前回内閣官房が更新した資料から、マイナンバーカードについても今後のスケジュールを確認しました。マイナンバーカードやマイナポータルがもたらすサービスが本当に利便性のあるものとして提供されるためには、市区町村などの地方公共団体が果たす役割が大きくなってきます。そのため、総務省では地方公共団体への働きかけを強めています。今回は、その動きをみていきましょう。
総務省から各都道府県知事へマイナンバーカードの活用を依頼
総務省では、遅れていたマイナンバーカードの交付計画の見通しがついてきたことから、次のステップとしてマイナンバーカードの利便性を高めてさらにマイナンバーカードの普及をはかるために、9月16日、各都道府県知事宛に「マイナンバーカードを活用した住民サービスの向上と地域活性化の検討について(依頼)」という文書をだしています。 総務省は、このなかで1) コンビニ交付導入の検討依頼、2) 地域経済応援ポイントによる好循環拡大プロジェクトへの参加依頼、3) マイナポータルを活用した子育てワンストップサービス導入の検討依頼と、いずれもマイナンバーカードを活用したサービスを導入するように地方公共団体に対して依頼しています。
個人や企業が受ける行政サービスのそのほとんどは、地方公共団体によるものが多いことから、地方公共団体がマイナンバーカードを活用したサービスを積極的に提供していかなければ、マイナンバーカードの活用シーンは狭い範囲に留まってしまいます。ただし、地方公共団体にとっては、新たなサービスの提供はそのためのシステム開発などにコストがかかるため、総務省から依頼があったからといってすぐにサービス提供できるというものでもありません。
では、今回の総務省からの地方公共団体への依頼は具体的にどのような内容になっているのでしょうか。ひとつずつ、その内容をみていきましょう。
コンビニ交付導入の検討依頼
総務省がだした「マイナンバーカードを活用した住民サービスの向上と地域活性化の検討について(依頼)」には、別紙が添付されています。コンビニ交付については、(図1)のような「お願い」が別紙1として添付されています。
(図1) コンビニ交付導入の検討のお願い |
(図1) は別紙1の一部ですが、このあとに市町村のメリットとして「窓口の混雑が緩和され、夜間、休日開庁のご負担も軽減されます」、「窓口の職員の削減など、行革効果も見込まれます」と列記されています。さらに、「財政支援も充実しています」として、システム構築費などの総事業費の1/2を特別交付金(上限5,000万円)でまかなうことができることが記載されています。そして「クラウドを導入すれば、システム構築経費より安価となります。」としてコストの事例なども提示されています。最後には「システム改修も含め、概ね6カ月で導入可能です。
※「クラウドを導入した場合は、更に短縮されます」とし、導入にあたっては地方公共団体情報システム機構(J-LIS)がサポートすることも記載されています。
このコンビニ交付ですが、現在対応しているのは250市区町村、コンビニ約5,000店舗となっています。東京23区などはすでに対応していますが、全国主要都市のなかでも対応していない都市もあり、例えば現状未対応の横浜市は2017年1月下旬よりサービス開始するなど準備を進めているようです。このようにすでに準備を進めている地方公共団体により、今年度中のコンビニ交付の対応目標を総務省では300市区町村としています。別紙1の別添資料「コンビニ交付関連資料」では(図2)のように、今後の計画が掲載されています。
(図2) 総務省「コンビニ交付関連資料」より |
今回「お願い」というかたちで導入の検討依頼がされ、予算措置もされているようですが、当面の対応市区町村の伸びは低く予測されています。このことは、市区町村側のコスト負担に政府側の予算措置が追いついていないことが推測されますが、システム構築費用の見直しなどで、市区町村のコスト負担の低減をはかることなどもあわせて行っていかないと、全国1,742市区町村への普及はかなり先のことになってしまいそうです。
コンビニ交付のメリットは、住民票などが市区町村の窓口にいかなくても、コンビニで交付できること、そのコンビニが住民票住所地でなくても良いことにあります。特に住民票住所地と戸籍の住所地が異なる市区町村の場合、現在の住所地で戸籍証明がとれることは大きなメリットになりますが、戸籍の住所地の市区町村がコンビニ交付に対応していな場合、そのような利用はできないことになります。
システム構築でむやみにコストをかけることは望ましいことではありませんが、人口の少ない市区町村などコスト負担が厳しい状況にあるところは周辺の市区町村と共同で、かつクラウドでシステム構築をはかるなどで、全体のシステム構築費用を低減していくなどの措置を講じて、全国でコンビニ交付のメリットが享受できるような道筋をつけていく必要があるのではないでしょうか。
地域経済応援ポイントによる好循環拡大プロジェクトへの参加依頼
マイナンバーカードの用途として、地域で利用できるポイントの構想は以前から公表されていましたが、これについての実証事業に要する経費が8月に閣議決定された今年度の第2次補正予算(案)に計上され、その実証事業への参加依頼が、この「地域経済応援ポイントによる好循環拡大プロジェクトへの参加依頼」ということになります。 これについても参加依頼の別紙が添付されており、その別紙2は(図3)のような内容となっています。
ここではマイキープラットフォームという言葉がいきなり出てきています。「マイキー」とはマイナンバーカードのICチップの空き容量と公的個人認証の電子証明書の部分のことを指しており、この「マイキー」は国や地方公共団体だけでなく民間でも活用できるものとされています。この「マイキー」を活用して、マイナンバーカードを公共施設や商店街などに係る各種サービスを呼び出す共通の手段とするための共通情報基盤を「マイキープラットフォーム」と呼んでいます。今回の実証事業では、この「マイキープラットフォーム」と、自治体の発行するポイントや、民間事業者のポイントを地域経済応援ポイントとして地域商店街等で活用できるポイントとして管理する「自治体ポイント管理クラウド」の実証も行うこととされています。
「自治体ポイント」とは、別紙2で「ボランティアや子育て支援など、住民の公共的な意義のある活動をポイント付与で支援し、さらに、そのポイントを地元商店街等で活用していただき、地域経済にも寄与しようというもの」と説明されています。
そして、「地域経済応援ポイント」とは、「クレジットカード各社や大手航空会社、大手携帯電話会社など独自でポイントをつくっている各分野の企業が、本人が同意した場合、自治体ポイントに合算して地域で活用しようとするもの」と説明されています。
要は、「マイキープラットフォーム」で自治体独自で発行するポイントに関する活動などを管理し、「自治体ポイント管理クラウド」をとおして自治体ポイントと民間事業者のポイントを地域経済応援ポイントとして地元商店街などで活用できる仕組みを作ろうというのが、この構想ということになります。
(図4)から政府としてやりたいことは、商店街という言葉に象徴される地域経済の活性化だということは分かります。すでに「自治体ポイント」のような地域限定のポイントを運用している自治体もあります。ただし、この図のように「自治体ポイント」が、ポイントを運用している民間事業者まで巻き込んで、地域経済の活性化の主役となり得るのかは、仕組みが課題ではなく経済的な政策が課題となるのではないかと思います。
この計画では、実証事業は準備期間をへて、2017年夏頃をめどに開始することになっています。「マイキープラットフォーム」や「自治体ポイント管理クラウド」などの仕組みづくりだけが先行して、地域の経済活動にとってメリットがなければ、この構想は機能しません。地域経済の活性化はこの国にとって重要な課題であり、地域で事業をおこなう事業者にとっても大事な課題です。地域経済応援ポイントによる好循環拡大プロジェクトについては、その視点から今後の推移を見守っていきたいと思います。
著者略歴
中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。