ここ最近、ゲーム業界では「マジコン」に関する話題が多く聞かれました。マジコンとは、複製されたゲームプログラムを正規購入したゲームプログラム同様に遊べるようにするツールです。コピープログラムは、ファイル交換ソフトなどで容易に無料で入手できることから、ゲーム制作会社にとっては、売り上げの減少につながる経営問題となっています。違法コピーデータと合わせてマジコンを売るサイト運営者らが摘発される事件が起きるなど、その社会的影響が深刻化しています。

こうした事態を重視した任天堂とソフトメーカーは、マジコンによって多大な損害を被ったとして訴訟を提起。東京地方裁判所は、マジコンの輸入販売の差し止め・在庫の破棄を求める任天堂などの主張を認めました。今回はこの訴訟を巡り、マジコンの何が法的に問題であったか、詳しく見ていくことにします。(編集部)


【Q】マジコンが輸入差し止めになったと聞きました。何が問題なの?

違法にコピーされたゲームや自主制作プログラムなどを「ニンテンドーDS」上で実行できる機械、いわゆる「マジコン」(マジックコンピューター)を輸入販売していた業者に対し、任天堂とソフトメーカーが販売の差し止めを求めていた訴訟で、差し止めが認められたという報道がありました。以前電気街などで売られているのをみかけたことがあるのですが、マジコンの何が問題なのでしょうか?


【A】ニンテンドーDSの「技術的制限手段」を無効化するからです。

マジコンを輸入販売する行為が不正競争防止法に定める不正競争に該当するかどうかが問題となりました。具体的には、(1)ニンテンドーDSにおいてとられている手段が同法第2条7項の技術的制限手段に該当するか、(2)マジコンが同法第2条1項10号の技術的制限手段を無効化する機能のみを有しているといえるのかが争点となりました。東京地裁は(1)について、ニンテンドーDSの機能が技術的制限手段に該当するとしました。(2)についても、「無効化する機能のみ」とは「偶然妨げる機能を有している場合を除外するもの」として、マジコンの機能がこの要件を満たすと判断しました。このように判断された結果、マジコンの輸入・販売が不正競争に該当するとされ、輸入販売の差し止め・在庫の破棄が認められています。


東京地方裁判所は、平成21年2月27日、任天堂及びソフトメーカーが、マジコンの販売業者に対して、マジコンの輸・販売の差し止めなどを求めていた訴訟で、任天堂側の主張を認める判決を下しました。以下はこの判決に関する裁判所ウェブサイトのURLです。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20090306192548.pdf

マジコンとは?

「ニンテンドーDS」は、ニンテンドーDS向けのソフト(DSカード)を、スロットに差し込んでソフトを動作させます。ニンテンドーDSではどのようなソフトでも動作するのではなく、DSカードに記録されている信号(特定信号)をDS本体で読み取った場合にのみソフトが動作するようになっており、DS向けのソフトを単に複製しただけでは、動作しない仕組みになっています。また、任天堂とライセンス契約を締結していない自主制作のゲームソフトや、音楽、動画等のソフトも特定信号を備えていないためDSでは動作しません。

しかし、複製ソフトや自主制作ソフトが保存されたmicro SDカードなどをマジコンに挿入し、さらにマジコンをDS本体に挿入することによって、そうしたソフトがDSで動作するようになります。このような機能を持つ機器がマジコンと呼ばれ、一部業者が輸入・販売していました。

マジコンは、コピーされたソフトであっても動作することになるため、インターネット上で違法に頒布されているゲームソフトなどの違法なコピーであってもDS本体上で動作することが可能となります。したがって、任天堂及びゲームソフト会社は、マジコンによって多大な損害を被ったとして、本件訴訟を提起しました

技術的制限(保護)手段の回避に対する規制

情報処理技術が向上したことにより、音楽、動画、ゲームなどのコンテンツを提供するビジネスが発展してきました。しかし、コンテンツが提供事業者の管理外で大量に複製・配布されたり、無断視聴されたりすれば、コンテンツ事業者は対価を得ることができなくなってしまいます。そこで事業者側は、さまざまな方法でコンテンツの複製や無断視聴などができないように技術的対策を行ってきました。

しかしながら、事業者側が新たな対策を行うたびに、それを回避する機器やプログラムが出現し、いたちごっこの状態となっています。このような状態を解消し、コンテンツ提供産業を発展させるため、技術的制限(保護)手段を回避しようとする行為に対して、一定の規制がなされています。その一つが本件で問題となっている不正競争防止法です(同法第2条1項第10号、同項第11号、7項)。

不正競争防止法においては、技術的制限手段(同法第2条7項)の効果を妨げる機能のみを有する機器(プログラム)を譲渡、輸入したり、インターネットを通じて提供したりすることが不正競争に当たるとされています(同法2条1項10号、同項11号)。不正競争に該当する場合には、営業上の利益を侵害される者は、差し止めや損害賠償を求めることができるほか、侵害行為を組成した物や設備の破棄を求めることができます(同法第3条、第4条)。

また、著作権法においても規制がなされています(著作権法第2条1項20号)。同法では私的使用のためには著作物を複製することができるとされていますが(著作権法30条1項本文)、技術的保護手段の回避により複製が可能となった場合については、私的使用のためであっても複製することはできません(同法第30条1項2号)。さらに、技術的保護手段の回避を行うことをもっぱらその機能とする装置やプログラムの譲渡や輸入には、罰則が設けられています(著作権法120条の2第1号、第2号)。

どんな判決が出た?

