ブロガーの皆さんは、読者のコメントなどに困った経験はないでしょうか。いま、インターネット上の名誉毀損や誹謗中傷が深刻な問題となっています。警察庁の発表によると、2008年のネット関連相談状況では、「名誉毀損、誹謗中傷」に関する相談件数が、2004年の調査開始以来初めて1万件を突破したことが明らかになりました。

ブログのコメント欄でも、名誉毀損や誹謗中傷まがいの書き込みがされることは少なくありません。当然、そうしたコメントは削除したいわけですが、果たして勝手に削除しても問題ないのでしょうか。放っておけば、コメントの被害者と思われる人から、書き込んだ人の情報開示を求められることだってあります。いずれにしろ、どう対処すれば問題は起きないのでしょうか。今回はそんなブロガーを悩ませる問題について考えていきます。(編集部)


【Q】ネット上でブログを開設、中傷コメントは勝手に削除していい?

インターネット上の無料サービスを利用してブログを公開していますが、このブログのコメント欄に他人を誹謗中傷する書き込みや、個人情報の書き込みがなされました。ブログの開設者はどのような対応をすべきでしょうか。ブログ開設者がブログにそぐわないと判断したコメントなどを削除することは問題ないのでしょうか。また、権利を侵害されたとする人から書き込みをした者の情報を提供してほしいとの要望がなされた場合はどうすればよいでしょうか。


【A】ブログにそぐわないと判断したコメントの削除は、原則自由です。

他人を誹謗中傷する書き込みは名誉棄損に、個人情報の書き込みはプライバシーの侵害にそれぞれあたる可能性があり、一定の場合には削除を行わなければ損害賠償等の責任を問われる可能性があります。もっとも、開設者がブログのコメント欄を巡回してそのような書き込みがあるかどうか確認することまでは必要ないと考えられています。また、開設者がブログにそぐわないと判断した書き込みを削除することは原則として自由であると考えられます。権利が侵害されたとする人から、書き込みをした者に関する情報の提供を求められた場合には、プロバイダ責任制限法の発信者情報開示請求として対処する必要があります。


ブログ開設者に対して「コメントの削除要請」があった場合の対応

他人を誹謗中傷する書き込みは名誉棄損に当たり得ますし、個人情報についての書き込みは、その個人情報が他人にみだりに開示されたくないような性質のものであれば、プライバシーの侵害となる可能性があります。したがって、書き込みをした人は権利侵害された人に対して民法上は不法行為責任(民法第709条)を負う可能性があり、また、刑事上も誹謗中傷については名誉棄損罪(刑法第230条)などに該当する可能性があります。

このような権利侵害情報が書き込まれた場合、開設者としてはどのような対応をするべきでしょうか。

まず、誹謗中傷され、または個人情報を書き込まれた第三者からブログ開設者に対し、当該書き込みの削除が要請されることがあります。削除要請があったにもかかわらず、権利侵害情報を放置したままにしていた場合、ブログ開設者は権利侵害情報の拡散に手を貸したとして不法行為責任を問われる可能性があります。

したがって、明らかに名誉棄損に該当するような書き込み、プライバシーの侵害に該当するような書き込みについては、その存在を知った以上、削除するべきでしょう。削除する際には、後述する発信者情報の開示が求められる可能性がありますので、削除する前のデータを保存しておいた方がよいものと思われます。

ブログ開設者にコメント欄の巡回の義務ある?

