オライオンの次のミッションは2018年

オライオンが次に宇宙へ打ち上げられるのは2018年の予定となっている。このミッションはEF-1と名付けられており、EM-1とはExploration Mission 1の略で、直訳すると「探検ミッション1」となる。

EM-1では、打ち上げロケットとして、現在NASAとボーイング社が開発中のスペース・ローンチ・システム(SLS)が使われる。SLSはスペースシャトルの部品を活用して造られるロケットで、完成すればデルタIVヘヴィよりもさらに強大なロケットになる。

SLSにとってはこのEM-1が初飛行となり、またオライオンも、無人ではあるものの、サーヴィス・モジュールや脱出システムをすべて装着したフル装備での初飛行となる。

EM-1では、オライオンは地球を出発後、月へ向かい、月の裏側を通過し、今度は地球に向かい、そして帰還する。このような軌道を「自由帰還軌道」といい、大きなエネルギーを消費することなく2つの星の間を往復することができるという特徴を持つ。過去にはソ連のゾーント計画や、先日中国が行った「嫦娥五号試験機」でも使われ、またアポロ13の事故の際にも、宇宙飛行士を安全に帰還させるための軌道として使用された。

スペース・ローンチ・システム(SLS) (C)NASA

SLSから分離されるオライオンEM-1 (C)NASA

EM-1が完了すると、次はいよいよ宇宙飛行士を乗せた飛行の準備が始まる。ミッション名はEM-2(Exploration Mission 2)と呼ばれており、実施は2021年以降に予定されている。ロケットにはふたたびSLSが使われ、オライオンは月軌道へと打ち上げられる予定だ。ただし月には着陸しない。宇宙飛行士が降り立つのは「月軌道に置かれた小惑星」だ。

小惑星転送ミッション

NASAでは現在、小惑星転送ミッション(Asteroid Redirect Mission)という計画が検討されている。転送という名前の通り、どこかから適当な小惑星を引っ張ってきて、地球の近くに置いてしまおう、というものだ。

地球近傍小惑星や、火星の外側に広がる小惑星帯との往復は、もちろんその軌道にもよるが、年単位の時間がかかる。人間がそこまでの宇宙飛行に耐えられるかはまだ分からない。そこで小惑星の方を地球の近くまで持ってくることで、飛行時間を短くでき、しかも得られる成果はほぼ同じで、将来の有人探査に向けた予行練習にもなるなど、多くの利点が生まれる。

小惑星を捕まえて引っ張ってくる方法は、現在大きく2種類が検討されている。ひとつは巨大な筒のような構造物で小惑星全体を包み、丸ごと月軌道まで持ってくる案。もうひとつはロボットアームで捕まえて持ってくる案だ。

目標となる小惑星も、軌道や大きさなどの条件から選別が行われている最中で、小惑星を丸ごと持ってくる場合であれば2011 MDと呼ばれる小惑星が第一の候補として挙げられている。また、まず小惑星を砕いて小さくし、その破片を持ってくる案も検討されており、この案では日本の「はやぶさ」が訪れたイトカワも選択肢に入っている。

計画が順調に進めば、まず2017年に技術実証機が打ち上げられる。小惑星を捕獲する宇宙機のエンジンには電気推進の一種であるホール・スラスタが用いられる予定で、まずはそのエンジンの実証が主な目的だ。そして2019年にいよいよ本番機が打ち上げられ、小惑星、もしくはその破片を2021年ごろに月の軌道に持ち帰る。そこへオライオンEM-2が打ち上げられ、宇宙飛行士が小惑星を探査する。そしてEM-3、EM-4と続く予定だ。

小惑星を包み込むように捕獲する案 (C)NASA

小惑星をロボットアームで捕まえる案 (C)NASA

月着陸ではアポロの二番煎じで新鮮味がなく、かといって火星や小惑星へ行くのはまだ難しいとなると、この解決策は1つの正解と言えよう。だが、すでに無人探査を推す科学者などからは批判の声が上がっており、今後、NASAの予算の中に占める同計画の予算が増えていけば、その声はより大きくなるだろう。また、現在のオバマ大統領の任期が2017年で終わることを考えると、次の政権によって計画が中止される可能性もある。