本件では、マジコンを輸入販売する行為が不正競争防止法上の「不正競争」(具体的には、同法第2条1項第10号)に該当するかどうか争われました。より具体的には、マジックコンピューターの使用により、ニンテンドーDSにおいて、自主制作のプログラムを使用できたり、動画や音楽を再生できたりするようになることから、ニンテンドーDSでとられている、ライセンスされたソフト以外のソフトの起動を妨げる手段は、「技術的制限手段」といえるのかが問題となりました。

ニンテンドーDSは、前述したようにライセンスされたソフトに特有の信号を検知して初めて機器が作動する仕組み(検知→可能)をとっていたのですが、この仕組みでは、違法にコピーしたソフトで機器が動作しないだけでなく、ユーザーが自分で作った自主制作ソフトでも機器が動作しません。

被告らは、必要最小限の規制の観点からは、違法にコピーしたソフトの信号を検知して、機器が動作しなくなる仕組み(検知→制限)のみを技術的制限手段として保護すべきであり、ニンテンドーDSがとっていた「検知→可能」の仕組みは技術的制限手段として保護すべきではないと主張していました。また、仮にこの仕組みが技術的制限手段に該当するとしても、マジコンは自主制作ソフトの実行も可能とする機能を有しているため、技術的制限手段を無効化する機能「のみ」を有するとは言えないのではないかという点も争われました。

ニンテンドーDSでとられている仕組みが、技術的制限手段に該当するかについて、東京地裁は、不正競争防止法第2条1項10号について、以下のような判断を示しました。

「不正競争防止法第2条1項10号は、我が国におけるコンテンツ提供事業者の存立基盤を確保し、視聴など機器の製造者やソフトの製造者を含むコンテンツ提供事業者間の公正な競争秩序を確保するために、必要最小限の規制を導入するという観点に立って、立法当時実態が存在する、コンテンツ提供事業者がコンテンツの保護のためにコンテンツに施した無断複製や無断視聴などを防止するための技術的制限手段を無効化する装置を販売などする行為を不正競争行為として規制するものである」。

そしてさらに、このような立法趣旨と立法の経緯からすれば、以下のように解されるとしました。

「不正競争防止法2条7項の技術的制限手段とは、コンテンツ提供事業者が、コンテンツの保護のために、コンテンツの無断複製や無断視聴などを防止するために視聴など機器が特定の反応を示す信号などをコンテンツとともに記録媒体に記録などすることにより、コンテンツの無断複製や無断視聴等を制限する電磁的方法を意味するものと考えられ、検知→制限方式のものだけでなく、検知→可能方式のものも含むと解される」。

東京地裁ではこのように、ニンテンドーDSでとられている仕組みも技術的制限手段にあたるとしました。

次に、マジコンが、技術的制限手段を無効化する機能「のみ」を有するのかについて、東京地裁は、以下のような判断を示しました。

「不正競争防止法第2条1項10号の『のみ』は、必要最小限の規制という観点から、規制の対象となる機器などを、管理技術の無効化をもっぱらその機能とするものとして提供されたものに限定し、別の目的で製造され提供されている装置などが偶然『妨げる機能』を有している場合を除外している」。

そして、マジコンの使用実態として、自主制作のプログラムがほとんど使われておらず、ライセンスを受けているソフトの複製物が利用されていることから、「のみ」の要件を満たすとしました。

以上のとおり、東京地裁は、マジコンが技術的制限手段を回避する機器にあたり、これを輸入販売することは不正競争にあたるとしました。

判決の影響

本件判決は、あくまでも任天堂及びソフトメーカーと、被告になった複数の業者との間にしか効力は及びません。しかし、本件判決は控訴されることなく確定したということですので、マジコンを輸入したり、販売したりする行為が不正競争に該当すると判断される可能性が高くなり、損害賠償責任などを負う可能性が極めて高くなります

(安藤広人/英知法律事務所)

弁護士法人 英知法律事務所

情報ネットワーク、情報セキュリティ、内部統制など新しい分野の法律問題に関するエキスパートとして、会社法、損害賠償法など伝統的な法律分野との融合を目指し、企業法務に特化した業務を展開している弁護士法人。大阪の西天満と東京の神谷町に事務所を開設している。 同事務所のURLはこちら→ http://www.law.co.jp/