ほとんどの人は、Web上の画像などの著作物に「©」というマークが添えられているのを見たことがあるのではないでしょうか。このマークは、日本の著作権法上で定められているものではありませんが、事実上、著作権者を示すものとして使用されています。一方で、Webサイトなどで他人の著作物を利用する際、この「©」マークを付けることで自由に利用できるという誤解もあるようです。今回は、このマークがどういう意味を持つものなのか、詳しく見ていくことにします。(編集部)
【Q】「©」マークを付ければ、他人の著作物を自由に利用できるの?
よくWebページに「©」マークが付けられているのを見ますが、このマークにはどのような意味があるのでしょうか。このマークを付けておけば、自由に他人の著作物を利用できるのでしょうか?
【A】「万国著作権条約」で定めたマークで、そういう意味ではありません。
このマークは、正しく表示しておけば、「ベルヌ条約」に加盟せず「万国著作権条約」のみに加盟する国でも、著作権が保護されるという役割を果たすものです。このマークを付けておけば、自由に他人の著作物を利用できるという意味ではありません。
はじめに
「©」マークは、一般に「マルシーマーク」や「サークルC」、「著作権表示」などと呼ばれることが多いようです。Webページ以外にも、書籍の奥付などに表示されています。
実は、わが国の著作権法では、このマークについては何も規定されていません。それもそのはず、このマークは万国著作権条約という条約に定められたマークだからです。それでは、このマークの意味はどのようなものなのでしょうか。まず、著作権保護に関する「無方式主義」と「方式主義」との違いからご説明します。
「無方式主義」と「方式主義」
著作権に関する最も基本的な条約として「ベルヌ条約」があります。同条約では、「無方式主義」と呼ばれる方式が採用されています。無方式主義とは、著作権の保護を受けるにあたり、著作権者の表示や政府機関への登録などの手続きを履行することは必要としないという仕組みのことです(※)。
※ 逆に、著作権の保護にそのような一定の手続きを履行することを必要とする仕組みのことを「方式主義」といいます
わが国は明治時代にベルヌ条約に加盟しています。したがって、わが国の著作権法では、無方式主義を採用することが以下のように明らかにされています。
著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない(著作権法第17条2項)
したがって、わが国においては、マルシー表示を付すなどの手続きをせずとも、著作権は保護されます。また、現在では世界のほとんどの主要国がベルヌ条約に加盟していますから、これらのベルヌ条約加盟国の間では、やはりマルシー表示を付すなどの手続きをせずとも、著作権は相互に保護されるということになります。
「マルシー表示」の役割とは?
しかし、かつて米国などは長らくベルヌ条約に加盟せず、政府機関への登録などを著作権の取得要件とする方式主義を採っていました。
このため、ベルヌ条約加盟国の著作物が米国で保護されるためには、米国での登録が必要となりますが、いちいちそのような手続きを取るのは大変煩雑であるという問題がありました。そこで、このような問題を解決することを目的として、1952年に制定されたのが「万国著作権条約」です。わが国も1956年にこの条約に加盟しています。
同条約では、日本のような無方式主義国の著作物であっても、一定の表示をすることで、方式主義を採用する万国著作権条約加盟国でも著作物としての保護を受けられるということが定められました。
この一定の表示こそが「©」マークであり、同マークを用いて正しく一定の表示を行うことにより、方式主義を採用している万国著作権条約加盟国においても、登録などの手続きなしに著作物としての保護を受けられるようになるというのが、同マークの法的役割です。したがって、一部で誤解があるように、「©」マークをつけて著作権者を表示すればその著作物を自由に利用できるようになるというわけでは決してありませんので、注意が必要です。
マルシーマークの表示方法
万国著作権条約によれば、「©」マークの正しい表示として、当該著作物のすべての複製物に、その最初の発行の時から、著作権者の名及び最初の発行の年とともに「©」の記号を表示することが必要です。そして、「©」の記号、著作権者の名及び最初の発行の年は、著作権の保護が要求されていることが明らかになるような適当な方法でかつ適当な場所に掲げなければならないとされています(同条約第3条1項)。
「©」の記号、著作権者の名及び最初の発行年を並べる順番は、同条約では特に規定されていません。ですが具体的には、例えば「©Eisaku KIMURA,2009」や「©2009 木村栄作」などのように表示するのが一般です。特殊文字がうまく表示できない場合を考慮して、「(C)」という表記が用いられることも多いようですが、厳密には条約の要求に従っているものとはいえません。
著作権者の名については、あくまでも表示すべきは「著作者」の名ではなくて、「著作権者」の名ですので、例えば、カメラマンから写真の著作権を譲り受けてWebページに掲載する場合、当該写真にマルシー表示を付すときはカメラマンの名を表示するのではなく、著作権の譲受人の名を表示することとなります。
また、表示する年はあくまでその著作物の最初の発行年ですので、旧年中に発行した著作物について、年が変わったからといっていちいちマルシー表示の年を書き換える必要はありません。
このほか、「©」の前に「Copyright」との文字を付する場合や、著作権者表示の後に「All rights reserved.」「無断転載を禁ず」などと付記して表示している場合も多くありますが、いずれも条約で必要とされている記載ではありません。
マルシー表示の現在の役割
以上のとおり、マルシー表示は、著作物が、万国著作権条約のみに加盟する方式主義国でも保護されるようになるという点に本来の役割があります。
しかし、主要な方式主義国であった米国は、1989年にベルヌ条約に加盟して無方式主義を採用しました。現在では、かつて方式主義を採用していた国はほとんどが無方式主義へと移行しています。この意味では、マルシー表示を付す意味は薄れているといえます。
もっとも、マルシー表示には、表示された著作権者がその著作物について著作権を主張しているということを示す事実上の効果があります。「Copyright」や「All rights reserved.」との文字を付すなどしながら現在もマルシー表示が多く用いられているのは、むしろこのような著作物の不正利用に対する警告効果を期待しての場合が多いと考えられます。
なお、著作権法では、著作物に著作者名として表示されている者は著作物の著作者と推定するとの規定がありますが(同法第14条)、前述のとおり、マルシー表示は「著作権者」を表示するものであって「著作者」を表示するものではありませんので、マルシー表示をしていても同法第14条が適用されるわけではないと考えられます。
しかしながら、マルシー表示は自分が著作権者であるとの表示ですから、そのような表示をして一定期間トラブルがなければ、実際に著作権者であろうとの事実上の推定は働きやすいものといえるでしょう。
(木村栄作/英知法律事務所)
弁護士法人 英知法律事務所
情報ネットワーク、情報セキュリティ、内部統制など新しい分野の法律問題に関するエキスパートとして、会社法、損害賠償法など伝統的な法律分野との融合を目指し、企業法務に特化した業務を展開している弁護士法人。大阪の西天満と東京の神谷町に事務所を開設している。 同事務所のURLはこちら→ http://www.law.co.jp/