2017年までにどうやってもオライオンやSLSが用意できない以上、NASAはそれまでに、ある程度の道筋を付けて、この計画をNASAの目標、あるいは規定路線として据えなければならない。また、国際宇宙ステーション(ISS)のように国際協力で進むのであれば、2017年までにある程度の枠組みが作られる可能性もあろう。日本は「はやぶさ」や「はやぶさ2」の運用を通じて、無人の小惑星探査に関して実績を持っており、下準備と体制を十分に整えた上で参加することができれば、有人計画の中でも大きな存在感を発揮できるだろう。

たった1つではない冴えたやりかた

オライオンEFT-1のミッションが成功したことは宇宙開発史に残る大きな出来事であり、またオライオンやSLSを造ることが、火星や小惑星への有人飛行を実現させるための、1つのやりかたであることも間違いない。

だが、唯一のやりかたではない、米国ではもう1つ、別の動きもある。言わずと知れたスペースX社だ。

スペースX社は現在、超大型ロケットのファルコン・ヘヴィの開発を進めており、また火星へ飛行できるレッド・ドラゴンという宇宙船の構想も持っている。この2つが完成すれば、実行できるかはともかく、火星への有人飛行が可能にはなる。

現に、オライオンとSLSを批判する材料として、スペースX社に投資、委託すればいいという意見もある。だが、同社はまだ地球を回る有人宇宙船ですら開発段階で、宇宙船を火星まで飛ばしたり、惑星間軌道から帰還したりといった技術も持ち合わせていない。そもそもNASAですら、そのような技術は十分に持っているとはいえない。スペースX社に担わせることはリスクが大きい。

また、そうしたリスクを背負わせることは、せっかく芽生え始めた民間主導の宇宙開発という動きを枯らしてしまう可能性もある。

例えば同社はかつて、小型衛星打ち上げ用のファルコン1というロケットを開発し運用していた。また改良型のファルコン1eの開発も進めていた。だが、小型衛星の市場が思ったほど広がらなかったため、開発や運用を凍結し、現在ではほぼ見捨ててしまったようにも見える。つまり彼らは、儲からないと判断すれば、事業を止めることができ、またそれができたからこそ、ファルコン9ロケットやドラゴン補給船、有人のドラゴンV2の開発、再使用ロケットの研究にリソースを充てることができたわけだ。

有人火星探査ほどの巨大な事業であれば、中途半端に撤退することは基本的には許されない。つまりスペースX社の意思で止めることができない。それで成功すればまだ良いが、失敗すれば会社そのものが飲み込まれ、なくなってしまう可能性すらある。

おそらくもっとも論理的な道は、まずNASAが月や火星、小惑星への航路を拓き、適当な時機を見て、その航路を民間に譲っていく、ということだろう。だが、それが本当に正しいかは分からない。むしろ、そうならない方がおもしろくなるだろう。

そもそもスペースX社は、誰から指図されたわけでもなく、自らレッド・ドラゴンや火星への有人飛行といった構想を打ち出し、また同社のイーロン・マスクCEOも、火星への入植を夢見ていることを公言している。月や火星、小惑星に向かう旅路のどこかで、彼らとオライオン宇宙船は必ず出会うことになるだろう。オライオンが道を譲ることになるのか、レッド・ドラゴンが脱落するのか、あるいは共に歩むことになるのか、未来のことは誰にも分からない。

確実に言えるのは、オライオンの初飛行の成功によって、長い間夢物語に過ぎなかった有人火星飛行を、今こうして、近未来のこととして語れるようになったということだ。その点では、すでに私たちはオライオンという火星行きの船を手にし、そしてその港に立っていると言っても良いのかもしれない。

スペースX社が開発中の超大型ロケット、ファルコン・ヘヴィ (C)NASA

スペースX社が構想する有人火星探査 (C)NASA

【参考】

・http://www.nasa.gov/pdf/756164main_03-RL_June18_Rev3b.pdf
・http://www.nasa.gov/content/what-is-nasa-s-asteroid-redirect-mission/
・http://www.nasa.gov/content/nasa-selects-studies-for-the-asteroid-redirect-mission/
・http://www.theguardian.com/technology/2013/jul/17/elon-musk-mission-mars-spacex
・http://www.space.com/25934-elon-musk-mars-colony-spacex-rockets.html