ブログに関する法的対応策に関しては、当コラムでも"コメントの削除要求"や"コメント投稿者の情報開示請求"といったケースを見てきました。今回は、ブログ記事を批判するメールに関するものです。

ブロガーが記事への批判メールに反論したい場合、そのメール自体をブログに掲載しても問題はないのでしょうか。メールが「著作物」にあたるかどうかがポイントとなります(編集部)。


【Q】ブログ記事への批判メール、反論のため公開していい?

私は、個人でブログを開設し、時事ニュースについてのコラムを掲載しています。先日、私のブログ内の記事に関して、記事に対する独自の見解を展開した上で記事内容を批判する内容のメールが私宛に送られてきました。私は、メールをブログに掲載し、きちんと反論を行いたいと考えています。ただ、このようなメールを公開することは著作権法上問題があるとも聞いたのですが、本当でしょうか。


【A】「著作物」に該当する可能性が高く、公開しないほうがいいでしょう。

今回送られてきた電子メールは、「著作物」に該当すると判断される可能性が高く、その場合、著作者の許諾を得ることなくこれをブログで公開すると、著作者の公表権や公衆送信権を侵害すると判断される場合があります。公表権や公衆送信権の侵害があると判断された場合には、著作者から侵害行為の差止請求や損害賠償請求がなされる場合があります。


私的な電子メールは「著作物」になる?

ご相談の事例では、相談者宛てに送られてきた電子メールの内容を、著作者であるメール作成者の許諾を得ることなくブログ上で公開する場合、当該電子メールに関してメール作成者の著作権等を侵害するのではないのかが問題となります。

そもそも、本件のように私的な電子メールが「著作物」として法的保護の対象になるのでしょうか。

「著作物」とは、思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するものをいいます(著作権法第2条1項1号)。

ご相談の事例では、「記事に対する独自の見解を展開した上で記事内容を批判するという内容」を持つ本件電子メールが、「思想または感情」を表現したものであるかどうかということは特に問題にならないと思われますので、「創作的」に表現したといえるかが中心的な問題となります。

「創作的」な表現といえるためには、芸術性の高い表現であることまでは必要ではなく、用語の言い回しその他の文章表現に作者の個性が表れていれば足りると考えられています。

他方で、「謹賀新年」のようなありふれた表現の場合は「創作的」とはいえません。

過去の判例では…

本件のような私的な電子メールや手紙の著作物性に関する判例としては、(1)東京高裁平成12年5月23日判決及びその原審である東京地裁平成11年10月18日判決、(2)東京地裁平成21年3月30日判決があります。

1の判決は、作家の三島由紀夫氏の私信を遺族の了解なく文学作品中に掲載したという事案についてのものですが、同地裁判決は、「各手紙には、単に時候の挨拶、・・・依頼、指示などの事務的な内容が記載されているものではなく、三島由紀夫の自己の作品に対する感慨、抱負、被告の作品に対する感想、意見、折々の心情、人生観、世界観等が、・・・飾らない言葉を用いて述べられて」おり、「三島由紀夫の思想又は感情を、個性的に表現したものであることは明らかである」として、手紙の著作物性を肯定しています。

また、同高裁判決も、本件各手紙は「単なる時候のあいさつなどの日常の通信文の範囲にとどまるものではなく、三島由紀夫の思想または感情を創作的に表現した文章である」とし、手紙の著作物性を肯定しています。

2の判決は、Web上に掲載された文書の削除を求めるという内容の催告書を、催告を受けた相手方がさらにWeb上に掲載したという事案についてのものですが、同判決は、「言語からなる表現においては、文章がごく短いものであったり、表現形式に制約があるため、他の表現が想定できない場合や、表現が平凡かつありふれたものである場合は、作成者の個性が現れておらず、『創作的に表現したもの』ということはできないと解すべき」として、結論的には同催告書の著作物性を否定しています。

