2018年2月14日~16日にかけて東京ビッグサイトにて開催されているナノテクノロジーの展示会「nano tech 2018 第17回 国際ナノテクノロジー総合展・技術会議」において、科学技術振興機構(JST)のブースでは、豊橋技術科学大学 大学院工学研究科の後藤太一 助教を中心とした研究グループが、磁石の波であるスピン波を用いたロジック素子の紹介を行っている。

電流を情報を伝達させるキャリアとして使わずに情報を伝えることができるスピン波は、省エネルギーコンピュータとして活用が期待されているが、これまで論理演算を可能にするNANDやNORといったスピン回路は実現できていなかった。

今回の展示は、実際のデバイスやデバイス製造に用いた基板などを交え、同研究グループが2017年8月に発表した成果などの紹介を行うというもの。

スピン波は、スピンの集団運動であり、個々のスピンのコマ運動(歳差運動)が空間的にずれて波のように伝わっていく現象。光回路で用いられるよりも小さな波長を活用できるため、小型化ができるほか、電流はデバイスの駆動以外には用いられないため、発熱が抑えられるといった特長があるという。

すでにNANDおよびNOR素子を形成可能な四端子スピン波素子が実現済みで、スピン波が波であるという特長を使うことで、中間値の動作も可能であるため、四端子と言いつつ、さらに多くの入出力も可能だという。

これらの成果を実現したのが、磁性絶縁体である高品質のイットリウム鉄ガーネット単結晶膜の形成技術。これができたことにより、10μm2程度に縮小化されたスピン波デバイスを実装することが可能になったとする。

  • 左がイットリウム鉄ガーネット膜

    左が高品質なイットリウム鉄ガーネット膜。厚さは約50nmで、豊橋技術科学大学内で形成されているという

  • 左が四端子スピン波素子

    左が四端子スピン波素子。3つの端子からスピン波が入力され、スピン波の位相を用いて演算を行う。そのため、多段化が可能といった特長を有する

なお、同研究プロジェクトは平成31年3月に終了する予定だが、会場に居た後藤 助教にプロジェクトとしての最終目標をうかがったところ、「指先サイズのスピン波ロジック素子の実現」との回答をいただいた。また、発熱しないという利点を活用した脳や皮膚といった熱に弱い場所でも利用可能な高性能デバイスといったものを想定しているとのことで、「ニッチなところを攻めてモノにします」と意気込みを語っていただいた。現在は、大型基板の実現に向けた研究も進めているとのことで、今後の実用化に向けた動きが期待される。