これまでの連載で、マイナンバー制度にかかわる行政側のシステム開発の遅れ(マイナンバーカード交付の遅れやマイナポータルのスタート時期の遅れなど)について触れてきました。だからといって、マイナンバーを記載した書類の提出にかかわるスケジュールまで変わったわけではありません。

こうした行政側のシステム開発の遅れが報じられるなか、マイナンバーカードやマイナポータルの利用と、マイナンバーそのものの利用が混同され、一部に今後のスケジュールについて誤解が生まれているようです。

内閣官房は「マイナンバー制度の概要資料」を8月に更新しました。今回はこれをベースに今後のスケジュールを再整理しておきましょう。

現時点の「マイナンバー制度導入後のロードマップ(案)」を確認する

内閣官房が8月に更新した「マイナンバー制度の概要資料」には、「マイナンバー制度導入後のロードマップ(案)」として以下のような図が掲載されています。

(図1) マイナンバー制度導入後のロードマップ(案)( 内閣官房 「マイナンバー制度の概要資料」より

マイナンバーとマイナンバーカード、そしてマイナポータルの3つに分けて今後のスケジュールが提示されています。この図をベースに、今後のスケジュールを再確認していきましょう。

マイナンバーの利用スケジュール

まず、2016年1月より順次として、社会保障・税・災害対策のそれぞれの分野でマイナンバーの利用が開始されることが記載されています。

ここに明記されていませんが、社会保障の分野では2016年は雇用保険など労働保険関連の手続きのみでマイナンバーの記載が求められています。社会保険については、「日本年金機構は、2017年5月末までの間で政令で定める日まで、マイナンバーを利用できない」とされているとおり、年金事務所に提出する社会保険関連の手続きでマイナンバーの記載が必要となる時期についてはまだ決まっていません。このことから、社会保険でのマイナンバーの利用は、2017年1月からということはなく、2017年7月頃くらいになるのではないかといわれています。

一方の税分野ですが、主な対象となる源泉徴収票などの法定調書や所得税については、従来から平成28年分からとされており、変更はありません。平成28年分の源泉徴収票などの法定調書の提出時期となる2017年1月、平成28年分の所得税の提出時期となる2017年2月~3月には、これらの書類に必要なマイナンバーを記載して税務署等に提出しなければなりません。

そのために、従業員などのマイナンバーを記載して源泉徴収票など法定調書を作成、提出する事業者や、事業者から委託をうける税理士は、今年の年末調整の時期までに必要なマイナンバーを収集しておく必要があります。また、所得税の申告を請け負う税理士は、納税者である個人事業主やその扶養親族のマイナンバーを申告時期以前に収集しなければなりません。

これらのスケジュールやそれに応じてやらなければならないことについては、社会保障の分野も税の分野も、従来から何も変わっていません。特に税の分野ではマイナンバーを利用した手続きが本格的に処理される時期が2017年1月以降になっているため、現状ではマイナンバーを利用するために必要な業務プロセスを経験するまでに至っていません。そのために、スケジュールに対する誤解が生じていると思われますが、特に税の分野では2017年1月から一気にマイナンバーを利用した手続きが始まることを再確認し、事業者も事業者から委託をうける税理士も、そのための準備を怠らないようにすることが大事です。

(図1)で、その他のマイナンバーの利用についてスケジュールをみておくと、「戸籍事務、旅券事務、在外邦人の情報管理業務、証券分野等において公共性の高い業務への拡大について検討し法制上の措置」を2019年通常国会を目処に検討することや、2018年度から段階的に医療等分野におけるマイナンバーの運用を開始することなどが記載されています。これらは、事業者というよりは個人にかかわる利用分野の拡大ということになりますが、どのように推移していくのか注目していきたいと思います。

マイナンバーカードの利用スケジュール

マイナンバーカードは2016年1月から交付開始となったものの、既報のとおりシステムトラブルにより交付が遅れていました。その後、システムトラブルの解消やマイナンバーカード交付支援チームによる市区町村に対するサポートなどにより、多くの市区町村で滞留していた交付通知書もすでに発送を終えたところもでてきており、遅くとも11月までにはここまでの滞留分が解消する見通しとなっています。

また(図1)では、2016年4月から、国家公務員の身分証などを一体化するなどのスケジュールが記載されています。実際に国家公務員の身分証を一体化するアプリケーションが、マイナンバーカードのICチップの空き容量を利用して提供されており、4月から運用も開始されているようです。その他、マイナンバーカードと他のカードの一体化を進めるスケジュールも記載されていますが、これらはこれからの動きとなりそうです。

一方、地方公共団体の独自利用については、すでにコンビニでの各種書類の交付がマイナンバーカードを利用するかたちで進められており、9月1日時点で250の市区町村で利用可能としています。このコンビニ交付については総務省が市区町村への財政支援もふくめて積極的に導入を促していることから、今後対応する市区町村の数は増えていくものと考えられます。

また、この地方公共団体の独自利用とあわせて2016年1月から公的個人認証サービスやICチップの民間開放も進められており、民間による開発が成果を上げていったその先では、(図2)にあるようにマイナンバーカードの利用によって様々なサービスが受けられるような社会の実現が構想されています。

(図2) マイナンバーカードを活用した利活用将来像(内閣官房 「マイナンバー制度の概要資料」より

もう一点、マイナンバーカードの利用で着目しておきたいのは、マイナンバーの医療分野における運用開始と呼応するように、2018年度から健康保険証として段階的に運用開始としている点です。これは、(図1)でマイナポータルのサービス例として挙げられている「医療費通知を活用した医療費控除申告手続きの簡素化」と密接に関連してきます。このマイナンバーカードを健康保険証として運用するための前提として、2017年度中とされている「医療保険のオンライン資格確認システム整備」とあわせて、今後の動きに注目していきたいと思います。

マイナポータルの利用

当初、2017年1月からサービス提供開始とされていたマイナポータルですが、(図1)のロードマップ(案)では、「2017年から順次、同年7月から本格運用開始」とされています。 この「マイナンバー制度の概要資料」では、マイナポータルで提供するサービスについて(図3)のように提示しています。

(図3) マイナポータルの主要機能(内閣官房「マイナンバー制度の概要資料」より

(図3)のうち、赤字で示されているサービスは行政機関が提供するものですから2017年7月まで待たずに開発、提供される可能性があります。一方、これまで電子私書箱と説明され、ここでは「民間送達サービス」となっているサービスなど青字で示されているものは、民間企業を巻き込んでサービス開発する必要があることから、これらのサービスまで含めた本格運用がスタートするのが2017年7月ということになると思われます。

この資料では、(図4)のようなマイナポータルのドラフトイメージも示されています。

(図4) マイナポータルで実現すること(内閣官房 「マイナンバー制度の概要資料」より

こうした資料の提示は、当初より計画は遅れているとはいえ、機能を追加しながら確実に開発が進んでいることを示しているのではないでしょうか。

マイナンバーカードの交付をめぐるシステムトラブルや、マイナポータルの本格運用開始の後ろ倒しという事態は、事実としてその通りではありますが、マイナンバー制度で事業者に直接かかわってくるマイナンバーの利用は、これまで示されたスケジュール通りで行われます。特に税の分野では、平成28年分の源泉徴収票などの法定調書の提出時期となる2017年1月、平成28年分の所得税の提出時期となる2017年2月~3月には、これらの書類に必要なマイナンバーを記載して税務署等に提出するというスケジュールに変更はありません。これらの書類作成、提出のためにマイナンバーの収集、管理がまだできていない事業者や税理士は、まだ間に合うこの時期に準備を開始することをお勧めいたします。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。