従業員からの個人番号の収集 知っておくべきルールと収集方法の検討
前回は、中小企業が「個人番号関係事務実施者」として行う実務の内容と必要となる準備についてみてきました。引き続き、必要となる準備を確認するために、マイナンバーを取り扱う各プロセスの実務の詳細と、それに応じて準備すべきことをみていきます。
今回は、マイナンバー取り扱いの最初のプロセスとなる従業員などからの個人番号の収集のプロセスをみていきましょう。
従業員のマイナンバー まず収集時期を決める
中小企業が従業員などにマイナンバーの提供を求め、収集する時期をいつにすべきかは、マイナンバー制度で特に決められているわけではありません。いつまでにという期限で考えれば、前回みてきた個人番号関係事務でマイナンバーを記載しなければならない書類を作成、提出する直前までにその書類に必要なマイナンバーを収集しておけば良いことになります。源泉徴収業務で考えると、退職者がでなければ、源泉徴収票などにマイナンバーの記載が必要となるのは、平成28年分の給与所得から、つまり平成28年末の年末調整業務で作成する源泉徴収票からとなりますが、では来年のその時期に従業員などにマイナンバーの提供を求めて、スムーズに収集することができるでしょうか?
マイナンバーの通知カードが送付されるのは今年の10月からです。1年後の平成28年末では、従業員本人だけではなく扶養親族の分までマイナンバーを収集することは、通知カードの紛失などにより、より難しくなると考えられます。従業員などが通知カードの送付を受ける今年の10月から11月、この時期がマイナンバーを受け取るすべての個人がマイナンバーをもっともよく認識する時期でもあります。
以上のように考えれば、中小企業が従業員などにマイナンバーの提供を求め、収集するベストの時期は、通知カードが送付される今年の10月から11月です。まず、マイナンバーの収集時期を通知カードが送付される今年の10月から11月と決めて、そのための準備を進めていきましょう。
従業員にマイナンバーの提供を求めるために準備すること
今年の10月から11月に、従業員に本人と扶養親族のマイナンバーの提供を求めるために準備すべきことを整理してみましょう。マイナンバーの事務取扱担当者および責任者が、以下の準備にあたることになります。
従業員などにマイナンバーの提供を求める案内をする
マイナンバーの利用目的(雇用保険・健康保険・厚生年金保険関連の手続き、源泉所得税関連の手続き)を明示した上で、マイナンバーの収集を、各個人にマイナンバーが送付される今年10月以降に行うことを、まず従業員などに案内することから始めましょう。その際、政府公報などのホームページを参考に、マイナンバー制度の意義や目的なども文書に盛り込むことで、より従業員などにマイナンバーへの理解を深めておくことが大事です。ただし、文書だけではなかなか伝わらないことも考えられますので、政府が提供しているインターネットテレビを活用して、従業員などにマイナンバーについて研修する機会を設けることをお勧めします。
政府インターネットテレビ
「マイナンバー 社会保障・税番号制度が始まります」<個人向け編>
「マイナンバー 社会保障・税番号制度が始まります」<事業者向け編>
案内する際にあらかじめ従業員などに注意しておくべきこと
上記の案内をする際に、以下の注意事項も盛り込んでおきましょう。
住所票と現在の居住地が異なる場合
入社後に引っ越ししている従業員が、住民票を移すのを忘れているようなケースでは、現在居住している住所にマイナンバーの通知カードが届かず、収集を行う時期までに通知カードが手元に届いていないという事態が起こります。このように現在の居住地と住民票住所が異なる従業員には、早めに住民票の移動を行うように促す必要があります。
同居していない扶養親族がいる場合
従業員の扶養親族がすべて同居している場合は、ナイマンバーは世帯単位で送られてきますので、従業員が扶養親族まで含めたマイナンバーをスムーズに提供することができます。一方、同居していない両親などを扶養している場合は、両親の分の通知カードのコピーなどをあらかじめ送付してもらうなどの準備を該当する従業員にしてもらう必要があります。
以上のような従業員などに対する案内は、実際に収集を行う時期がくるまで、繰り返し行い、スムーズに収集が行えるように準備していくことが大事です。
なお、中小企業が社会保障や税に関連する事務のために収集しなければならないマイナンバーは、正規雇用の従業員だけではなくパートやアルバイトの方の分も対象となります。ただし、派遣社員の場合は派遣会社にマイナンバーを提供することになりますので、派遣社員にマイナンバーの提供を求めることはできませんので、その点も留意して案内していくことになります。
次回は、マイナンバーの収集にあたって守らなければならないルールや考慮すべき安全管理措置について説明します。
著者略歴
中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。