では、開設者はブログのコメント欄に権利侵害情報が書き込まれていないかを巡回して確認する義務まで負っているのでしょうか。この点については、「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(プロバイダ責任制限法)第3条第1項が明らかにしています。

プロバイダ責任制限法は、ホスティング・プロバイダや掲示板の開設者が第三者によってアップロードされた権利侵害情報によって負う損害賠償責任を制限する法律です。同法第3条第1項は、以下の二つの場合以外には、掲示板の開設者などは損害賠償責任を負わないと規定しています。

  1. 情報の流通とそれによる権利侵害を知っていた場合

  2. 情報の流通を知っていてそれが権利侵害にあたることについても知ることができたと認められる相当の理由がある場合

1と2のいずれの場合も、掲示板開設者などが情報の存在を知っていることが要件とされています。したがって、本件においても、開設者が権利侵害情報の存在を知らなければ、プロバイダ責任制限法3条第1項で免責されるということになります。つまり、開設者には権利侵害情報の有無をブログのコメント欄を巡回して確認する義務まではないということになります。

権利侵害を明確に判断できない場合、削除は可能か

それでは、ブログのコメント欄に、他人の権利を侵害するかどうか明確には判断が付かないような情報の書き込みがなされた場合、これを勝手に削除することは問題ないのでしょうか。

この点については、一般的にはプロバイダ責任制限法第3条第2項の問題であるとされています。同項は、以下の二つの場合には、削除を行っても損害賠償責任を負わないとしています。

  1. 情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されていると信じるに足りる相当の理由がある場合

  2. 書き込みをした者に対して、権利侵害情報の削除に同意するかどうか照会したにもかかわらず、その情報発信者が照会を受けた日から7日を経過しても削除に同意しないとの申し出をしなかった場合

したがって、このような要件を満たしていれば、削除を行っても問題ないということになります。

さらに言えば、無料サービスを利用して個人が開設しているようなブログであれば、開設者が不適切と判断した結果、その書き込みの削除を行っても特に問題が生じるとは思えません。書き込みを行った人は、もし必要であれば、自らホームページを開設したり、ブログを立ち上げたりしてその主張を行えばよいのであって、他人のブログに残したコメントが消されたとしても通常は何らかの権利侵害があるとは考えられないからです。

「発信者情報開示」の要請があった場合の対応方法

ブログ開設者に対して、誹謗中傷などの書き込みをした者の情報の開示要請があった場合にはどのように対処すべきでしょうか。

プロバイダ責任制限法第4条は、権利侵害情報によって被害を受けた人が、権利侵害情報を発信した者を特定するための情報(発信者情報)の開示を掲示板の開設者などに対して求めることができることを明らかにしています。

実際に発信者情報の開示を求めることができるためには、以下の二つの要件をともに満たす必要があります(プロバイダ責任制限法第4条第1項)

  1. 権利侵害が明白であること

  2. 発信者情報の開示を求める正当な理由があること

この二つの要件は削除の場合と異なり、権利侵害の「明白性」が要件となっていることに注意が必要です。そして、これらの要件が満たされた場合には、発信者情報として「氏名」「住所」「メールアドレス」「IPアドレス」「書き込みがなされた時刻」などの情報を公開しなければなりません。

また、開設者がこのような発信者情報の開示請求を受けた場合には、開設者は原則として発信者に対して発信者情報の開示を行ってもよいのかどうか意見を確認しなければならないとされています(プロバイダ責任制限法第4条第2項)。

もっとも、無料のブログサービスを使用しているような場合には、書き込みについての発信者情報を全く保持していない場合も多いものと思われます。そのような場合には、発信者情報を開示しようにも開示できないということになります。

なお、上記のとおり、発信者情報開示が求められるような場合には、削除を行うべき場合にも該当する可能性があります。削除の際には、発信者情報開示請求に備えてデータを保存しておいた方がいいものと思われます。

今回取り上げた、削除要請と発信者情報開示請求について、詳しくは、下記ウェブサイトに記載されているガイドラインを参考にしてください。

プロバイダ責任制限法関連サイト http://www.isplaw.jp/

(安藤広人/英知法律事務所)

弁護士法人 英知法律事務所

情報ネットワーク、情報セキュリティ、内部統制など新しい分野の法律問題に関するエキスパートとして、会社法、損害賠償法など伝統的な法律分野との融合を目指し、企業法務に特化した業務を展開している弁護士法人。大阪の西天満と東京の神谷町に事務所を開設している。 同事務所のURLはこちら→ http://www.law.co.jp/