただきたい。