民から官へマイナンバーを記載して提出する業務として、最大規模の給与支払報告書の提出も1月に終わりました。そして、現在は同様にマイナンバーを記載して提出する所得税確定申告の時期が、そろそろ終わりを迎えようとしています。
そんななか、日本年金機構では、これまでマイナンバー記載不要としていた様々な手続き書類に、マイナンバーの記載を求めてきました。
今回は、日本年金機構のこれまでのマイナンバー対応を振り返るとともに、マイナンバー記載が求められる手続きなどを確認し、中小事業者で対応が必要となるポイントを見ていきたいと思います。
日本年金機構のこれまでのマイナンバー対応
日本年金機構以外の他の行政機関では、2016年1月から各種の行政手続きにおいて、マイナンバーの利用を開始しました。しかし、日本年金機構は、2015年の年金個人情報の大量流出により、政令の定める日まで、マイナンバーによる情報連携などマイナンバーの利用ができない制約を受けていました。その一方で、日本年金機構では、法令等に基づき、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)に対して被保険者やその扶養親族のマイナンバー情報の提供を求め、収録を行ってきました。
そして、2016年11月に「政令の定める日」が施行されたことにより、日本年金機構もマイナンバーを利用して、手続き事務を行えるようになりました。とはいえ、今まで様々な手続き書類にマイナンバーの記載を求めることはしてきませんでした。また、中小企業の多くが加入する協会けんぽでも、「加入者や事業主の皆さまの事務負担を軽減するため、原則として、日本年金機構や住民基本台帳ネットワークから収集を行います。」として、独自に収集・登録を進めてきました。このため、事業者が日本年金機構に提出する被保険者資格取得届や喪失届には、基礎年金番号を記入すればマイナンバーの記入は不要でした。 また、日本年金機構は、マイナンバーの収録を行ったなかで、基礎年金番号とマイナンバーの紐付けができていない被保険者について、昨年末から今年のはじめにかけて、マイナンバー確認リストを事業者に送付し、マイナンバーの収集を行ってきました。そうした動きから、日本年金機構ではマイナンバーと基礎年金番号との紐付けが進み、事業者が提出する手続き書類では、このままマイナンバーの記載は求めず、従来通り基礎年金番号を記載する運用が続くものと考えられてきました。
日本年金機構の手続き書類にマイナンバーの記載が必要に
2月20日、「日本年金機構におけるマイナンバーへの対応」と題したページの内容が更新されました。そのなかで、2016年11月以降の動きとして、「平成29年1月から日本年金機構では、マイナンバーによる年金相談・照会を受け付けており、基礎年金番号が分からない場合であっても、マイナンバーカード(個人番号カード)を提示いただくことで、相談を行うことができます。さらに平成30年3月からは、これまで基礎年金番号で行っていた各種届出・申請についてもマイナンバーで行えるようになります。」としています。
そして、続けて「今後は、マイナンバーを届け出ていただくことで、住所変更届や氏名変更届の届出省略、これまで各種申請時に必要としていた住民票などの添付書類提出の省略を行う予定です。
また、マイナンバーの利用にあたって、日本年金機構では情報セキュリティの抜本的強化に取り組んでおり、お客様のマイナンバーの適切な保管・管理に万全を期します。」としています。
すでに、マイナンバーと基礎年金番号との紐付けが済んでいるのであれば、改めて手続き書類にマイナンバーを記載しなくても、「住所変更届や氏名変更届の届出省略、これまで各種申請時に必要としていた住民票などの添付書類提出の省略」は可能なはずなのですが、そのことには触れられていません。
確かに、厚生労働省が過去公表してきた、社会保障分野でのマイナンバー対応の資料では、「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」などについて、「日本年金機構へ提出する健康保険・厚生年金関係の書類については、日本年金機構のマイナンバー利用が延期されたことから、マイナンバーの記載時期は未定です。」とし、いずれマイナンバーの記載を求めるようになることが示されていました。ただし、前項で記載した通り、日本年金機構は独自にマイナンバーの収録を進めていたことから、手続き書類に改めてマイナンバーを記載しない対応を続けていくことができると考えられていました。特に、協会けんぽがこれまで示してきた見解、「加入者や事業主の皆さまの事務負担を軽減するため、原則として、日本年金機構や住民基本台帳ネットワークから収集を行います。」は、事業者からみると、マイナンバーを取り扱う事務手続きが減ることで、マイナンバーの漏えいリスクを減らすことができ、このまま続くことが望まれていました。
それが、ここにきて一転、日本年金機構へ提出する手続き書類にマイナンバーの記載が求められることになったわけです。
マイナンバーの記載が必要となる書類と対応の留意点
では、どのような書類でマイナンバーの記載が必要になったのか、確認しておきましょう。事業者が健康保険・厚生年金関連で提出することになる書類で、マイナンバーの記載が必要となる主な書類は以下の通りです(「個人番号を記載する届出等一覧」より)。
・被保険者資格取得届・70歳以上被用者該当届
・被保険者資格喪失届・70歳以上被用者該当届
・被保険者報酬月額算定基礎届・70歳以上被用者算定基礎届
・被保険者報酬月額変更届・70歳以上被用者月額変更届
・被保険者賞与支払届・70歳以上被用者賞与支払届
・被扶養者(異動)(3号)届 など
今回の改定では、従来別様式であった「70歳以上被用者」用の様式が、通常の様式と統合されたため、マイナンバー欄の追加などに加えて、様式が変わっています。また、「70歳以上被用者」用の届出では、従来からマイナンバーの記載が必要とされていたことから、被保険者報酬月額算定基礎届や被保険者報酬月額変更届、被保険者賞与支払届などは、「70歳以上被用者」に該当するもののみマイナンバーを記載することとされています。
ただし、被保険者資格取得届や被保険者資格喪失届、被扶養者(異動)(3号)届などは、被保険者や被扶養者についてマイナンバーを記載する必要があるとされています。
(図1)は、新様式の被保険者資格取得届・70歳以上被用者該当届です。個人番号欄には括弧書きで基礎年金番号と記載されています。裏面の「書き方」を見てみると、「個人番号(基礎年金番号)」欄の説明として、「本人確認を行ったうえで、個人番号をご記入ください。基礎年金番号を記入する場合は、年金手帳等に記載されている10桁の番号を左詰めで記入ください。」と記載されています。では、「基礎年金番号を記載すればマイナンバーを記載しなくても良いのか」、という質問に対して日本年金機構ではあくまで「マイナンバーを記載してほしい」としており、マイナンバーを従業員から収集できないなど、やむを得ないケースでは基礎年金番号の記載でも構わないといった対応と思われます。
これらの新様式への対応は、3月5日からとされています。2月20日にマイナンバーの記載を必要とする新様式が発表され、3月5日には新様式での提出を求めているわけですが、システムでこれらの様式を作成していると、様式も大きく変わったことから、実際にベンダーがシステム対応できるのは早くても3月いっぱいくらいはかかってしまいます。そのため、日本年金機構では旧様式での提出も当面は認めるとしています。「当面」というのが、どこまでの期間なのかについては、明言を避けていますので、はっきりとしたことは言えませんが、3月以降数ヶ月は旧様式での提出も認めると思われます。ただし、その場合に注意が必要なのは、旧様式でもマイナンバーを記載しなければならないのか、という点です。各地の年金事務所によっては、旧様式で提出する場合でも、備考欄などにマイナンバーを記載することを求めているようです。このような状況では、旧様式での運用について、混乱が生じる可能性がありますので、日本年金機構が明確な指針を示すことが求められます。その際には、旧様式で無理にマイナンバーの記載を求めるのではなく、従来通り、基礎年金番号の記載までに留めるべきだと考えます。
では、このような状況で、事業者はどのように対応すべきでしょうか。
被保険者資格取得届や被保険者資格喪失届では、雇用保険が先行して2016年1月よりマイナンバーを記載するようになっていました。雇用保険のこれら届出の提出を受けるハローワークでは、当初はマイナンバーの記載がなくても受け取る対応をしていましたが、現在では、マイナンバーの記載を強く求めるようになっているようです。
すでに、これらの届出にマイナンバーを記載して提出している事業者では、健康保険・厚生年金保険の被保険者資格取得届や被保険者資格喪失届でも、同じように新様式にマイナンバーを記載して提出すれば良いことになります。これらの届出の新様式では、マイナンバーを記載すれば住所の記載が省略できるようになっていますので、その分手間が省けることになります。では、利用しているシステムで新様式が間に合わず、旧様式で提出せざるを得ない場合はどうするかですが、日本年金機構から明確な指針が示されていない状況では、新様式でもマイナンバーにかえて基礎年金番号での記載も認めているわけですから、基礎年金番号を記載して提出すれば良いと考えます。
被保険者資格取得届は、社員の入社が集中する4月に提出が集中します。この時期には、これまでの雇用保険に加えて、健康保険・厚生年金保険の被保険者資格取得届にマイナンバーを記載して提出することになります。システムでこれらの届出を作成している場合は、この時期までに利用しているシステムが新様式へ対応していれば、これを利用してマイナンバーを記載・提出すれば良いことになります。
今回の日本年金機構のマイナンバー対応で、新たにマイナンバーの記載が必要な書類が増えることは、事業者にとって、マイナンバー管理の負担が増えることになります。これに対しては、新たにマイナンバー対応しなければならない届出について、これまでやってきたマイナンバー管理のフローに合わせて、作成・提出のプロセスをきちんと管理できるように準備しておくことが大事になってきます。
なお、ここで取り上げた被保険者資格取得届や被保険者資格喪失届については、雇用保険と健康保険・厚生年金保険で、様式の統一や受付窓口のワンストップ化について、2018年度に検討を開始し、2019年度中に実施予定とされています。そこまで進めば、マイナンバーを記載しなければならない様式が集約され減ることになりますし、提出の手間も軽減されます。こうした事業者に利便性をもたらす施策が、確実に実行されるように今後の推移を見守っていきたいと思います。
中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。