ケータイサービスを頻繁に利用していなくても、ディー・エヌ・エー(DeNA)が運営するモバイルサイト『モバゲータウン』、通称「モバゲー」の名前は耳にしたことがあるだろう。よゐこや広末涼子などの有名タレントを使ったCMでも話題を呼んだ。ゲームやSNSなどの機能が10代に人気の勝手サイト(キャリア非公式サイト)だ。なぜモバゲーが10代にウケているのだろうか。
10代に人気の「モバゲータウン」とは
モバゲータウンは2006年2月にサービスを開始した。2009年8月時点でユーザー数は1,500万人に迫り、月間ページビューは約195億PV(ページビュー)に上る。日本最大のSNS「mixi」が2009年6月時点で会員数1,700万人、月間PVはPCとモバイル合計で約150億PVであることを考えると、日本を代表するネットサービスの一つと言えるだろう。
そこでは無料ゲームだけでなく、ユーザー間のコミュニケーションを促進するSNS機能も提供される。「日記」、趣味などで集まる「サークル」、質問を交換する「質問広場」、小説や音楽などの作品を投稿し合うサービスなどがそうだ。ユーザーを表わす「アバター」と呼ばれる着せ替え可能なキャラクタも人気だ。
モバゲーは会員の4割を10代が占めており、16歳男子に至っては52.4%が利用しているというデータもある。記事執筆にあたり関東圏の某公立高校1年生(100名)の協力を得て行なったアンケート調査によると、約半数の48名がモバゲーの利用経験があると回答した。モバゲーの印象についても聞いてみたところ、肯定的な意見と冷静な意見とが混在した状態となっている。「悪い・やや悪い」に28名、「普通」47名、「やや良い・良い」18名と回答(一部無記入)。その理由については、「ゲームが楽しい」「友達ができる」「自分のことが(相手に)分からないから良い」「ゲームが自由にできるところがよいが、出会い目的の人もいるから注意が必要」「顔を見ない人と交際するのは気持ち悪い」などが挙げられている。
なお最近は、TVCMの影響で20代30代のユーザーも増えてきているという。
10代のニーズを満たすゲーム、SNS
DeNA広報 金子哲宏氏によると、ユーザー間のコミュニケーションはオープン当初から活発だったという。その最大の原動力となったのが無料ゲームだ。「(オープン当初)有料のゲームサイトが多い中で、無料で質が高いゲームができたことが勝因かもしれない」(金子氏)。運営側もモバゲーがこんな勢いで広まるとは思わなかった。2006年度の会員目標100万人に対し、実際は441万人というから、その勢いが分かる。無料で楽しめるゲームが次々と投入されたことも、結果的にその後の大人層の獲得につながったと考えられる。
モバゲーの魅力は無料ゲームだけではない。ゲームに集まったユーザーをつなぎ止める仕掛けが用意されていたのだ。SNS機能である。多くのゲームには、開発段階で裏技を仕込んだ。ある地点でジャンプをするとキャラの移動速度が速くなる――などゲームの攻略にもつながる裏技だ。このような裏技情報の交換場所としてSNSが使われたというわけだ。
IMJモバイルの「モバイルユーザー動向定点観測2009」(調査期間:2009年2月9日~11日、有効回答数:500)によると、10代の携帯電話利用者にとってモバイルとは、「暇つぶし」「コミュニケーションツール」「検索ツール」。ゲームやSNSなどは、コミュニケーションもでき、暇つぶしにもなる。モバゲーは、時間が有り余る学生を中心とした10代の携帯電話利用者に受け入れられる要素を持っていると言えるだろう。また、この年代の子供たちはメールやネットに依存していることが多い。まだ自我が固まっていない世代にとって、友達といつでもつながっていられることが安心をもたらす。モバゲータウンは、まさに10代のニーズを体現したサービスだったと言える。
人間関係ができたらアバター
SNSにより人間関係が生まれると、次第に、人間関係自体がモバゲーを利用するモチベーションになる。しかし、モバゲーでは規約上、ユーザー同士が直接会うことが禁止されている。機能面でも制限されており、個人情報の投稿や顔写真の登録などもできない。そこで自身を表わすものとして活躍するのが「アバター」だ。そこにはユーザーがさらにモバゲーを使い込むことになる仕掛けも見える。
アバターは、ゲーム時やサークルでの発言時など、モバゲー内で活動する時には必ず表示される。アバターが自分自身を表現する役割を果たしているわけだ。会員登録初期のアバターの服装はかなりシンプルで、悪く言えばみすぼらしい。現実でも他人の目は気になるものだ。分身であるアバターを自分らしく着飾りたいという感情は自然であり、そこで多くのユーザーは仮想通貨「モバゴールド(モバG)」を貯めてアバターを着飾るアイテムを購入することになる。
アバターを磨くのに必要な要素はお金だけではない。購入できないもの、いわゆるレアものが用意されており、それらはアイテム合成やランダム要素での入手となる。特にアイテム合成の場合、ある特定の組み合わせでレアアイテムになるため、モバゲーユーザーの間にはレアもの関連情報の交換を通じた交流の活発化も生じる。実際、サービス開始当初に立ち上げられたサークルは、ゲームの攻略情報のほかに、アバター情報を交換するためにできたものが多かったという。
無料ゲームでユーザーを集めて、SNSでの情報交換を通じて人間関係を築かせ、交流を通じてアバターを着飾らせる――この仕掛けこそが、10代がモバゲーにハマる理由なのだ。
次回以降は、この基本的な仕掛け以外に10代がモバゲーにハマる仕組みと、10代の使い方についてお伝えする。
著者プロフィール:高橋暁子
小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、『660万人のためのミクシィ活用本』(三笠書房)、『ミクシィをやめる前に読む本』(双葉社)などの著作が多数ある。ネットと教育関係やSNS関連などをテーマに多数連載中。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、"人"が関わるネット全般に興味を持つ。ブログはこちら