前回は「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」の第2部「官民データ活用推進基本計画」(以下「基本計画」)の施策集について、特に「電子行政分野」に深くかかわる「官民データ活用推進基本法」(以下「基本法」)で行政手続等のオンライン化原則を規定している第10条関連の施策を中心にみてきました。 今回はマイナンバーカードの普及・活用について「基本法」で規定している第13条関連の施策についてみていきましょう。
「基本法」におけるマイナンバーカードの普及・活用についての規定
今回の「基本計画」策定に関わった「官民データ活用推進基本計画実行委員会」が4月に開いた会合で提出された資料の中では、「基本法」第13条については、(図1)のようなポジションになっています。
「基本法」第13条は、マイナンバーカードの普及・活用を目指すものであり、「基本法」が目指すデータ流通の基盤整備になくてはならない要件であることがここでは示されています。
その「基本法」第13条では、「個人番号カードの普及及び活用に関する計画の策定等」について定められています。その第1項では「国は、個人番号カードの普及及び活用を促進するため、個人番号カードの普及及び活用に関する計画の策定その他の必要な措置を講ずるものとする。」とし、第2項では、「国は、電子証明書の発行の番号、記号その他の符号に関連付けられた官民データについては、その利用の目的の達成に必要な範囲内で過去又は現在の事実と合致するものとなること及び漏えい、滅失又は毀損の防止その他の安全管理が図られることの促進のために必要な措置を講ずるものとする。」としています。 第1項はマイナンバーカードそのものの普及及び活用について計画の策定など必要な措置を講じることとしています。
そして、第2項は分かりづらい書き方になっていますが、要はマイナンバーカードに格納される電子証明書の活用を推進することで、これと関連付けられる官民データが増えていくことになりますが、これらの官民データの利用について、安全管理に必要な措置を講じるとしています。データ活用という「基本計画」が目指す方向のなかでは、マイナンバーカードを利用するシーンでは、カードに格納された電子証明書の活用が欠かせないと考えられますので、この第2項のような条文が規定されたものと思われます。
「基本計画」での分野横断的な施策をみる
「基本計画」の「基本法」第13条関連の分野横断的な施策のうち重点的に講ずべき施策として、以下の5点が挙げられています。
・「マイナンバーカード利活用推進ロードマップ」に基づき、身分証等をはじめ、行政や民間サービスにおける利用の推進
・利用者証明機能のスマートフォンへのダウンロード実現
・公的個人認証基盤と民間の認証基盤とを連携させる官民のID連携
・行政手続等における住民票の写しや戸籍謄本等の提出不要化
・法人インフォメーション等を活用した政府全体のバックオフィス連携
まず、今年3月に総務省が策定した「マイナンバーカード利活用推進ロードマップ」に基づくマイナンバーカードの様々な分野における利用を推進することが挙げられています。もともと「ロードマップ」では、「マイナンバーカード・公的個人認証サービス等の利用範囲の拡大」として、「身分証等としての利用」、「行政サービスにおける利用」、「民間サービスにおける利用」の3つの項目が掲げられていますが、それをそのまま提示した項目となっています。これら3つの項目のなかでは、多岐にわたる計画が推進されることになっていますが、あまりにも計画が多く、マイナンバーカードの普及を促進するためにこれら多くの計画が本当に有効なのかという点で疑問を感じるわけですが、この施策の説明では、「定期的に進捗状況を点検するとともに、必要に応じて見直しを実施」するとしています。その一方で、「身分証等としての利用」のひとつとして「国家公務員における身分証としての活用は、重点的かつ計画的に実施する必要があるため、各省庁で導入計画を作成させ、引き続き順次移行を促進」するとしています。「ロードマップ」では、マイナンバーカードの民間での社員証としての活用も計画されていますので、政府の足元からまず進めようということで国家公務員における身分証としての活用は早くから計画されてきました。ただし、職員や労組の反対により、計画通りには進んでいないことから、改めてここで個別課題として取り上げられたものと思われますが、マイナンバーが券面に記載されたマイナンバーカードを持ち歩くことに抵抗を感じる人が多い実態を無視して進めようとしても無理があるのではないでしょうか。
そして2番目には、マイナンバーカードに格納される利用者証明機能のスマートフォンへのダウンロード実現が挙げられています。マイナンバーカードが様々な場面で本人確認手段として活用されるようになっても、マイナンバーが券面に記載されたマイナンバーカードを持ち歩くことに抵抗を感じれば、従来から活用されてきた運転免許証などを用いることになります。また、オンラインでの本人確認にはマイナンバーカードの利用者証明機能の活用が考えられますが、現状はパソコンとカードリーダーがなければ利用できない現実があります。この「利用者証明機能のスマートフォンへのダウンロード実現」は、様々なシーンで本人確認が必要な際にマイナンバーカードではなくスマートフォンをかざすだけで済むようになるとともに、スマホアプリと連携してオンラインの本人確認も簡単にできるようになるような利用方法が想定されていると考えられます。マイナンバーカードを持ち歩かなくてもマイナンバーカードの電子証明書機能を用いて本人確認ができるというこの施策を優先させ、身分証などへの利用もスマートフォンに格納した利用者証明機能を活用するようにすれば、スムーズに進むと思うのですが、こちらの施策の実現時期は2019年中とされており、実現までには時間がかかるようです。
そして3番目には、「公的個人認証基盤と民間の認証基盤とを連携させる官民のID連携」が挙げられています。民間企業が、本人確認が必要な場面で、マイナンバーカードの電子証明書機能を活用して本人確認を行うことなども、この施策の一環として考えられます。ただし、この施策の説明では「民間の団体等がマイナンバーカードの公的個人認証サービスと連携して、会員の現況を把握・反映することで ID の信頼性を向上させる『仕組み』の構築」を検討するとしています。マイナンバーカードでは住民票に見合う情報を提供する機能もありますので、この機能の利用を通して住所の変更がある場合の現況確認などを想定していると思われますが、「官民のID連携推進」や「IDの信頼性を向上」ということで語られている「ID」が何を意味しているのか明記されていません。おそらく医療分野などでマイナンバーとは別に導入が検討されている医療等IDなどが想定されているものと考えられます。今後、これらのID の信頼性を向上させる「仕組み」の詳細を今年中に具体化するとしていますので、今後の動きに注目していきたいと思います。
4番目、5番目に挙げられている項目は、前回取り上げた「基本法」第10条関連の施策としても掲載されていた項目の再掲となりますので、ここでの解説は省略します。
「基本計画」での分野別の主な施策をみる
この「基本法」第13条関連の施策は、8つの重点分野のうち5つの分野にわたって施策が挙げられています。それらを列記すると以下のようになります。
<電子行政分野>
・海外における公的個人認証サービスの継続利用
・マイナンバーカードの多機能化の推進
・マイナンバーカード等への旧姓併記等
・コンビニ交付サービスの導入推進
・子育て・介護・相続などのライフイベントに係るワンストップサービス
・マイナンバーカードと電子委任状を活用した政府調達
<健康・医療・介護分野>
・健康・医療・介護分野に関わる多様な主体の情報共有・連携の仕組みの確立、成果の推進・普及
<観光分野>
・マイナンバーカードを活用したチケットレス入場・不正転売の帽子の仕組みの検討
<金融分野>
・住宅ローン契約等におけるマイナンバーカード(公的個人認証サービス)の活用促進
<インフラ・防災・減災等分野>
・災害対策・生活再建支援へのマイナンバー制度活用検討
非常に多くの施策が挙げられていますので、これらのうちいくつかの項目に焦点を当ててみていきましょう。
マイナンバーカードの多機能化の推進
まず、この施策の冒頭で「マイナンバーカードを国民に浸透させるための多機能化が必要」と断言し、具体的な施策として、マイキープラットフォームを構築し、自治体の参加を促し、地域経済応援ポイント活用等の実証を実施後、2018年度以降全国展開するとしています。マイキープラットフォームとは、マイナンバーカードのマイキー部分(ICチップの空き容量と公的個人認証の部分)を活用して、マイナンバーとは別のマイキーIDを作成し、これを利用して図書館など公共施設の利用や、地域の商店街で利用できるようにする共通情報基盤のことです。このマイキーIDについては、マイナンバーとは無関係なIDであることから安全に運用できるといった説明がされています(総務省「マイキープラットフォーム構想の概要」参照)。ただし、このマイキーIDを活用して地域の公共施設を利用するには、マイナンバーが記載されたマイナンバーカードを持ち歩く必要があります。マイナンバーが記載されたマイナンバーカードを持ち歩くことへの抵抗感を解消する施策なしでは、多機能化が進んでもマイナンバーカードの普及はおぼつかないのではないでしょうか。
コンビニ交付サービスの導入推進
マイナンバーカードを活用したコンビニでの住民票などの交付は、確かに便利です。ただし、官民手続きのオンライン化原則を進める「基本法」のデジタルファーストの考え方に照らし合わせてみると、矛盾を感じざるをえません。
