国税庁は、平成30年分の所得税確定申告で、「スマホ×確定申告 スマート申告始まります!」として、国税庁の「確定申告書作成コーナー」をスマートフォンに対応させました。ただし、平成30年分の所得税確定申告では、スマートフォンに対応した内容は、給与所得者の医療費控除や寄附金控除などに限られていました。また、スマートフォンで作成した確定申告書を、電子申告する場合、スマートフォンでマイナンバーカードを読み取る必要がありますが、それができるのは、Android系の一部のスマートフォンに限られていました。
これが、令和元年分の所得税確定申告では、対象範囲が拡大するとともに、マイナンバーカードの読み取りに対応したスマートフォンに、iPhoneが加わります。これにより、スマートフォンでの所得税電子申告が、加速する可能性があります。
今回は、スマートフォンとマイナンバーカード、そして所得税電子申告との係りについて、みていきましょう。
所得税の申告状況とe-Tax利用率
所得税というと、個人事業主がその事業所得を申告するものというのが、一般的な認識かと思います。国税庁の報道発表資料「平成30年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」によると、所得税の申告者数は2,222万人に対して、事業所得者の申告者数は約168万人に過ぎません。
(図1)は、所得税等の申告状況の推移をグラフにしたものです。
このグラフによると、個人事業主のうち申告納税額があるものの数が168万人で、申告納税額があるもののうち、26%程度になっています。事業所得以外で申告納税額があるものとしては、給与所得が2,000万円を超える人や2カ所以上で給与をもらっている人、土地や株式を譲渡した人などが入ってくることになります。
また、このグラフからは、還付申告となる人たちが、所得税確定申告の大半を占めていることが、わかります。ここには、給与所得者の医療費控除やふるさと納税などによる寄附金控除をする人たちが入ってきます。
(図2)は、手続きごとのe-Tax利用率を示した表です。
所得税のe-Tax利用率は、法人税に比べて、以前から低いことがわかります。法人税の電子申告は、主に中小企業を中心に、その企業に関与している税理士が代理送信して牽引するかたちで、利用促進が図られており、高い利用率を達成しています。その一方で、所得税の場合は、税理士が関与して代理送信するのは個人事業主や、関与している企業オーナーで給与が2,000万円を超えるケース、土地や株式の譲渡があるケースに限られており、所得税全体としては、限られた数になってしまいます。
それでも、平成30年分の所得税の電子申告が、それ以前に比べて、伸びているのは、平成30年分から実施された、以下のような「e-Tax利用の簡便化」によるものと思われます。
・マイナンバーカードによるe-Tax利用の場合は、あらかじめ利用開始届を出してe-Tax用のID・パスワードを取得する必要がなくなったこと
・マイナンバーカードの未取得の場合は、税務職員との対面で本人確認を行い、税務署長が通知したe-Tax用のID・パスワードだけで、申告等データの作成・送信ができるようになったこと
・簡便な手続き(医療費控除や寄附金控除の場合)の場合、スマーフォンでも申告書の作成・送信ができるようになったこと
実際のところ、上記のうち、どれがe-Tax利用率の伸びに寄与しているかをみてみると、(図3)の「ICTを利用した所得税等の確定申告書の提出人員」から、その傾向が見て取れます。
(図3)をみると、「税務署で作成・e-Taxで提出」は、前年よりも減少しています。大きくその数を伸ばしているのは、「国税庁HPの作成コーナーで作成・e-Taxで提出」で、ほぼ倍増していることがわかります。また、そのうち「スマートフォン等を利用した提出人員」が約36.6万人になっています。
これらの点から、マイナンバーカード方式によるe-Tax利用が、進んだものと考えられます。
医療費控除などで還付申告する人の大半は、給与所得者ですが、毎年税務署に出かけるよりは、マイナンバーカード取得に手間をかけても、自宅から電子申告をする方が便利だと考えたのではないでしょうか。
こうしたかたちでの、マイナンバーカードの普及は、マイナンバーカードの本来の使い方によるものです。唐突に出てきた感があるポイント還元などによる普及策よりも、こうした本来の使い方で、マイナンバーカードの普及に力を入れるべきではないでしょうか。
昨年よりも進化するスマートフォン×マイナンバーカードでのe-Tax利用
国税庁では、10月16日「スマートフォン × マイナンバーカードでe-Tax!進化するスマート申告!」というページを公開しました。そして、スマートフォン専用画面でできることについて、「令和元年分の所得税の確定申告書作成コーナーは、2カ所以上の給与所得がある方、年金収入や副業等の雑所得がある方など、スマホ専用画面をご利用いただける方の範囲が広がります。」として、(図4)のような表を掲載しています。
利用対象者が給与を2カ所以上からもらっている人や、年金受給者などに広がり、所得控除についても、すべての所得控除に対応することから、利用可能な対象者の数は、大きく増えることになります。
また、昨年に比べて大きく変わるのは、利用可能なスマートフォンにiPhone7以降のiPhoneが加わることです。日本では、iPhone利用者が多いといわれていますので、iPhone×マイナンバーカードで、所得税の電子申告ができることにより、(図3)でみた「国税庁HPの作成コーナーで作成・e-Taxで提出」数が、来年も大きく伸びる可能性があります。
iPhoneのマイナンバーカード対応アプリは、10月からダウンロードが可能になっています。普段、この対応アプリでできることは、マイナンバーカードを読み込み、マイナポータルにログイン、スマートフォンで自分のマイナポータルを確認することくらいです。マイナポータルは、まだまだ有用な情報が少ないため、そんなに利用する機会は少ないのが実情です。ただし、PCにカードリーダーをつないでマイナンバーカードを読み込まないと、利用できなかったマイナポータルが、スマートフォン×マイナンバーカードで利用できることで、手軽に利用できるようになったことは確かです。
私の場合も、iPhoneにマイナンバーカード対応アプリを入れてからは、マイナポータルを閲覧する回数が増えました。スマートフォンで利用できるということに、手軽さを感じます。
所得税の確定申告の場合も、同様のことがいえるのではないでしょうか。
給与所得者や年金受給者の還付申告が多くの割合を占める所得税の申告で、昨年は給与所得者の医療費控除と寄附金控除など、利用対象者が制限される中で、約36.6万人がスマートフォンから申告しています。
PCよりも普及率が高いスマートフォンを活用していこうとするのは、個人が対象となる所得税では有効な施策となることを、平成30年分の所得税の申告で、実際に確認できています。
令和元年分では、さらにスマートフォンによる所得税申告の利用可能となる対象者が、大きく増えます。これによって、所得税のe-Tax利用率がどの程度伸びるのか、またマイナンバーカードの普及にどの程度寄与していくのか、来年の所得税確定申告では、そうした点に注目してみていきたいと思います。
中尾 健一(なかおけんいち)
Mikatus(ミカタス)株式会社 最高顧問
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。現在は、2019年10月25日に社名変更したMikatus株式会社の最高顧問として、マイナンバー制度やデジタル行政の動きにかかわりつつ、これらの中小企業に与える影響を解説する。