前回は自然言語処理とは何か、そして自然言語処理にはどのようなアプローチがあるか具体的な方法を解説しました。今回は、私たちの身近にある自然言語処理を使ったサービスにはどんなものがあるのか、どんな技術が使われているのか、またビジネスの場ではどのように使われているのか、例を挙げながら自然言語処理でできることを説明していきます。

身近にある自然言語処理を使ったサービス

自然言語処理は、例えばSiriのようなAIアシスタントやスマートスピーカー、翻訳や検索エンジン、対話システム(チャットボット)、文章の生成・自動要約など、さまざま様々な分野で使われています。

自然言語処理と聞いてピンと来ない人も、日常の中でAIアシスタントや検索エンジンなどのサービスを使っているかもしれません。

それぐらい私たちの身近にあるもの、かつ簡単に使えるため、技術も簡単そうですが、使われている自然言語処理の技術やノウハウはそれぞれ異なり、固有の難しさがあります。

  • 自然言語処理×AIで何ができるか? 第2回

チャットボットや翻訳で使われる技術の例

「対話システム(チャットボット)」の例を見てみましょう。対話システムには、会話に出てくる言葉にどんな文脈や背景があるのかを認識しなければならない難しさがあります。例えば、次のようなやり取りを見てみましょう。

  • チャットボットのイメージ

    チャットボットのイメージ

日本語の会話では、主語や目的語などが省かれて短い言葉や単語の繰り返しになることがよくあります。上記の例に出てくる「歩いて何分?」「何時から何時まで営業してるの?」といった質問を抜き出すと、どこからどこまでの所要時間を聞きたいのか、何の営業時間を聞きたいのかわかりませんが、対話システムでは前に出てきた「スカイツリー」や「最寄駅」といった情報を記録した上で判断・回答しています。

ここでのポイントは、前に出てくる内容をいかに考慮して判断するかですが、背景を認識するためにどこまでさかのぼれば良いか、的確な判断も重要となってきます。

「翻訳」の分野では、また別の難しさがあります。翻訳の場合、言葉の意味は元の言語でも訳した方の言語でも同じですが、使われている言語が2種類になります。この場合には「翻訳例」が多ければ多いほど有効なため、多くの翻訳例をデータとして集め、解析することが効果的です。

例えば「book」という英単語には「本」「書籍」「帳簿」「名簿」「予約する」「記入する」など複数の意味があり、どういう文章でどういう訳が適切か、学習する必要があります。

FRONTEOの提供するAIエンジン「KIBIT」の場合は、ある程度まとまった情報が書かれている文章を解析対象としています。ある判断において重要とみなされた文章が、他の文章とどれぐらい似ているか、その特徴を短時間で見つけ出す「Landscaping(ランドスケ―ピング)」という技術を用いて解析します。このように自然言語処理には、使い方や特性に応じた技術の選び方が重要なのがわかっていただけたと思います。

「自然言語×AI」でできること&メリット

自然言語処理の大きなメリットは、定性データを解析・活用できる点です。医療の現場で使われるデータを例に考えてみるとわかりやすいかもしれません。

例えば、ガンや血液の病気などは、血液検査の結果、脈拍・体温といったバイタル情報などの数値化された定量データを処理することで病気かそうでないか、重症度はどの程度なのか判定することができます。一方、うつ病や認知症、痛みといった、状態の数値化が難しいもの、定量的に表せないものは、判断を行うことが難しくなります。

そこで、痛みについての表現や日常会話の内容、行動を記したテキストデータを集め、自然言語処理の技術を用いて分析し、症状との相関性があることが確認できれば医師などの判断でしか測れなかった定性データを定量的に扱って診断の支援ができるようになります。

ビジネスでの活用

そのほかに「自然言語処理×AI」の技術をどのようなビジネスシーンで活用できるのか、以下に示します。

  • 社員からの問い合わせに対する自動対応
  • 見つけたい記事・情報の抽出
  • 自動要約
  • カスタマーサポートにおけるお客さまの声分析
  • 営業チャンスの発掘 *コンプライアンスや規制の違反チェック
  • 自然言語処理×AIで何ができるか? 第2回

上記のような場面で、すでに役立っています。あなたの会社でも面談記録や日報・週報、メール、チャットなどのテキストデータ(または音声データをテキスト変換したデータ)があれば、「自然言語処理×AI」を行うことで、データをリスクやチャンスの発見に活かすことができるのです。

次回は、実際のビジネスでの活用事例をいくつか解説していきたいと思います。

著者紹介

FRONTEO行動情報科学研究所
行動情報科学に基づいたビッグデータ解析および人工知能の研究開発を行っています。自然言語処理、機械学習の適用、アプリケーション開発などを推進し、サービスの運用から得られるユーザー体験を研究開発へとフィードバックすることで、開発のサイクルを加速し、社会に役立つ製品づくりに取り組んでいます。