ソフトウェア業界は常に違法コピーに悩まされてきました。古くは海賊版パッケージが主でしたが、最近では違法ソフトウェアがダウンロードができるサイトなどが登場してきました。

ですが、海賊版パッケージにしろネットにしろ、そこで問題になってくるのはソフトウェアの「著作権」の問題です。ソフトウェアは、著作権法上で「著作物」とみなされているからこそ、その権利を侵害すると問題となるのです。

今回は、ネットでも大きな問題となっている著作物保護の観点から、職場で使うソフトウェアをバックアップすることが違法になるかどうかについて考えていきます。(編集部)


【Q】業務用に買ったソフトをバックアップ用にコピーできる?

私は、先日購入したソフトウェアを業務に利用しているのですが、バックアップ用としてこのソフトをコピーしたいと思っています。著作権法では、著作権者の許可なく著作物をコピーすることが規制されているようですが、今回のようにバックアップするためにソフトウェアをコピーすることは、著作権法上問題はあるのでしょうか。


【A】「必要と認められる限度内」であれば、認められる場合もあります。

バックアップ用にコピーを作成することは「必要と認められる限度内」の複製として、許される場合があります。また、利用許諾契約に同意している場合には、契約内容に従う必要があります。


創作性があれば、ソフトウェアは「著作物」

あなたが使用しているソフトウェアは、著作権法の「プログラム」に当たるものです。同法によれば、プログラムとは、「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」(同法第2条第1項第10号の2)をいいます。

つまり、コンピュータ(電子計算機)に対し、ある特定の処理を実行させるために、Java、Cなどのプログラム言語(プログラムを表現するための文字・記号・体系のこと)によって記述された表現のことをいいます。

この表現に「創作性」が認められれば、プログラムも「著作物」(同法第10条第1項第9号)として認められます(誰が書いても同じになるような短いプログラムを除けば、原則として「創作性」が認められ、著作物となります)。著作物というと、文学・絵・音楽といったものが思い浮かびますが、このようにプログラムも著作物に当たる場合があることは注意が必要でしょう(以下、著作物に当たるプログラムを単に「プログラム」といいます)。

インストールも「複製」の一種

なお、(1)プログラム言語、(2)規約(特定のプログラムにおけるプログラム言語の用法についての特別な約束、例:インタフェース、通信プロトコル)、(3)解法(プログラムにおける電子計算機への指令の組合せの方法、例:アルゴリズム)、については、プログラムの著作物には含まれません(同法第10条第3項)。

今回のソフトウェアは、その内容にもよりますが、プログラムの表現に創作性があれば著作物に当たります。この場合、バックアップ用とはいえ、プログラムをコピーすることは、著作権法上の「複製」に当たります(複製の意味については本コラム第2回参照)。

また、既にソフトウェアを使用しているということは、ソフトウェアをあなたのPCにインストールしていると思われます。ですがインストールも、ハードディスクにプログラムの複製物を有形的に再製することになり、やはり複製に当たります。

なお、著作権法では、私的使用のための複製が認められていますが(同法第30条)、今回のように業務に利用する場合は「私的使用」に当たりません。

バックアップどころかインストールもできない?

そうなると、バックアップどころか、インストールするにも権利者の許諾が必要になってしまうのでしょうか。

先ほど述べたように、プログラムをコンピュータで使用する場合、さまざまなところで複製する必要がある場面が生じます(インストール、バックアップなど)。これらの処理をするのにいちいち権利者の許諾が必要となると、プログラムの円滑な利用ができなくなってしまいます。

このような事態を防ぐため、著作権法第47条の2第1項本文で、プログラムの複製物(本件の場合販売されているソフトウェア)の所有者は、「自ら当該著作物を電子計算機において利用するために必要と認められる限度において」、プログラムの複製をすることができるとされています(※)。

※ なお、同条項では「翻案」も認められていますが、これはプログラムのバージョンアップやデバッグ(バグの修正)などについて、権利者の許諾なく行えるようにすることを想定してします。

この規定は、あくまでもプログラムの複製物の所有者自らが複製するときを前提としており、他人の所有する複製物を借りているような場合には、「必要と認められる限度」であっても、権利者の許諾なく複製することはできません。

「必要と認められる限度」とは?

必要と認められる限度の例としては、バックアップ、ハードディスクへのインストールの際の複製や、バージョンアップ時の翻案などが挙げられますが、これらの行為もその必要性がなければ、必要と認められる限度とは認められません。

例えば、市販のゲームソフトのバックアップコピーをとっておくことは、利用に必要な行為とは言えず(※)、必要と認められる限度には当たらないとされています。また、会社で1つのソフトウェアを購入した上で、そのソフトウェアを複数のコンピュータで使用するためにコピーすることも、当然、必要と認められる限度には当たりません

※ 『著作権法逐条講義〔五訂新版〕』(加戸守行著、社団法人著作権情報センター)313頁

その他の注意点

このように、バックアップのためにソフトウェアのコピーをとることは、一定の条件の下で許されていますが、その場合でも下記の点に注意する必要があります。

  1. 違法コピーと知りながら取得したプログラムをインストールしたり、バックアップ用にコピーをとったり、バージョンアップをすることはできない(同法第47条の2第1項但書)。また、そもそも違法コピーと知りながら取得したプログラムを業務上使用する行為は、それだけで著作権侵害をしたものとみなされる(同法第113条第2項)。

  2. バックアップコピー自体を、頒布(一般への販売・バックアップ用のコピーの多数の人への配布)したり、公衆に提示(例えば、コピーしたプログラムの内容を多数の人に提示する場合)したりすると、その段階で著作権を侵害したことになる(同法第49条第1項第3号)。

  3. バックアップの元となったオリジナルのプログラムまたは、バックアップコピーのいずれかについて、滅失以外の事由によって所有権を失った場合(購入したソフトを友人にあげた場合など)、保存しているプログラムを廃棄または消去しなければならない。この場合、廃棄または消去せず保存すると、保存自体をもって複製権を侵害したことになる(同法第49条第1項第4号)。

本件の場合は?

以上の通り、バックアップをする際には、必要と認められる限度や上記注意点を守る必要があります。

必要と認められる限度の意味については、事案によらざるをえませんが、ご質問のソフトウェアについていえば、「バックアップコピーはあくまでもバックアップコピーとして使用する」「オリジナルとバックアップコピーを同時に使用しない」といった点を守るのが、単純ですがもっとも安全な使用方法ということができるでしょう。

なお、もしソフトウェアのインストール時に、利用許諾契約の同意ボタンをクリックするなどして、利用許諾契約を結んでいる場合には、その内容に従う必要があります。利用許諾契約では、今回のようなバックアップのために1部コピーすることを認める条項が規定されていることも多いようです。

(北澤一樹/英知法律事務所)

弁護士法人 英知法律事務所

情報ネットワーク、情報セキュリティ、内部統制など新しい分野の法律問題に関するエキスパートとして、会社法、損害賠償法など伝統的な法律分野との融合を目指し、企業法務に特化した業務を展開している弁護士法人。大阪の西天満と東京の神谷町に事務所を開設している。 同事務所のURLはこちら→ http://www.law.co.jp/