AR/VR(XR)はLCDからマイクロOLEDそしてマイクロLEDへ
将来、XR(AR/VR)が普及するとスマートフォンは無くなるとも言われている。ARグラスの中に映し出される映像を指や瞳の動きで操作できる様になれば、両手を使って操作するスマホ、タブレット、ノートPC等のモバイル機器も不要になる。そのような世界が実現するには未だ時間はかかるが、そこに向けてディスプレー技術も着実に進化している。これまでの直視型のディスプレーではなく、空中に映像を映し出すためのマイクロディスプレーである。この進化によって、人々がどこにいてもより没入感の高い体験を得ることができる究極のモバイル機器への道を拓いていくことになる。
これまでマイクロディスプレーは、LCOS(シリコン上液晶)が広く利用されていた。最近ではマイクロOLEDが市場に入り始めている。これは、小型でより鮮明な画像を提供できるため、AR/VRデバイスにおいて理想的な選択肢となっている。さらに最先端の技術としてマイクロLEDも登場し始めた。マイクロOLEDよりも高精細・高輝度で、より明るく鮮明な画素を映し出すことが可能である。同時に低消費電力性も兼ね備え、AR/VRディスプレーの未来を形作る重要な技術とされ開発が進められている(図4)。
車載ディスプレーはLCD、OLEDからHUDへ
これまで車は移動の手段であり、運転のためのディスプレーが「車載ディスプレー」として進化してきた。大画面化するLCDやOLEDが採用される一方で、今後の自動運転化に向けたトレンドは「モビリティ」の言葉に代表される様に、車がサービスのプラットフォームに変化し、この移動空間でも情報表示がより重要になっていく。その一例がヘッドアップディスプレー(HUD)である(図5)。
初期のHUDは、基本的な運転情報をフロントガラスに投影する機能に限られていた。近年、拡張現実(AR)技術を組み合わせたAR-HUDが開発され、ナビゲーションや速度表示をはじめとする豊富な情報を直観的にドライバーに提供できる様になってきた。将来的には、AR-HUDはさらに進化し、フルウィンドスクリーンARディスプレーの実現を目指している。これにより、ドライバーは車窓全体を通して、リアルタイムで交通状況や周囲の環境に関する詳細な情報を得られるようになる(図5)。
自動車のディスプレー技術の進化は、運転の安全性と快適性を高める為だけではなく、移動中や停車中の車内空間での居住性を根本的に変えつつある。未来の自動車は、ただ移動するためのツールではなく、情報とコミュニケーションが融合した先進的な空間へと変貌を遂げていく。その為のディスプレーとして、HUDだけでなく、マイクロLEDを使った透明ディスプレーなども開発が進められている。
ディスプレーに対する要求特性は時代と共に進化している
ディスプレーは、表示性能とユーザビリティーの両輪がかみ合いながら進化してきた。現代のモバイルディスプレーでは高解像度、鮮やかな色再現性、高いコントラスト比などの表示性能、一方では、優れたタッチインタフェースやフレキシブル化などのユーザビリティが、モバイル機器の使用感を高めている。また、モバイルディスプレーの耐久性や使いやすさも重要な要素である。日常生活での落下や傷に強い素材、指紋や汚れを防ぐコーティング技術は、デバイスの長期的な使用に不可欠である。こうした品質の向上は、モバイルディスプレーが私たちの生活にますます深く組み込まれることを示している(図6)。
これまでのディスプレーは、画面上に映像が映し出される「二次元表示」のデバイスであったが、今後はAR/VRの様な「空中映像(三次元表示)」のデバイスが普及してくる。その操作も画面に触れるタッチ入力ではなく、空中の映像を操作するために様々なセンサーを駆使した入力方法や操作方法が組み合わされ、さらにはAIが映像表現や操作性を適切にサポートしていくことになるであろう。これらの新しい形態の機器は、モバイルの世界の可能性を大きく広げていくことになる。
2030年に向けた市場の方向
2024年はディスプレーの新たな50年サイクルに入る年である。LCDがウオッチや電卓に始めて搭載された1973年から50年がたち、ディスプレーの形態も過去の画面サイズの大型化や高精細化、画質の向上などを追い求める時代から、小型化やフレキシブル化でモバイル性を重視する方向に変化していく。さらには二次元表示から三次元的な空中映像を駆使することでモバイルの世界がますます発展していくことになる。