今年1月よりマイナンバーが利用開始となりましたが、税の分野での本格的なマイナンバー利用は、年末に行われる年末調整や源泉徴収票といった法定調書の作成・提出からで、まだ利用実績はないに等しい状況です。また、社会保障の分野では現状雇用保険のみ適用し、社会保障のメイン分野である社会保険については、平成29年から利用が開始されることになっています。

マイナンバーカードの発行においては、年初より繰り返されていたシステムトラブルは解消されたものの、市区町村での発行業務は当初より大きく遅れてしまっています。また、平成29年1月よりサービス開始としていたマイナポータルは、本格運用開始は平成29年7月からに延期となりました。

これらは行政側のマイナンバーに関するシステム対応が、予定通りに進んでいない状況を物語っています。

今回は行政側のマイナンバー制度へのシステム対応の現状を確認します。

社会保障関連の行政側のシステム対応

社会保障関連のマイナンバーの利用は、雇用保険関連から始まっています。今年の1月から社員の入退社に伴う雇用保険被保険者資格取得届・喪失届などにマイナンバー欄が設けられ、対象となる社員のマイナンバーを記載して提出することになりました。ただし、提出先であるハローワークではマイナンバーの記載がなくても書類を受け取るケースもあるなど、以外とゆるい運用が行われているようです。

また、健康保険や厚生年金など社会保険に関する分野でのマイナンバーの利用は平成29年1月1日提出分からとなっていますが、実際には [図1]の※3にあるとおり、日本年金機構が提出先になるものはマイナンバー記載時期が未定とされています。

日本年金機構は昨年5月個人情報の漏洩事件を起こしたため、システムの見直し・再構築およびマイナンバー対応にも時間がかかることが考えられます。実際に政府のIT投資について情報公開しているIT DASHBOARDの政府情報システム投資計画のページを見てみると、[図2]のとおり、2015年度の投資計画のうち「社会保険オンラインシステムの改修及び見直し、番号制度導入に必要な経費」がトップで、実に1800億円以上費やす計画になっています。現在のところ、2016年度の計画はこのページで公表されていませんが、2014年度も「社会保険オンラインシステムの改修及び見直し、番号制度導入に必要な経費」がトップでほぼ同様の金額を計上していることから、来年1月からのマイナンバーの利用開始が予定できないということは、これまで日本年金機構が使用してきたシステムが、情報漏洩事件がなかったとしても相当使えないシステムだったのではないかというふうに考えてしまいます。

これだけの巨額を投入したシステムが、実際にいつから運用されるようになっていくのか、今後の動きに注目していきたいと思います。

[図2] 投資計画上位20件

マイナンバーカード発行業務の現状

私は昨年12月下旬にマイナンバーカードの交付を申請しました。当初予定では今年3月くらいには交付通知書が届く予定でしたが、実際に届いたのは6月、先日ようやくマイナンバーカードの交付を受けることができました。

マイナンバーカードの交付にあたっては、格納されている電子証明書等のパスワードを設定することになるのですが、このパスワードは住基ネットを通してマイナンバーカードの発行等を担う地方公共団体情報システム機構(J-LIS) のカード管理システムに登録されます。([図3]参照)

マイナンバーカードの交付が始まった今年1月以来、このカード管理システムの中継サーバのシステムトラブルが相次ぎました。トラブル発生後しばらくはカードの交付手続きができなくなり、交付を取りやめる市区町村もあったようです。また、トラブルに至らないまでも1枚のカード交付に要する時間が長く、スムーズな交付作業が進まない事態が続いていました。

J-LISのホームページでは、現在トップページに「カード管理システムの障害に対するお詫びと説明」を掲載しています。これによりますと、カード管理システム内の中継サーバの障害については、3月11日までに発生現象を抑える改修等の対応策を実施し、ようやく4月に至って発生原因(発生原因については報道資料「カード管理システムの中継サーバに生じた障害原因の特定と対応について」を参照ください)が判明したため、4月15日及び22日に根本的な発生原因を取り除くための対応策を実施、その結果、現在カード管理システムは安定的に稼働していることが報告されています。 その後6月に公表された報道資料では[図4]のように、障害発生の背景や原因特定まで時間を要した要因をまとめています。

カード管理システムは、システムベンダー5社によるコンソーシアムにより開発されていますが、それぞれが[図3]のシステム構成の各パーツを受け持っています。このような方法を取る場合、それぞれが受け持つシステム間の連携については、相当に気を配る必要があるのです。しかしながらここで挙げられている原因・背景をみていくと、通信による連携部分だけでなく、単体テストの不足も指摘されており、システム全体としての管理責任が問われます。この点については、「プロジェクトマネジメント能力の強化」などを再発防止策として掲げるとともに、J-LISの役員の報酬を返納するとしています。

また、各市区町村が使用しているカード交付に係るシステムは、異なるベンダーが提供しており、そのためシステムがいまだにスムーズに稼働していない市区町村に対してシステム支援担当チームを設置して対応することが、再発防止策のなかに掲げられています。

私がマイナンバーカードの交付を受けた地域では、7月時点でスムーズに交付手続きが進んでいましたが、市区町村によってはいまだにスムーズに交付作業が進んでいないところもあるようです。

政府など公共機関のシステム開発では、このカード管理システムのように数社で分担してシステム開発を行うような形態はよく見られます。再発防止策でいうまでもなく、このようなケースではプロジェクト全体をきちんとマネジメントできることが大事なのですが、システム開発にあたるベンダー側だけでなく、システムを発注する行政側がその能力を持っているのかどうかが問われることになります。

マイナポータルの本格運用 半年延期?

行政機関で自分のどのような個人情報が管理されているかなどを確認することができるマイナポータルは2017年1月から利用開始とされていましたが、内閣官房が4月25日公表した「マイナンバーまるわかりガイド(保存版)」によると、[図5]のとおり、実際に利用できるようになるのは7月頃からと半年ほど延びることになったようです。

同じく政府省庁及び関連機関間の情報連携も2017年1月からとされていましたが、先述の通り、社会保険関連システムのマイナンバー対応が一部2017年1月には間に合いません。こちらも国民にとって関心の高い社会保険関連の情報提供が2017年1月時点でできないこともあって延期されることになったようです。

マイナポータルは国民ひとりひとりの個人情報を確認できるサイトになりますので、セキュリティには十分に配慮したシステム構築が望まれます。カード管理システムのシステム障害の例もありますので、拙速な開発により利用開始後に個人情報の漏えいなどが起こることは許されません。マイナポータルも行政機関間の情報連携も、延期されることはやむをえないとしても、いずれも相当の金額を投入して開発されるシステムであることから、実際の運用開始までに十分にテストを重ねるなどして、安全性が確保されたうえで国民の利便性の向上に寄与するものとして運用開始にいたることを願っています。

なお、法人向けのマイナポータルとなる法人ポータルについては、すでに経済産業省が「[経済産業省版法人ポータル(β版)」を公開しており、予定通り2017年1月より、本格運用がスタートするようです。

この「法人ポータル」については、法人の行政手続きが簡略化されたり、事業者が取引先の情報収集で、行政機関がもっている情報(公共事業の受注実績や処分等の履歴など)を簡単に収集できるような利用方法が想定されています。実際の運用開始時に法人事業者にとってどこまで便利な機能が搭載されてくるのか、注目していきたいと思います。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。