前回は、今年10月5日施行となる「マイナンバー制度」がすべての中小企業に影響する制度であり、施行前に準備を進める必要性についてみてきました。準備を進めるにあたり、理解を深めるためにも、そもそもマイナンバー制度とはどのような制度なのか、その概要と今後のスケジュールを整理してみましょう。
マイナンバー制度とは
政府公報のホームページではマイナンバーについて、以下のように記述されています。
「国民一人ひとりが持つ12桁の個人番号のことです。マイナンバー制度(社会保障・税番号制度)は、複数の機関に存在する個人の情報を同一人の情報であるということの確認を行うための基盤であり、社会保障・税制度の効率性・透明性を高め、国民にとって利便性の高い公平・公正な社会を実現するための社会基盤(インフラ)です。」
そしてメリットとして、「国民の利便性の向上 面倒な手続きが簡単に」、「行政の効率化 手続が正確で早くなる」、「公平・公正な視野会の実現 給付金などの不正受給の防止」が掲げられています。
こうしたメリットの実現を目的に制定されたのが「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(以下「番号法」 2013年(平成25年)5月31日公布)などの法律です。
そして現在国会では、このマイナンバーの民間利用を可能にする法律が審議されており、個人や社会といったレベルでは、この番号制度、これから様々な利便性をもたらすことが想定されますが、今年、来年といったところでは、「番号法」の正式名称にある通り、行政手続に限定して運用が始まることになっています。
この行政手続、個人のレベルでは、例えば児童手当の現況届の際に市町村に個人番号を提示するとか、厚生年金の請求の際に個人番号を提示するなどの利用方法が予定されています。そのため、2016年(平成28年) 1月からは、個人番号の提示の際に利用できる個人番号カードの発行も、個人の申請により行われるようになります。
事業者である中小企業では、社会保障や税の分野で、事業者として行わなければならない行政手続で、個人番号の記載が義務づけられる書類の作成、提出に際して、個人番号を取り扱うことになります。
今後のスケジュール
2015年(平成27年)10月5日「番号法」施行、個人番号通知カード送付開始
番号法」は2015年(平成27年)10月5日施行されます。そして、この日から個人番号の通知カードの送付が始まります。住民票を有する個人宛に市区町村から個人番号の通知カードや個人番号カードの申請書などが簡易書留で送付されてきます。
住民票を有するすべての個人に対して簡易書留が送付されるわけですから、実際に送付が完了するのは11月にずれ込むことも考えられます。
例えば、引越したにもかかわらず、住民票を移してないようなケースでは、宛先の住所に本人がいないことになりますので、送付元の市区町村に送り返されることになり、実際に本人に届かないような事態も起こり得ます。従業員の個人番号を収集しなければならない事業者は、あらかじめ住民票の住所に住んでいるのか、そうでない場合は、10月までに住民票を移すように従業員に注意を促す必要があります。
個人番号通知カードイメージ |
2016年(平成28年)1月 個人番号カードの交付開始、個人番号の利用開始
個人番号の通知後に、市区町村に申請すると、身分証明書や様々なサービスに利用できる個人番号カードが2016年(平成28年)1月より交付されます。
表面に顔写真や氏名、住所等が記載され、裏面に個人番号が記載された個人番号カードは、e-Tax等の電子申告・申請時の電子証明書としての利用や図書館利用や印鑑登録証など、地方公共団体が条例で定めるサービスにも利用できる予定です。
なお、これに伴い住基カードの交付は終了することになります。
中小企業が行う行政手続きでの個人番号の利用も2016年(平成28年)1月よりスタートすることになります。社会保障や税の分野で、早いものでは1月に従業員等の個人番号を記載した書類の作成が必要となるケース(例:退職所得の源泉徴収票など)もあります。必要になった時点で都度該当する従業員からの個人番号を取得するという方法も考えられますが、個人番号の通知後時間が経ってしまうと、従業員が通知カードを紛失するなど、個人番号の取得がスムーズにいかないことも想定されます。
従業員の個人番号の収集は、通知カードが届いた直後、少なくとも年内に行うのがベストの選択だと考えられます。
2017年(平成29年)1月 マイナポータル運用開始
そして2017年(平成29年)1月からは、自分の個人情報のやりとりの記録が確認できる「マイナポータル」の運用が開始される予定です。
この「マイナポータル」では、自分の個人情報をいつ、誰が、なんのために提供したのか、行政機関などが持っている自分の個人情報の内容などが確認できる機能が提供される予定です。
そしてこの「マイナポータル」の後には、「マイナポータル」を活用し、利便性の高いオンラインサービスをパソコンや携帯端末など多様なチャンネルで利用可能にする「マイガバメント」が構想されています。ただし、この「マイガバメント」は現在政府で検討段階であり、実際にどのようなオンラインサービスが実現するのか、詳細が明らかになるのはこれからといったところです。
著者略歴
中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。