前回は、モバゲータウンというサービスとは何か、10代が「モバゲータウン」(以下、モバゲー)にはまる主な理由について考えた。今回は、ゲーム・SNS・アバター以外の理由について考える。話は、前回同様DeNA広報 金子哲宏氏に伺った。
匿名だから言いやすい友人関係
モバゲーではユーザー同士が直接会うことは原則禁止されており、基本的に匿名での交流となっている。ユーザーは、おしゃべりするような感覚で、日常で思ったことや伝えたいことを書くのにモバゲーを利用する。金子氏いわく、「相手の顔が見えないために気持ちなどが書きやすく、意識せずに簡単に即座に(返事を)返すことができるのが楽しいようだ」。
モバゲーユーザーは、現実の友達に言えない悩みなどを、モバゲー内で知り合った友達「モバ友」に相談するのだ。現実の友達には秘密をしゃべられたら困るが、ネット上の友達にはそんな心配はないし、言いやすい。モバ友に相談して意見を言ってもらい、ホッとする子も多いという。
前編でアンケートに協力いただいた公立高校の情報教育担当教諭によると、生徒たちはモバゲーを「友達ができるからいい」と考えているが、あくまでもモバゲー上での付き合にとどめ、直接会うことにはさほど興味はないようだという。それは利用規約に従っているというよりは、「正体を明かしたくない」ことが理由らしい。ネット掲示板「2ちゃんねる」での書き込みと同じで、匿名だからかえって何でも言いやすいというわけだ。
「現実世界で悩みを抱えている子がモバゲーでは生き生きとしていたり、威張っていたりという状況もあるようです」(前出教諭)。モバゲーは匿名世界のため、現実とは別のバーチャルな世界として楽しめるところが人気なのだ。
モバゲーでの交流3パターン
モバゲーでの交流の種類は、主に3パターンある。ひとつ目は、前述のように、モバゲー内で知らない人と出会い、やりとりを楽しむケースだ。たとえば、現実の生活では身近にいない共通の趣味を持った人と知り合う場となっている。
10代はセンシティブで、友人同士でもお互いに気を遣い合っている。それゆえ、あまりに濃密な関係は疲れるので避けたいという気持ちが働く。そんな彼らにとって、見知らぬ人と気が向いた時にだけ気軽に話し合えるモバゲーは、まさに願ってもない場所と言えるだろう。
ふたつ目が、招待ユーザー同士など、おもに実際の知人とだけでやりとりしているケース。互いの連絡手段のひとつとして使われているようだ。しかし、モバゲーでは、バーチャルな友人どうしのバーチャルな交流や、リアルな友人どうしの交流ばかりが行われているだけではない。
前出の教諭によると、生徒の中には「モバゲー上で知り合った女の子と実際に顔を合わせ、付き合っていた」ケースもあるという。つまり、出会いが禁止されているとはいえ、実際には何らかの手段で直接会うことは可能なのだ。これが三つ目のパターンだ。
10代中高生の行動範囲は、基本的には学校と家との往復でになることから、交友範囲が狭く限られてくる。それだけに、新しい出会いを得たいという気持ちが強く芽生えることは仕方がない。その中には、恋愛したいという気持ちも大きいだろう。10代の様々な交流への欲求を満たすことができるところも、モバゲーの隠れた人気の秘密と言えるかもしれない。
自己表現の場としてのモバゲー
モバゲーでは、ケータイ小説を読んだり音楽を聴いたりすることができる。利用料はタダ。ユーザーは、パケット定額制サービスにさえ加入していれば存分に楽しめる。お小遣いが少ない10代にとって、無料で楽しめるものとして受け入れられているが、一方で、自己表現の欲求を満たしている点にも注目したい。
これらのサービスは暇つぶしになるだけではない。自分の書いた小説や音楽を公開することで、プロデビューへの道が開かれるという仕組みを持っているのだ。モバゲーで募集された「モバゲー小説大賞」では、入賞作品の書籍化も実現している。投稿者層は高校生くらいの年齢の子が多いという。ビジュアルワークスが行なった10代を対象とした調査によると、「あなたはケータイ小説を書いたことがありますか?」という問いに対して、全体の79.5%が「現在書いている」と回答。「過去に書いたことがある」という回答を含めると、9割近くのユーザーがケータイ小説を書いたことになる。この数字だけ見ると、高校生にとってケータイ小説を書くことはごく普通のことなのだ。ちなみに投稿者たちは、単行本一冊分にも及ぶ長さの小説をケータイで執筆するそうだ。
自作音楽を発表できるサービス「クリエイターミュージック」も用意されている。峰香代子のように、モバゲー内オーディションでグランプリを受賞して2009年にエイベックスエンタテインメントからデビューした人もいる。作曲には技術が必要とされるため、小説より投稿者層は若干年長で20代前半が中心となる。ユーザーはお気に入りのクリエイターにファン登録することが可能で、伝言板で双方向の交流が楽しめる。ちなみに、前述の峰氏のファン登録は執筆時点で7,000人以上に上る。
今やモバゲーは、自己表現の場のひとつとなっている。「ケータイひとつで誰でもどこにいても応募できるのはすごいことだと思います。プロになりたい、小説が書きたいと思った瞬間にできるのですから。ケータイは、コミュニケーションだけではなく、世界とつながれるツールになっています」(金子氏)。
10代の若者たちは、自己表現できる場や自己承認してくれる場を求めている。そんな彼らには、気持ちや作品を表現し、他人が認めてくれるモバゲーのような場は、まさにうってつけと言えるだろう。
現実世界に居場所がない子どもたちや、現実に満足していない子どもたちにとっても、モバゲーはこれ以上ない場であることは想像に難くない。モバゲータウンは、子どもたちの交流したい欲求と、発信し承認されたい欲求を満たすことができる。それゆえに、モバゲーにますます深くはまりこんでいくのである。
著者プロフィール:高橋暁子
小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、『660万人のためのミクシィ活用本』(三笠書房)、『ミクシィをやめる前に読む本』(双葉社)などの著作が多数ある。ネットと教育関係やSNS関連などをテーマに多数連載中。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、"人"が関わるネット全般に興味を持つ。ブログはこちら