これらの判決からすれば、たとえ私的な電子メールや手紙であったとしても、時候の挨拶などありふれた表現や形式的な事務的内容が記載されているにすぎない日常の通信文の範囲にとどまるものではなく、著作者の思想または感情を個性的に表現したものであれば、創作性も認められ、「著作物」に該当すると考えられます。

ご相談の事例では、送られてきた電子メールの具体的な内容は明らかではありませんが、「記事に対する独自の見解を展開した上で記事内容を批判するという内容」であることからすれば、「時候の挨拶などありふれた表現や形式的な事務的内容が記載されているにすぎない日常の通信文の範囲」にとどまるものではなく、著作者の思想または感情を個性的に表現したものとして、創作性も認められ、「著作物」に該当すると判断される可能性が高いと思われます。

「公表権」の侵害に当たるか?

公表権とは、簡単にいえば、未公表の著作物を、不特定の者又は特定多数の者(公衆)に提供又は提示する権利をいいます(著作権法第18条)。

一般的に、いわゆる私的な電子メールについては、手紙などと同様、多数人に頒布または提示されることはなく、そのような予定もなされていないため、「未公表」のものといえます。

そこで、本件電子メールが「未公表」の「著作物」に該当すると判断された場合には、相談者が、著作者の許諾なくこれを勝手にWeb上で公開することは、著作者の公表権を侵害することになります。

反面、本件電子メールの内容が、著作者自身によって、既に他の掲示板やメーリングリストなどに掲載され多数人に公表されているような場合には、公表権侵害の問題は生じません。

「公衆送信権」の侵害になる場合

公衆送信権とは、不特定の者又は特定多数の者(公衆)に対して、直接に受信されることを目的として、著作物の送信(公衆送信)を行う権利をいいます(著作権法第23条)。

第三者が、著作者の許諾を得ることなく、著作物の公衆送信を行うことは著作者の公衆送信権を侵害することになります。

さらに、インターネットなどのオンデマンド型の送信の場合には、インターネット上で閲覧が可能なようにWebサーバにデータを格納した時点で公衆送信に該当することに注意が必要です。

本件においても、電子メールが「著作物」に該当すると判断された場合、相談者が、著作者の許諾を得ることなく、だれでも閲覧可能なように自身のブログのWebサーバにデータを格納した時点で、著作者の公衆送信権を侵害することになります。

権利侵害に該当すると…

「公表権」または「公衆送信権」の侵害に該当する場合、著作者は、侵害行為を行った者に対し、侵害行為の差止を請求(著作権法第112条)したり、侵害行為により被った損害の賠償を請求(民法第709条)したりすることができます。

本件でも、相談者が、本件電子メールの内容を著作者の許諾なくブログで公開した場合、著作者より侵害行為の差止請求(本件の場合であれば、公開された電子メールの内容をブログ上から削除することの請求)や損害賠償請求がなされる恐れがありますので、注意が必要です。

おわりに

昨今は、当該情報から個人を特定できるようないわゆる個人情報については、個人情報保護の観点から、これを本人の許諾なく安易に公開などは行えないという認識が社会的にも広がりつつあります。

しかし、たとえ個人情報にあたらない情報であっても、当該文字情報に著作物性が肯定される場合には、著作権保護の観点から、これを著作者の許諾を得ることなく公開すると著作者から損害賠償請求などがなされる場合もありますので、十分に注意しましょう。ちなみに、前掲1の判決では、三島由紀夫氏の手紙が掲載された書籍の販売総額、書籍を出版する場合の著作権使用料の率などを考慮し、約500万円の損害賠償が認められています。

(村田充章/英知法律事務所)

弁護士法人 英知法律事務所

情報ネットワーク、情報セキュリティ、内部統制など新しい分野の法律問題に関するエキスパートとして、会社法、損害賠償法など伝統的な法律分野との融合を目指し、企業法務に特化した業務を展開している弁護士法人。大阪の西天満と東京の神谷町に事務所を開設している。 同事務所のURLはこちら→ http://www.law.co.jp/