紙での住民票などの添付が必要な手続きがあるために、住民票などを取得しなければならない、その取得するための手段がより便利になるのがコンビニ交付なのですが、電子データで住民票などを受け渡しできる仕組みを作ることの方が、「基本法」の趣旨からすれば、目指すべき方向性といえるのではないでしょうか。そう考えると、このコンビニ交付は、電子データで住民票などを受け渡しできる仕組みができるまでの過渡的なサービスとなります。そうした視点で、コンビニ交付を位置付けると、コンビニ交付のためのシステムにお金をかけるよりは、マイナポータルの機能として電子データで住民票などを受け渡しできる仕組み作りにお金をかけた方が、より実効性があるのではないでしょうか。
住宅ローン契約等におけるマイナンバーカード(公的個人認証サービス)の活用促進
今年3月21日の日本経済新聞に三菱東京UFJ銀行が住宅ローンの新規契約で、マイナンバーカードを活用して、自宅のパソコンで契約完了できるようにする旨の記事が掲載されました。「基本計画」のこの施策は、三菱東京UFJ銀行の取り組みを追認するように、「住宅ローン契約等における利用者の利便性向上及び銀行等の事務効率化の観点からは、マイナンバーカード(公的個人認証サービス)の活用促進を図ることが重要。」とし、今年度中に銀行等において課題等を整理して、公的個人認証を用いて容易にオンラインで本人確認できる環境を整備するよう促しています。
三菱東京UFJ銀行の取り組みが画期的だったのは、利用者にマイナンバーカードの電子証明書を読み取るためのカードリーダーを配布するとしている点です。他の銀行等が同様の取り組みを開始する際に、カードリーダーを配布するところまで踏み込むかどうかは今後の推移をみていくしかありませんが、マイナポータルの利用促進などの課題を考えると、多くの施策に予算を分散させるのではなく、もっと集中と選択を徹底させ政府がカードリーダーを配布することを考えても良いのではないでしょうか。
災害対策・生活再建支援へのマイナンバー制度活用検討
マイナンバー制度の説明では、当初から社会保障・税の分野に次いで、災害対策でもマイナンバーにより個人の特定を確実・迅速に行うことにより、被災者救済の迅速化などが掲げられていました。ただし、マイナンバー制度導入後に起こった重大な災害(熊本地震など)で、マイナンバー制度が有効に活用されたという話は聞きません。
「基本計画」のこの施策では、まず、「災害対策・生活再建支援においては、必ずしも迅速かつ適切な災害情報の提供・発信等の国民ニーズを捉えられていない現状。」という問題意識が提示されています。その上で、今年度の早い段階で、関係府省庁が連携し、過去の災害を踏まえ、災害発生時や生活再建支援時等における国民や行政のニーズを把握するとともに、現行法でマイナンバーを利用可能な被災者台帳の作成や生活再建支援金の支給の事務におけるマイナンバーの利用をはじめ、マイナンバー制度利活用による被災者支援の具体的な方策について、今年度中にとりまとめを実施するとしています。
マイナンバー制度では、地方自治体がマイナンバーを発行・管理していることから、施策にあるようなマイナンバーを利用した被災者台帳の作成や生活再建支援金の支給など迅速かつ適切な支援策を実行することは、これまでも可能だったと思われますが、なぜか行われてきませんでした。この施策中には書かれていませんが、被災にあわれた方は運転免許証など身分を証明できる書類や通知カードも失くされるなど本人確認・番号確認できない状態が想定されます。こうした書類がなくても当人とマイナンバーをひも付けて、被災者台帳の作成や生活再建支援金の支給などを行える体制をどのように作るのかが課題と考えられます。
とはいえ、当初からマイナンバー利用の一分野として掲げられてきた災害対策の分野でようやく施策が動き出します。被災者に対する迅速かつ適切な支援を実現するためにマイナンバーが有効に活用されることになれば、マイナンバー制度に対する国民の見方も変わる可能性があります。その点は期待してみていきたいと思います。
今回みてきた「基本法」第13条関連では、その施策のほとんどはマイナンバーカードの電子証明書を活用するものがほとんどでした。券面にマイナンバーが記載されるマイナンバーカードを持ち歩くのは、誰もが抵抗を感じます。券面にマイナンバーを記載しないようにすることが無理ならば、スマートフォンに電子証明書を格納できるようにする施策こそ急ぐべき施策ではないでしょうか。また、今後本格稼働が予定されているマイナポータルが多くの人に有効利用されるためには、カードリーダーをマイナンバーカード取得者に政府が配布することも、是非検討されるべき課題と考えます。多くの施策に予算を分散しても、マイナンバーカードの普及に結びつかないと思われる施策も多くあります。ここは、「集中と選択」を再度徹底して上記のような効果的な施策に絞っていくことが大事なポイントとなるのではないでしょうか。
中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。