「プロフ」というケータイやPCで自己紹介ができるサービスが流行っている。プロフの中でも最大のユーザー数を誇る「前略プロフィール」を運営する、楽天の濱野斗百礼氏(執行役員 インフォシーク事業長)と前田靖幸氏(インフォシーク事業部コミュニティ事業部部長)に、プロフでのコミュニケーションについて聞いた。
ユーザーは10代がメイン
「前略プロフィール」は、メールアドレスがあれば誰でも登録できる。写真の掲載、「HN(ハンドルネーム)」「性別」「誕生日」「住んでいるところ」「前世」「世界平和に必要なのは」などの60項目以上の質問に答えていくことで、簡単に自己紹介ページが作れるというサービスだ。2005年に開始されて以来、中高生を中心に爆発的に利用が広がり、最近では多くの企業で同様のサービスが開始されている。
ユーザーの年齢層は17歳が一番多く、15~19歳までが9割を占める。10代がほとんどで、20代以上のユーザーはほとんどいない。高校卒業や、PCに接する機会が増えたことなどをきっかけにやめることが多いそうだ。ケータイとPCのユーザー比率は8:2。携帯電話での利用が320万人、PCからの利用も合わせると400万人に上る。アクセスは深夜帯23時から25時くらいに集中する。また、休みの日、特に春休みにアクセスが伸びる傾向にあるという。ある休日などは、モバイルだけで5,500万PV、PCと合わせて合計6,300万PVを記録している。
当初は、キャバクラ嬢やホストが利用し始めて火がついた。やがて一般的な20代が使うようになり、2006年3月にケータイ通信の定額制サービスの提供が開始されると、徐々に中高生にも利用が広がっていったという。「まさか10代の利用がこんなに多いとは思いませんでした。初めは『タバコを吸うか』という質問項目があったくらいですから」(濱野氏)。10代のユーザーがメインとなったので、この項目は2007年に削除したそうだ。
目的は出会い系ではなく「自己PR」
「前略プロフィール」では2007年8月にユーザーからアンケートを集めたことがある。1カ月の集計期間を想定していたが、わずか4時間ほどで3,000件もの回答が集まってしまった。それだけアクティブなユーザーが多いということだ。そのアンケートによると、ユーザーの9割が女性だったという。「全体に真面目な回答が多かったですね。プロフを使う目的についてフリーワードで書いてもらったのですが、出会い目的は0.2%程度。自己PRのためというのが一番多かったです。また、要望として多かったのは、業者の書き込みの排除でした。業者はPCから書き込んでいると推測しているので、モバイルとPCは別物にして業者対策を考えています」(前田氏)。
ユーザーはプロフを名刺代わりに使う。ブログやSNSのようにすべての人に見てもらうために書くのではなく、身近な人にアプローチするために書いているのだ。10代のユーザーは二人で写真を撮り、「ニコイチ」と称してプロフに掲載し、二人が親しいことを学校のクラス内にアピールするという。やはり10代の中高生は行動範囲が家と塾の間くらいという人も多く、大人が思っているよりは生活エリアは閉鎖的で自由がないものだ。交友関係を第三者に見せることで、自分の立ち位置を定めるツールとして使っているようだ。
プロフがここまで広まった理由について、前田氏はこう推測する。「プロフなら簡単に自分をアピールできるからではないでしょうか。大人と同じでホームページを持ちたいけれど、PCを持っていないので、ケータイでも作れるプロフを選んでいるのだと思います。今後PCを使ってホームページを作ったりSNSをしたりする前段階なのでしょう」。
ゲストブックで「からむ」
ユーザーは、知らない人のプロフもあちこち見て回る。他人のプロフに訪れたらあいさつ代わりにゲストブックに書き込めるが、ただ閲覧しているだけのケースがとても多い。プロフによく書いてある「からんでください」というのは、ゲストブックに書き込みをすることだ。中高生は一言コメントを書くだけだが、人によっては詩を書くなど、100行くらい書き込む人もいるという。
ユーザー同士は、コメントにレス(返事)をつけるのではなく、お互いに相手のゲストブックに書き込み合う方法を採る。自分のゲストブックに書かれたコメントのレスを、相手のゲストブックに書き込むのだ。なので、一方のゲストブックを見ているだけでは話がつながっていないことも多い。「ゲストブックはメッセージのWeb版みたいなもので、掲示板ではないですね」(濱野氏)。
個人情報を出し過ぎてしまうユーザー
10代のユーザーは、"プロフは身近な友人に見てもらうために書く"という意識の人が少なくない。そのため、インターネットがオープンな場であることも意識せず、本名/住所/メールアドレスなどのパーソナルな情報を出してしまうことがある。そこで最近は、サイトのトップページ上に注意を表示するようにしているそうだ。「システムなどで制限するよりも、インターネットはオープンであると認識してもらうように努める方針」(前田氏)という。
プロフには以前メールアドレスの記入欄も存在した。ホームページの「連絡先はここ」みたいなつもりで設定したのだ。ところが、実際は予想に反してケータイからの利用者が圧倒的に多かったことから問題が起きた。「PCのメールアドレスなら記入してもらってもいいだろうと考えていたのですが、ケータイユーザーの場合、電話番号=メールアドレスという人も多かったため、(事実上の電話番号の公開に当たることから)昨年になってメールアドレスの項目を削除しました」(濱野氏)。
また、本人認証はしていないため、本人以外が"なりすまし"てプロフを作るケースも多々発生。勝手にメールアドレスなどの連絡先をプロフに書かれてしまったというトラブルも報告されている。業者が多いのも事実だ。質問項目にあまり答えていないケースほど業者の確率が高い。特に、答えをきちんと書かずにリンクだけ設定されている場合は、業者の可能性を疑ったほうがいいそうだ。
つながらないサービス
アンケートによると、ユーザーは「モバゲータウン」(※)を併用する人も。回答者の2割はモバゲー経験者だった。モバゲーは"バーチャルなつながり"を提供するサービス。プロフは"リアルな情報を書く"サービスだが、"つながり"はない。一部のユーザーは"バーチャルな自分"と"リアルな自分"を、性格のまったく異なる両サービスによって使い分けているのかもしれない。
「プロフはつながらないサービスです。SNS風だと言われますが、ミニメールが送れるなどの機能もなければ、足あと機能もありません。ID検索をすれば世界中から見られますが、ゲストブックを書き込み可としなければ、誰が見ているかもまったく分からないのです」(濱野氏)。
※「モバゲータウン」(モバゲー)は、ディー・エヌ・エーが運営するケータイ向け無料ゲームコミュニティ。ユーザーはアバター(分身)を使ってモバゲー内のゲームや他のユーザーとの交流を楽しめる。なお、規約上、実際の個人情報などを交換することはできず、モバゲー内ではバーチャルな関係を構築する場とされている。2006年2月にオープン、会員数1,000万人を超える。
「自己主張できる」高校生に人気のプロフ
本連載にあたり話を伺った某公立高校の情報教育担当教諭は、実際に生徒たちの間でもプロフは広がっていると話す。「高校に入ってプロフに目覚めた子が多いですね。友達付き合いの派手な子の間でクチコミで広がったようです。ただ、私の担当生徒たちには、情報教育の授業の中で、プロフの個人情報が漏れて事件につながったケースも紹介しています。ちょっと脅かしたせいもあって、おとなしい子やマジメな子は(プロフを)やっていませんね」。教諭が担当する生徒100名にアンケートをとったところ、プロフの利用経験者は56名と半数を超えた。
プロフにネガティブな印象を持つ生徒は2割。逆に好印象を持っている生徒の中では、その理由として「新しい友達ができる」「みんなと交流ができる」「自己主張ができる」「みんなの書いたことが見られる」というものが挙げられた。楽天の主張とほぼ同じ結果と言えるだろう。一方、プロフに否定的な意見としては、「個人情報が漏れる」「犯罪に巻き込まれる」「中傷が多い」「出会い系っぽい」というものが多く見受けられた。教諭が実際に危険性を教えていることもあり、一般的にプロフで問題とされることが生徒たちの間でも問題視されているという結果になった。
10代のウェブ版名刺「プロフ」のことが分かっていただけただろうか。閲覧も作成も簡単なので、話のタネに自分で作ってみると、案外新しい体験を楽しめるかもしれない。
著者プロフィール:高橋暁子
小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、『660万人のためのミクシィ活用本』(三笠書房)、『ミクシィをやめる前に読む本』(双葉社)などの著作が多数ある。ネットと教育関係やSNS関連などをテーマに多数連載中。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、"人"が関わるネット全般に興味を持つ。ブログはこちら